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3.女3人寄れば
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『お元気ですか? 卒業以来、キャサリン様のお顔を拝見できていないので、とても心配しております。ぜひ、お茶会にいらしてください』
そんな趣旨の手紙を受け取ったのは、悠々自適な自宅ライフを始めて暫く経った頃。近況を伺う興味本位な便りはたくさん届いていて、お茶会への誘いも多々あったけれど、「傷心」を匂わせて丁重に断り続けていた。この招待を同様にあしらわない理由は、その差出人にある。
セシリー・ミルブローズ。私の、学園時代の、数少ない友人だ。ちなみに同じくらい仲の良い、もうひとりの友人が、ミア・ローレンス。
「学園時代は、毎日話していたものね」
ゲームのプレイヤーならば、きっとセシリー達のことを、「キャサリンの取り巻き」と呼ぶだろう。私達は、いつも一緒に居たから。
実際のところ、「取り巻き」というような上下関係はなくて、私達はただ気が合ったから、仲良くしていた。辺境伯家のセシリーや、公爵家のミアは、お互い似たような教育を受けていて、話が合ったのだ。
学園の女生徒の多くは、婚約者が居ても居なくても、自分より身分の高い男性を射止めようとぎらぎらしていた。男性も同様で、そうした男女の茶会やパーティは、勉学の合間を縫うように頻繁に行われていた。その点、私達は自分より身分の高い男性などそうそう居ないし、親が決める婚約以上のものはあり得なかったから、その雰囲気に馴染めなかった。なんとなく浮いた者同士、一緒に居るうちに、仲良くなったのである。
セシリーは、卒業後は然るべき時を待ち、領地に接した隣国の公爵家に嫁ぐことになっている。嫁入り支度等のため、領地へ帰る時が近づいて来ているから、その前に3人でお茶会をしないか、という誘いの手紙であった。
「それはいいわね、行っておいで」
果たして私が友人との親交を温めるためであっても、社交の場に戻ってよいものか。社交界でその存在感を遺憾なく発揮している母に相談すると、あっさり了承を得た。いつまでも家に籠っている訳にもいかないし、友人との交流を契機に、少しずつ復帰していけば良いのではないかということだ。
あの衝撃の卒業パーティから時が経ち、春も盛りになってきた。庭の緑が柔らかく膨らみ、色とりどりの蕾が花開こうとしている。期待感に満ちた季節。私も、たしかにそろそろ一歩、踏み出しても良いと思った。
「春らしくて、良い色ね」
「お似合いです」
久しぶりに鏡に映る、めかしこんだ自分を見る。茶会用のドレスは、フリルがたくさんある、それでいて下品ではない若草色のもの。アップにした髪には、白い小花を散らしてもらった。母と同じ金の髪に、儚げな花がよく映えている。
リサも褒めてくれたが、こんな風にして見ると、我ながら様になるものだ。きゅっと締め付けたウエストに、その上下でふわっと膨らむ女性的な体つきといい、華奢な手足といい、如何にも貴族の娘という出で立ちである。
唇を春らしい淡いピンクで塗ると、顔色が明るくなる。これならば、久しぶりに会うセシリーとミアを、心配させることもないだろう。
「おねえさま、出かけちゃうの?」
心配するとしたら、弟のリアンだけ。鏡越しに私の様子を伺い、わかりきったことを、おずおずと質問してくる。
「出かけたら、また帰ってこないの?」
何しろリアンが生まれた頃には学園に通っていた私は、週末が終わるたびにこんな風に装いを整え、寮へ向かっていたのだ。漸く長いこと一緒に居られるようになったのに、またずっとひとりなのか。そんな不安が手に取るようにわかって、私はリアンに振り向き、母譲りの金髪をくしゃっと撫でてあげた。屈み込み、視線を合わせる。
「帰ってくるよ。今日は友達とのお茶会に出たら、戻ってくるから。リアンはお勉強がんばってね」
「おみやげは?」
「買ってきてあげる。さあ、ノアが待ってるわ、いってらっしゃい」
「はあい!」
