ケモホモ短編

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クサいものほどオイシい

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「焼き鳥盛り合わせおまたせしました!」
 ビールと焼き鳥ってのはなんでこんなにも合うんだろうな。
 焼き鳥に限った話ではない。焼肉でも、魚でも、餃子にだってベストマッチ。それだけビールの汎用性は高いのだ。
 ぼくは飲み会が好きではない。いや、もっと踏み込んでいってしまえば、むしろ嫌いな方だ。テーブルの上に並んだ空ジョッキ達を見ての通り下戸ではない。ビールに限らずお酒は好きだ。そして会社での人間関係に問題を抱えているわけでもない。
 嫌いなのは「飲みニケーションをしてこそ仕事が上手く回る」だの「みんな飲み会をしたいと思っているハズだ」といった古くさい考え方だ。そりゃあぼくだって飲み会の場になればそれなりには楽しめるし、普段あまり会話のない上司や先輩方とも打ち解けられるから一定の効果があることは認める。だけど、こんなことをいうと根暗の発想だと思われるだろうが、大人数でワイワイ騒ぐ以上に、自宅でひとり静かに本を読んだりゲームをするほうが楽しいのだ。もっとも「ゲームしたいから忘年会は不参加で」なんていおうものなら社会不適合者の烙印を押されてしまうのだろうけれど。
「なあ須藤、レバーもらっていい? ネギマと交換で!」
 好物は一番先に食べるタイプのこのオオカミは、ぺろりと自分の分のレバーを平らげてからぼくに商談を持ちかけた。
 もう十年来、いやもっとか? 小学生の頃からこんな調子だったのだから、今更わざわざ断りなんぞを入れなくてもいいのに。変に律儀なトコロあるよなあ。
「はいはいどうぞ。ネギマのおいしさがわからないなんて可哀想なこって」
 獣人についてあまり詳しくはないが、ネギやタマネギを食べられないというのは与太話らしい。上月こうづきは見た目こそ、そのまんま二足歩行のオオカミではあるが、オオカミの性質をまるっきり引き継いでいるわけではない。なんだっけ、収斂進化といったか、全然系統の違う生き物が似たような形質になることがあるらしい。だからコイツがネギを食べないのは単なる好き嫌いだけの話。
「よっしゃ! やりい!」
 ブンブンと振られた尻尾が埃を巻き上げて、通りがかった店員が迷惑そうに顔をしかめる。
 前言撤回。少なくとも目の前のコイツに限ってはオオカミ、いやイヌ丸出しだ。
「上月、おまえなあ」
 呆れてため息をつくぼくの心中はこれっぽっちも伝わっていないらしい。心底嬉しそうに開かれた大口の中に並んだ白い山脈。上下左右にそれぞれ鎮座する犬歯。幼い子供ならともかくとして、いい大人が人前で牙をさらけ出すのはマナー違反だ。高級フレンチだったら叩き出されてるぞ。

「いやー、食った食った。なあスドー。この後なんか予定ある?」
 上機嫌ではち切れそうな腹をさすって舌なめずり。
 よくいえば飾りっ気のない自然体なのだが、つまりはガサツで無頓着。でも決して悪いヤツじゃない。でなきゃ二人で飲みに行こうなんて考えないし。
「別にないけど。なんで?」
 こんなとき、もっとノリよく返せたらいいのに。誘ってもらえて嬉しいくせに、素っ気ない返事をしてしまう自分が嫌いだ。
「駅前に出来たスーパー銭湯行ってみようぜ!」
 少しだけ、ほんの少しだけドキッとしてしまう。上月の裸なんて小さい頃に飽きるほど見たはずなのに。なにも友達を性的な目で見ているわけじゃない。でも、ぼくは男が好きなんだ。少しくらいは意識してしまう。
「う、うん、いいけど」
「うっし。目標、スーパー銭湯華の湯。いざしゅっぱーつ!」
 駅前の方角を指さして高らかに宣言してみせる。なんだよそれ。まったく暢気なもんだ、ぼくの気もしらないで。
