上 下
20 / 52
魔女、騎士に出会う

side:エルート

しおりを挟む
 柔らかな陽射しの中に座り込む若い女性。暗い色のワンピースに陽射しを暖かそうに含ませ、ふくふくと平和な雰囲気を醸している。はらりと垂れた髪を耳に掛け、その手で花を摘み取る。不思議な色の髪だ。日が昇る直前の空に似た、複雑な藍色。もっと不思議なのは、顔の下半分を隠す水色の布だ。あんな装飾を着けている女は、今まで見たことがない。
 顔を隠すのは、顔を見られたくない悪人だ。そう相場が決まっている。ところが、彼女の放つ空気からは悪い企みなど微塵も感じられず、だからこそ不思議だつた。
 気を取られたせいで、がさっと足音を立ててしまった。普段なら、森の中で余計な足音を立てることなんてないのに。彼女の視線がさっとこちらを向くのと、俺が目を逸らすのは同時だった。

 俺は、エルート・ザトリア。この国の騎士である。身に纏った黒の服こそ、騎士の証。
 巷には、騎士をモチーフにした夢物語が溢れている。姫を助ける騎士だの、華麗に魔獣を打ち倒す騎士だの、一般女性を救い出して恋に落ちる騎士だの。現実の騎士なんて、淡々と魔獣を倒し、人知れず人々を守れればそれで良い職業だ。なのに、作られたイメージのせいで、騎士というだけで妙に期待され、変に騒がれる。
 残念ながら俺は人目を引く容姿をしているため、顔を見られたら余計に騒ぎになる。騒ぎを避けてフードを被るようにしているが、それさえも黒いので、ひと目見れば立場が識別できる。厄介なものだ。声をかけられては面倒なことにある。
 顔を背けたまま、一歩踏み出した。視界に入っていない素振りを見せれば、声はかけてこないだろう。

「あの、騎士様」

 予想を裏切り、こちらを呼び止める声。怪しげな見た目に反して、風に乗って流れてくる声が綺麗だったので、つい顔を向けてしまう。正面から見れば、ますます不思議な装いだった。鼻から口まで隠している布のせいで、顔つきがよくわからない。髪と布の隙間から覗く肌が、妙に白く目に刺さった。

「お探しのものは、あちらにありますよ」

 しかもそんな、予言めいたことまで言い放つ。さすが「カプンの魔女」だ。いや? 違う。彼女が「魔女」と呼ばれていることは、もっと後に知ったはずだ。魔獣への案内を頼もうとしたら、いつもの空き地にいなくて……そう、もっと後のはずだ。
 彼女が呼ぶ俺の名は、耳馴染みが良い。「騎士様」なんて仰々しい呼び方より、ずっと良い。そう思ったのは、また別の時だ。表情が乏しいくせに目に感情が出ることに気付いたのも、宝玉に関心を示さない一面に驚いたのも、どれも別の時だ。
 時系列が乱れ、自然と眉根が寄る。何だろう──夢?

 肩が軽く揺すられ、目を開ける。自分の脚が見え、そのまま瞬きをした。黒い靴の下には、暗い褐色の床。俺はベッドに座っていた。顔を上げると目の前にニーナがいて、俺はやっと事情を思い出す。

「すまない……寝るつもりはなかったんだ」

 寝ぼけて掠れた声は、妙に低く響いた。
 今日俺は団長の命を受け、ニーナを騎士団に迎え入れるためにここへ来た。彼女の「魔獣を探し出す勘」とやらは、騎士団にとっては素晴らしいものだ。その能力が本物だと証明された今、ニーナを囲い込む以外の選択肢は、騎士団には用意されていなかった。
 俺がいる時に偶然訪れた来客は、ニーナが恩人だと話した町長であった。町長と言葉を交わしたニーナは、そのまま外へ行ってしまったのだ。
 恩人は彼女の心がかりらしいし、急ぐわけでもない。彼女の憂いがなくなるのならその方が良かろうと、俺は快く待つことにした。
 台所に置きっぱなしの軽食を見ていると、急に腹が減って来たから、それを食べた。薬草を常食にするなんて発想はなかったが、彼女の作る質素な料理は、さっぱりとした味わいで好みだ。腹が満たされ、静かな部屋でぼんやり座っていると、眠気が襲ってきた。寝るつもりなんてなかったのに、いつの間にか寝ていたらしい。
 恩人との話を済ませて帰宅したニーナは、すっきりした目をしている。ベールで顔を隠した彼女は、目に表情が出るのだ。それに気付いてから、表情を見取るのに大した苦労は要らなくなった。