いつもの明るい表情を取り戻したリアンは、飛び上がるような勢いでくるっと振り返り、授業へと向かって行った。
「ーーということがあったの。今日、家を出るとき」
「キャサリンは、リアン様と仲が良いのね」
「そうね、最近ずっと家に居たから、よく遊んでいたのよ」
卒業以来の邂逅は、しかしそんなに間が空いたという感じはせず、学生時代のまま、和気藹々と始まった。本来ならお互いにもっと丁寧な言葉遣いで話さなければならないのだけれど、ここにいるのは友人同士の皆だけ、だからこんな風に、気楽に話ができるのだ。
今日のお茶会の主人であるセシリーが、穏やかな手付きで紅茶を注いでくれる。温かな湯気と、甘い紅茶の香りにほっとする。肩肘張らなくて良いこの感じが、ほんとうに嬉しい。
「でも、良かった。あんなことがあったから、落ち込んでるんじゃないかって、心配してたのよ。元気だったのね」
控えめなセシリーとは対照的に、黄色いドレスのよく似合う、活発な印象のミアは、向日葵のように笑顔を広げてそう言った。そのままぐっと身を乗り出し、悪戯っぽい光を瞳に浮かべて、台詞を続ける。
「元気そうだから聞くけど、ベイル様とのあの一件は、どういうことだったの?」
「ちょっと、ミア、そういうことはーー」
「大丈夫よセシリー、気になるのは当たり前だわ」
私だって、その話は間違いなく聞かれるだろうとわかっていて、この場に来ている。あの展開がゲームにおける必然的な流れであったと理解してからは、ベイルとアレクシアのことを考えても、婚約破棄の件を思い出しても、傷つくことはない。だから、話すのだって、別に苦ではない。
「でも、私にも話せることはあんまりないの。あのときベイル様は、私が嫌がらせをしたから婚約破棄をすると仰っていたけれど、心当たりがないのよ。なんだかよくわからないことを根拠に、婚約破棄を言い出されたって感じ」
私が嫌がらせをしていたのなら、一緒にいたセシリーやミアが、無関係なはずがない。そしてふたりにも当然そんな心当たりはないのだから、揃って「そうよねえ」と頷いた。
「ごめんねキャサリン、こんなこと聞いて」
「セシリー、本当に気にしてないの。家でも、婚約破棄されたおかげで暫く皆と過ごせるって、喜んでいるくらいだから」
「なんだかーー不思議ね。キャサリンはあんなに、ベイル様のことが好きだったのに」
セシリーが青い瞳で私を見つめる。やや下がった眉尻が、無理をしているんじゃないかと、心配する気持ちを表している。私は努めて明るい表情をし、肩を竦め、「割り切るしかないもの」と言った。
「キャサリンがベイル様のことを気にしていないのなら、良かったわ。あの方、国王陛下にも相談せずにあんな場で婚約破棄なんて言い出してしまったから、先行きが不安だもの」
「そうなの?」
「そうよ。国王陛下もお怒りで、危うく王族から外れなくてはならなくなるところだったそうだわ」
ミアは、訳知り顔でそう話す。王族のことにミアが詳しいのは、彼女こそがベイルの兄であるところの、王太子の婚約者であるからだ。
オルコット公爵家が、王国建立時に功勲をあげた貴族であるならば、ミアのローレンス公爵家は、かつての王家の分流というか、王族の血を引く家系である。
王族の血を薄めない、という意味合いもあるそうで、王太子の婚約者は王族の血を引く一家から出るようになっている。
私がベイルと結婚すればミアとは義理の姉妹になるはずで、お互いそれを楽しみにしていたのだ。
「せっかく、キャサリンと姉妹になるのを楽しみにしていたのに」
「私ばかり仲間はずれにしようとするから、そうなったのかもしれないわ」
「セシリーの言う通りね。ミアと私だけ姉妹なんて、だめだったんだわ。私達は3人で、一緒にいるんだから」
「キャサリンまで、そんなこと言って!」
軽口を叩き、やがて、誰ともなくくすくすとした笑いが広がる。大した話もしていないのに、些細なことがおかしくって、皆で笑い合う。学生時代と変わらない和やかさに、なんだかすごくほっとして、私も自然と頬が緩んでしまった。