 いつだったか、ネットの掲示板だかで「ホモって、オレらが堂々と女湯に入れるようなもんだろ? それって天国じゃん!」なんて書き込みを見たことがある。ひとによっては当てはまるかもしれない。けど、そんな単純な話ではない。まず第一に、男なら誰でも良いってわけじゃない。ぼくにだって好みがある。そりゃまあ、顔が好みでなくとも、アソコが大きいとか、いい形だなって思ったりはするけど。次に、見慣れてしまっているということだ。小さい頃から銭湯なんて何回も行っている。コッチに目覚めたての頃は確かに、少しばかりはそういう気分になったりもしたけれど、なんというか、ある種のスイッチみたいなものがあるのだ。エッチな気分と、そうでない気分を切り替えるスイッチが。銭湯にしろ、学校のプールにしろ、トイレで連れションするにしろ、男同士、モノを見る機会というのはそれなりにあるのだ。そこでいちいち興奮して勃起させてしまうなんてことはできない。ノンケが初めて見る女湯とは、根本的に異なるのだ。
「うわ……けっこう混んでるね」
 予想外。たかだか銭湯、ショッピングモールやゲームセンターと違って何時間も滞在するものでなし、オープン初日を除いては比較的空いているものだと思っていた。
 それがどうだ、脱衣所には老若男女……いや、男湯だから老若男か? ともかくごった返している。脱衣所でこの状態なのだから、湯船なんて芋洗い状態なのは必至だろう。
「ロッカーどこも満杯だな」
 第一関門。空きロッカーを探せ。とにもかくにも服を脱がないことには始まらない。このままここで裸の男達を眺めながら待ちぼうけは勘弁だ。ほんのりと湿った暖かい空気がまとわりついて、温室栽培のビニールハウスに閉じ込められたようだ。トマトになるのはまっぴらだぞ。
「おっ、幸一! こっち空いたぞ!」
 思いがけず下の名前を呼ばれて身体がビクリと硬直した。笑顔で手招きするオオカミに、なんとなく気恥ずかしさを覚えてしまう。
「上の段使っていいから」
 上下二段に分かれたロッカー。いやいや上の段使いなよ、悠長にそんな押し問答をしている場合でもない。とっとと着替えてお湯に浸かりたい。
「しっかし、冬場は冬場で厚着するから結構汗かくよね」
 蒸し暑い脱衣所で待たされたのなら尚更だ。ズボンを脱ぐと、どこからかそよいできた扇風機の風がすねの毛を撫でた。
「んー……くんっ、確かに、結構ニオうな」
 こともなげに返事するオオカミ。パンツ一丁になったぼくの足元にかがみ込んで、いやそれ自体はロッカーの位置によるものだから当然、必然、仕方ない。だが問題なのは、オオカミの頭の高さにぼくの股間が位置していて、鼻先を寄せてクンクンと匂いを嗅いでいること。
 まてまてまて、なにしてんの? わあ、ホントに汗臭いよね! なんてなるわきゃない。
「お、おいっ!」
 オオカミは未だに興味深げに鼻を鳴らしている。
「なっ、なにやってんだよっ」
 周りの客に気付かれまいと、小声で訴えかけるも何処吹く風だ。
 やめろバカ。ダメだ、入ってしまうだろ、変なスイッチ。こんな公衆の面前でなんてコトするんだコイツは。
「お? なんかおっきくなってきたな? それに匂いもつよく——ギャンッ!」
 振り下ろしたゲンコツに一拍遅れて響く鳴き声。何事かと振り返る面々。
「さ、さき入ってるから! バカ!」
 タオルで股間を隠して前屈みで歩く姿はさぞかし滑稽だったことだろう。

「……なあ」
 大浴場はもちろんのこと、露天風呂だって、サウナだって岩盤浴だって楽しみたかったのに。
「なあってば、幸一」
 結局、烏の行水とばかりにせわしなく出てきてしまった。じっくりと日頃の疲れを落としたかったのに。
「なんで無視するんだよお」
 でも、なんだかんだでいつものように宅飲みにもつれ込んでしまった。
「は、恥ずかしかったっ!」
 そういって睨み付けても、当のオオカミはピンときていないらしい。
「さっき、お風呂で……その、変なトコロ嗅いで」
「お? ああ、蒸れたらどうしても匂っちまうよなあ? 男同士だし気にすることねえって」
 違う違う、そういうフォローはいらないから。臭いかどうかなんてどうでもよくはないけど、今はそういうはなしをしているんじゃない。
「それだけじゃなくてっ! 居酒屋でも、料理出てきたらクンクン嗅いでたでしょ」
 いくらオオカミの獣人だからといっても、いい大人なんだぞ。小さい頃からの癖なのかもしれないが、なんでもかんでも手当たり次第に嗅ぎ回られるとたまったもんじゃない。