女三人寄ればとはよく言ったもので、そのあと話は行ったり来たり、学園の思い出話や、セシリーの婚約者の話、ミアの王妃修行など、それぞれに盛り上がり、あっという間に時間は過ぎる。
会がお開きになろうとしたとき、出発前、リアンにお土産を約束したのを思い出した。
「このお菓子、リアンへのお土産に、少し包んで行っても良い?」
「それならキャサリン、新しく作らせたものを差し上げるわ」
「いいの、セシリー。お気遣いなく。リアンはきっと、私と同じものを食べるのを喜んでくれるから」
トレイに載ったお菓子からいくらか頂き、ナフキンに包んで側に控えていたリサに持たせる。その様子を見ていたミアが、「私もお土産を持って行こうかしら」と呟く。
「そういえば、ミアも弟がいるのよね」
「ええ。今年学園に入学したから、リアン様よりはひとつ大きいけれど。家族にお土産を持って帰るって、なんだかいいわね。セシリー、私もこれ、少し頂いてもいい?」
「もちろんよ。喜んで頂けて嬉しいわ」
結局、私とミアはそれぞれにお菓子を分けて貰って、帰ることになった。
「またね、セシリー」
「ええ。手紙を送るわ」
これからセシリーは、領地へ帰ってしまう。とても遠いというわけではないが、今までのように、気軽に会えることはなくなる。
いつもと変わらない、柔和なセシリーの笑顔。この表情をこんなに近くで見られることが、もう暫くないなんてーーあれ、急に寂しい。考えると胸がきゅっと締め付けられ、その勢いで、目尻に一粒涙が浮かんだ。
「私、セシリーに会いに、絶対に行くわ!」
「いいわね。嫁入りまでまだ暫くあるでしょう? キャサリンと一緒に、会いに行くわ」
「言ったわね? 楽しみにしてるわ。そのときは案内してあげる。私も、折々に戻ってくるつもりだから、そのときはまた、こんな風に」
3人で話しましょうね、と約束して、お茶会は解散した。帰りの馬車の中、久しぶりに会った友人との会話を思い出して、私はほかほかとした気持ちでいた。やはり、持つべきものは友だ。たった数刻の間で、身体中に新しいエネルギーが満ちたように感じる。
セシリーの家の料理人が作ったお菓子は、私の手作りよりずっと美味しく、リアン達に喜ばれたのは、言うまでもない。
そんな趣旨の手紙を受け取ったのは、悠々自適な自宅ライフを始めて暫く経った頃。近況を伺う興味本位な便りはたくさん届いていて、お茶会への誘いも多々あったけれど、「傷心」を匂わせて丁重に断り続けていた。この招待を同様にあしらわない理由は、その差出人にある。
セシリー・ミルブローズ。私の、学園時代の、数少ない友人だ。ちなみに同じくらい仲の良い、もうひとりの友人が、ミア・ローレンス。
「学園時代は、毎日話していたものね」
ゲームのプレイヤーならば、きっとセシリー達のことを、「キャサリンの取り巻き」と呼ぶだろう。私達は、いつも一緒に居たから。
実際のところ、「取り巻き」というような上下関係はなくて、私達はただ気が合ったから、仲良くしていた。辺境伯家のセシリーや、公爵家のミアは、お互い似たような教育を受けていて、話が合ったのだ。
学園の女生徒の多くは、婚約者が居ても居なくても、自分より身分の高い男性を射止めようとぎらぎらしていた。男性も同様で、そうした男女の茶会やパーティは、勉学の合間を縫うように頻繁に行われていた。その点、私達は自分より身分の高い男性などそうそう居ないし、親が決める婚約以上のものはあり得なかったから、その雰囲気に馴染めなかった。なんとなく浮いた者同士、一緒に居るうちに、仲良くなったのである。
セシリーは、卒業後は然るべき時を待ち、領地に接した隣国の公爵家に嫁ぐことになっている。嫁入り支度等のため、領地へ帰る時が近づいて来ているから、その前に3人でお茶会をしないか、という誘いの手紙であった。
「それはいいわね、行っておいで」
果たして私が友人との親交を温めるためであっても、社交の場に戻ってよいものか。社交界でその存在感を遺憾なく発揮している母に相談すると、あっさり了承を得た。いつまでも家に籠っている訳にもいかないし、友人との交流を契機に、少しずつ復帰していけば良いのではないかということだ。
あの衝撃の卒業パーティから時が経ち、春も盛りになってきた。庭の緑が柔らかく膨らみ、色とりどりの蕾が花開こうとしている。期待感に満ちた季節。私も、たしかにそろそろ一歩、踏み出しても良いと思った。
「春らしくて、良い色ね」
「お似合いです」
久しぶりに鏡に映る、めかしこんだ自分を見る。茶会用のドレスは、フリルがたくさんある、それでいて下品ではない若草色のもの。アップにした髪には、白い小花を散らしてもらった。母と同じ金の髪に、儚げな花がよく映えている。
リサも褒めてくれたが、こんな風にして見ると、我ながら様になるものだ。きゅっと締め付けたウエストに、その上下でふわっと膨らむ女性的な体つきといい、華奢な手足といい、如何にも貴族の娘という出で立ちである。
唇を春らしい淡いピンクで塗ると、顔色が明るくなる。これならば、久しぶりに会うセシリーとミアを、心配させることもないだろう。
「おねえさま、出かけちゃうの?」
心配するとしたら、弟のリアンだけ。鏡越しに私の様子を伺い、わかりきったことを、おずおずと質問してくる。
「出かけたら、また帰ってこないの?」
何しろリアンが生まれた頃には学園に通っていた私は、週末が終わるたびにこんな風に装いを整え、寮へ向かっていたのだ。漸く長いこと一緒に居られるようになったのに、またずっとひとりなのか。そんな不安が手に取るようにわかって、私はリアンに振り向き、母譲りの金髪をくしゃっと撫でてあげた。屈み込み、視線を合わせる。
「帰ってくるよ。今日は友達とのお茶会に出たら、戻ってくるから。リアンはお勉強がんばってね」
「おみやげは?」
「買ってきてあげる。さあ、ノアが待ってるわ、いってらっしゃい」
「はあい!」
いつもの明るい表情を取り戻したリアンは、飛び上がるような勢いでくるっと振り返り、授業へと向かって行った。
「ーーということがあったの。今日、家を出るとき」
「キャサリンは、リアン様と仲が良いのね」
「そうね、最近ずっと家に居たから、よく遊んでいたのよ」
卒業以来の邂逅は、しかしそんなに間が空いたという感じはせず、学生時代のまま、和気藹々と始まった。本来ならお互いにもっと丁寧な言葉遣いで話さなければならないのだけれど、ここにいるのは友人同士の皆だけ、だからこんな風に、気楽に話ができるのだ。
今日のお茶会の主人であるセシリーが、穏やかな手付きで紅茶を注いでくれる。温かな湯気と、甘い紅茶の香りにほっとする。肩肘張らなくて良いこの感じが、ほんとうに嬉しい。
「でも、良かった。あんなことがあったから、落ち込んでるんじゃないかって、心配してたのよ。元気だったのね」
控えめなセシリーとは対照的に、黄色いドレスのよく似合う、活発な印象のミアは、向日葵のように笑顔を広げてそう言った。そのままぐっと身を乗り出し、悪戯っぽい光を瞳に浮かべて、台詞を続ける。
「元気そうだから聞くけど、ベイル様とのあの一件は、どういうことだったの?」
「ちょっと、ミア、そういうことはーー」
「大丈夫よセシリー、気になるのは当たり前だわ」
私だって、その話は間違いなく聞かれるだろうとわかっていて、この場に来ている。あの展開がゲームにおける必然的な流れであったと理解してからは、ベイルとアレクシアのことを考えても、婚約破棄の件を思い出しても、傷つくことはない。だから、話すのだって、別に苦ではない。
「でも、私にも話せることはあんまりないの。あのときベイル様は、私が嫌がらせをしたから婚約破棄をすると仰っていたけれど、心当たりがないのよ。なんだかよくわからないことを根拠に、婚約破棄を言い出されたって感じ」
私が嫌がらせをしていたのなら、一緒にいたセシリーやミアが、無関係なはずがない。そしてふたりにも当然そんな心当たりはないのだから、揃って「そうよねえ」と頷いた。
「ごめんねキャサリン、こんなこと聞いて」
「セシリー、本当に気にしてないの。家でも、婚約破棄されたおかげで暫く皆と過ごせるって、喜んでいるくらいだから」
「なんだかーー不思議ね。キャサリンはあんなに、ベイル様のことが好きだったのに」