 もちろん、今に始まったことではない。それに親が子供にいうならともかく成人した相手に対してこんなことを指摘するのは憚られる。たとえ食事の席で、相手の偏食が激しくて野菜を全部残していようが、箸の持ち方が汚かろうが、内心どう思うかは別として、面と向かって押しつけがましく注意なんてしない。
「そ、そりゃあいい匂いだからな。別にフツーだろ」
 だからこれが、自分が恥ずかしい目にあわされたことへの八つ当たりみたいなモノだってのはわかっている。
「じゃあ、ぼくが上月の匂い嗅いでも、いいんだよな?」
 予想外の角度から飛んできたボールにぎょっとした顔。
「普通なんだろ? なら、いいよな」
 誓っていうが、ぼくにそういう趣味があるわけじゃないぞ。これは教育的指導なのだ。目には目を、歯には歯を。ハンムラビ法典だっけか。口でいってわからないなら、その身をもってわからせるしかない。やましい気持ちなんてこれっぽっちも、いや、ちょっとだけしかないんだから。
「だ、だからって、その、パンイチになる必要あんのかよっ!」
 あるとも。恥ずかしい目にあってくれなきゃ意味が無いんだから。これはあの脱衣所の再現なのだ。
 居心地悪そうに耳をパタパタ跳ねさせるオオカミの前でしゃがみ込む。股の間から力なく垂れ下がっている尻尾がわずかに動いた。顔を上げると、逆光の影の中で光る金色の瞳がぼくを見つめている。
「……くさい」
 虐めてやろうと、仕返しをしてやろうとその言葉を発したわけではない。率直な感想。自ら覚悟して嗅いでもこれなのだ、いきなり嗅がされたら顔をしかめてしまうだろう。汗臭さとは少し違う。ついさっき入浴したばかりなのだから、一日蒸された匂いであるはずがない。まあ人間に比べれば圧倒的に多い被毛があるから体臭があるのは仕方ないのかもしれない。それに、体臭をネタにして弄るのは極めて不道徳ではある。
「さっきちゃんと洗ったの? すっごいニオイだけど」
「う、うう、うるせっ! なら嗅ぐなよっ!!」
 相手が上月でなければこんなこといえるはずもない。もし彼が本気で嫌がる素振りを見せたら即座にやめよう。
「特にココ。オオカミってみんなそうなの?」
 いつも脳天気で図太い神経の持ち主が見せるしおらしい表情に、ぼくのなかの嗜虐心、いや下心というべきか。ともかく欲望の類いが次から次へと溢れてきて、アルコールの作用だけでは説明のつかない陶酔をもたらす。
「上月のちんぽ……」
 小さな呻きと唸り。そして鼻息。ぼくだってこんなこと口に出すのは恥ずかしいんだぞ。
「なっ、なに、いって……わっ!?」
 すかさずパンツをズリ下ろすと露わになる局部。薄い布地を押し上げていた様子から察してはいたが、既に血が集まって半勃ちの状態だ。嫌悪感を丸出しにして拒否されたらという心配は無用だった。
「すごっ……大きいね。それに」
 お互い大人になってからも、泌尿器としてのそれは何度か見たことはある。だがいま目の前に対峙しているモノは生殖をするための準備を整えようとしている。性行為を、そして射精への渇望が一目瞭然の説得力をもっている。
「エッチなニオイでおいしそう」
 脈動するオオカミのちんぽに鼻先を近づけていくと、鼻腔内を刺激する雄の香り。正直なところ臭い部類だ。食事中に嗅がされたら箸を置いてしまうことは間違いない。
「は、はあっ!? お、お前、アタマおかしいんじゃねえの……」
 そりゃどうも。ごもっともな意見だ。普通に考えれば、ちんぽの匂いから「おいしそう」なんて感情はわいてこないだろう。無論、本当にカニバリズム的な考えがあるわけでなく、比喩ではあるのだが、どうしてか口に含みたいと思ってしまう。悪態をつきながらも、すっかり勃起させてしまい、先走りさえ垂らしている上月のちんぽだからこそ、食べたいのだ。

「ねえ、ちんぽ食べてほしい?」
 ブンブンと頭を縦に振るオオカミ。素直でよろしい。
「どうして欲しいか、ちゃんといって?」
 もどかしさが腹の底から重低音の振動となって伝わってくる。
「たっ、たべ……て」
 主語と述語、小学生でも知ってるぞ。
「そっ、その、つまり、アレを、だな」
「アレって、もしかしてエッチなオオカミちんぽのことかな?」