セシリーが青い瞳で私を見つめる。やや下がった眉尻が、無理をしているんじゃないかと、心配する気持ちを表している。私は努めて明るい表情をし、肩を竦め、「割り切るしかないもの」と言った。
「キャサリンがベイル様のことを気にしていないのなら、良かったわ。あの方、国王陛下にも相談せずにあんな場で婚約破棄なんて言い出してしまったから、先行きが不安だもの」
「そうなの?」
「そうよ。国王陛下もお怒りで、危うく王族から外れなくてはならなくなるところだったそうだわ」
ミアは、訳知り顔でそう話す。王族のことにミアが詳しいのは、彼女こそがベイルの兄であるところの、王太子の婚約者であるからだ。
オルコット公爵家が、王国建立時に功勲をあげた貴族であるならば、ミアのローレンス公爵家は、かつての王家の分流というか、王族の血を引く家系である。
王族の血を薄めない、という意味合いもあるそうで、王太子の婚約者は王族の血を引く一家から出るようになっている。
私がベイルと結婚すればミアとは義理の姉妹になるはずで、お互いそれを楽しみにしていたのだ。
「せっかく、キャサリンと姉妹になるのを楽しみにしていたのに」
「私ばかり仲間はずれにしようとするから、そうなったのかもしれないわ」
「セシリーの言う通りね。ミアと私だけ姉妹なんて、だめだったんだわ。私達は3人で、一緒にいるんだから」
「キャサリンまで、そんなこと言って!」
軽口を叩き、やがて、誰ともなくくすくすとした笑いが広がる。大した話もしていないのに、些細なことがおかしくって、皆で笑い合う。学生時代と変わらない和やかさに、なんだかすごくほっとして、私も自然と頬が緩んでしまった。
女三人寄ればとはよく言ったもので、そのあと話は行ったり来たり、学園の思い出話や、セシリーの婚約者の話、ミアの王妃修行など、それぞれに盛り上がり、あっという間に時間は過ぎる。
会がお開きになろうとしたとき、出発前、リアンにお土産を約束したのを思い出した。
「このお菓子、リアンへのお土産に、少し包んで行っても良い?」
「それならキャサリン、新しく作らせたものを差し上げるわ」
「いいの、セシリー。お気遣いなく。リアンはきっと、私と同じものを食べるのを喜んでくれるから」
トレイに載ったお菓子からいくらか頂き、ナフキンに包んで側に控えていたリサに持たせる。その様子を見ていたミアが、「私もお土産を持って行こうかしら」と呟く。
「そういえば、ミアも弟がいるのよね」
「ええ。今年学園に入学したから、リアン様よりはひとつ大きいけれど。家族にお土産を持って帰るって、なんだかいいわね。セシリー、私もこれ、少し頂いてもいい?」
「もちろんよ。喜んで頂けて嬉しいわ」
結局、私とミアはそれぞれにお菓子を分けて貰って、帰ることになった。
「またね、セシリー」
「ええ。手紙を送るわ」
これからセシリーは、領地へ帰ってしまう。とても遠いというわけではないが、今までのように、気軽に会えることはなくなる。
いつもと変わらない、柔和なセシリーの笑顔。この表情をこんなに近くで見られることが、もう暫くないなんてーーあれ、急に寂しい。考えると胸がきゅっと締め付けられ、その勢いで、目尻に一粒涙が浮かんだ。
「私、セシリーに会いに、絶対に行くわ!」
「いいわね。嫁入りまでまだ暫くあるでしょう? キャサリンと一緒に、会いに行くわ」
「言ったわね? 楽しみにしてるわ。そのときは案内してあげる。私も、折々に戻ってくるつもりだから、そのときはまた、こんな風に」
3人で話しましょうね、と約束して、お茶会は解散した。帰りの馬車の中、久しぶりに会った友人との会話を思い出して、私はほかほかとした気持ちでいた。やはり、持つべきものは友だ。たった数刻の間で、身体中に新しいエネルギーが満ちたように感じる。
セシリーの家の料理人が作ったお菓子は、私の手作りよりずっと美味しく、リアン達に喜ばれたのは、言うまでもない。
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