 自分でいっておいて小っ恥ずかしい。こんな馬鹿げた単語を口に出さずとも、とっとと口にくわえてしまっても良いのだ。しかしそれじゃあただ友達にフェラしてあげましたってだけだろう。一応は、そもそもの名目は、このオオカミを恥ずかしがらせることだ。死なば諸共。ここで自分が羞恥心を出して中途半端にしてしまったら元も子もない。
 未だに言いよどんでグルグルと唸るオオカミを焚き付けるために、大げさに鼻を鳴らして匂いを嗅いでみせる。
「え……っと……え、えっ、エッチな、ちん……オオカミちんぽ、たべ、て」
 パンパンに張り詰めたちんぽの先端からビュッと我慢汁が吹き出して鼻先に直撃した。立ち眩みに似た感覚。ぼくもこれ以上は我慢できない。
「うん。エッチなオオカミちんぽ、もぐもぐしちゃうね?」
 ちゅっ、ちゅうっ。かぷっ。
 次々に染みだしてくる我慢汁がこぼれてしまわないように、亀頭に口づけをして尿道に溜まったものを吸い出してから大きく口を開ける。
「あっ、ああっ、あ……っ!」
 人体は小さな海に例えられることがあるが、大抵の体液と同じくほんのりと塩辛い。歯を立ててしまわないよう慎重に口内へとちんぽを招き入れ、舌先でつついてみるとブニュッとした弾力の中に堅い芯をもっている。
 更に奥へと、アダルト動画でやっていたように根元まで咥えようと飲み込んでいくも、これは苦しい。サイズ的には巨根って程ではないはずだ。それなのに顎は外れそうだし、口の中はいっぱいいっぱいで喋る余裕なんて全くない。
「きもちい……はあっ……気持ちいい……ちんぽもぐもぐすごいぃ……」
 ぐぼっ、にゅぶ、がぽっ、ぐぶぶっ。
「んごっ、ゲホッ……んっ、オッ……」
 まて、まって! 苦しいって。いや動画だと余裕ぶった表情でジュポジュポして、小説なんかだと味がどうとか匂いがどうとかいってたじゃん! えずいてしまわないように堪えていると、生理的な反応からか視界が滲んで鼻水も垂れてくる。きっと涎だって出ているだろう。ちょっとタンマ。一回止めて落ち着こう、な? そんな願いを込めてオオカミの太ももをタップした。ギブ! ギブアップ!
「こういちぃ……なっ、なあっ!? ちんぽおいしいよなっ? ああー……ちんぽ、口の中でとけそう……」
 にゅぽっ、ぬこ、にゅっぽぐっぷ。
「ウエッ! グッ、げぷ……や、やめっ、まっ!」
 なにを勘違いしたのかバカオオカミは一人で盛り上がって、ぼくの頭を掴んでグイグイとちんぽを押しつけてくる。自分から言い出したという負い目を抜きにして、引き離そうともがいてみるも時既に遅し。バカオオカミのちんぽで口は塞がれ、鼻もズビズビと鳴るだけでマトモに酸素を取り入れてはくれない。まずいぞ、ちんぽに溺れて窒息する。口内を往復するちんぽの水音をききながら意識が遠のいていく。
「んっ、んっ、も、もうイキそ……口の中でちんぽピュッピュしちゃうう……飲んで! ちんぽミルク全部飲んでっ!」
 びゅぶっ。びゅっ、びゅーっ! ぴゅっ、びゅる。
 飲むも飲まないも、口蓋垂の向こう側にちんぽを差し込まれてしまっては拒否する術なんてないのだ。
 胃の中に直接注ぎ込まれる精液を半自動的に飲み下しながら、気道に入らなくてよかったと安堵を覚えた。

「わ、悪かったってえ」
 しょんぼりと耳を伏せて両手を合わせてみせる。なんだよ、ぼくはお地蔵さんじゃないぞ。
「お返しに、幸一のも、その、飲むからさ?」
 へいへい律儀なこって。
 黙ったままでいるとそれを了承と捉えたのか、へたり込んだままのぼくに四つん這いでにじり寄ってくる。自分では苦しいばかりで性的な興奮には至らなかったはずなのに、痛いくらいに勃起して、テントの先には染みまでできていた。死に直面すると子孫を残そうとする本能みたいなヤツだろうか。それを、自身のモノを咥えるコトでぼくが興奮したと思い込んでいるバカオオカミは、へらりと笑ってから嗅いでみせる。
「……ニオうんじゃなかったのかよ?」
 照れ隠しに憎まれ口を叩いてみると、ふふん、と得意げに指を立てる。
「クサいものほどオイシいってな!」
 なんだよそれ。
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