 それにしても、妙な夢だった。ニーナと出会った頃の夢を見るなんて。まだ頭のぼんやりとする俺の鼻を、独特な香りがくすぐる。どこかで嗅いだような香りだ。ニーナに聞くと、彼女は壁に掛かった白い花を見せてきた。俺と彼女が出会った空き地に咲いていた花。香りに触発されて、あんな夢を見たのかもしれない。
 花の香りは眠りを誘発するということで、俺は少し分けてもらった。道理で、深い眠りに落ちてしまった訳だ。驚いたが、短時間で心地良い眠りを得られるならば悪くはない。騎士団の寮では常に誰かが活動しているから、人の気配で眠りが浅くなるのだ。ニーナに説明すると、彼女は眉尻を垂らした。

「たまに昼寝しに来ないと、寝不足になってしまいそうですね」

 思わず、笑ってしまった。そんな冗談まで言うようになったか。最初は警戒していたくせに、ずいぶんと心を許している。笑い声に驚いたように、ニーナは目を丸くした。
 やはり、目に表情が出る。思ったことをそのまま指摘すると、ニーナの瞳には動揺の色が浮かんだ。目を伏せる彼女の、藍色の髪から覗く耳は、僅かに赤く染まっている。照れるとすぐ耳を赤くするのも、彼女の特徴のひとつ。素直な反応がおかしくてにやけている自分に気付き、気持ちを切り替えるために、軽く咳払いをした。

 ニーナはあれこれと支度をしていたが、結局完成した荷物はたったの袋ひとつだった。
 貴族の女性は、ちょっとした移動でも使用人に多くの荷物を持たせている。俺が知っている類の女性とは異なる一面を知る度に、面白い、と思う。
 興味深いのだ。それだけ。俺の周りの騎士は「ついにあの『命知らず』にも大切なものができたか」などという言い方をするが、間違いだ。

 「命知らず」という渾名は、本来の俺には似つかわしくないものだ。俺が何より大切にしているのは、自分の命である。命より大切なものなんて、できるはずがない。騎士としてはあるまじき発言だから決して大っぴらにはしないが、ニーナはその事実を知っている。
 この信念は、父を反面教師として築いたものだ。父は、幼い俺と母を置いて命知らずに飛び出し、命を落とした。結果として、より多くの命を魔獣に奪わせることとなった。頭の中では幾度も反芻してきた、凄惨な記憶。進んで口にしたことはないのだけれど、薬草茶の味のせいか、ニーナが静かに聞くせいか、言葉が繋がった糸のように口から出てきた。
 俺は、父のようには絶対にならない。目先の騎士道を優先し、結果として多くの人を傷つけるなど、あってはならないことだ。
 守れるものには限りがある。たくさんの人を守りたいのなら、何よりも、自分が生きていなければならないのだ。

 何も知らないニーナ相手に、つい熱弁してしまった。俺の暗い過去なんて、彼女が知る必要もないのに。自分語りを押し付けたことを謝ると、ニーナは僅かに目を細めて「話してくれてありがとう」と返答した。彼女の目は素直だ。その言葉が建前ではないとわかると、自分の信念を否定されなかった安堵と、秘密を知られた気まずさがないまぜになり、俺は誤魔化すように外を見る。
 光の射し込む窓には、蔦が張っている。外から初めてこの家を見た時、全面に蔦の張った不気味な家に、まさか人が住んでいるとは思わなかった。「魔女」などという恐ろしい渾名で呼ばれるのも致し方ない。本当は彼女は、そんなに恐ろしい者ではないのだけれど。

 二人でスオシーの待つ森の中へ戻る。賢い愛馬は、大人しく森の中で待っていた。スオシーは人の好き嫌いが激しいタイプの馬なのだが、ニーナのことは最初から気に入っていた。彼女を乗せても、嫌な顔ひとつしない。むしろ、嬉しそうに尻尾を揺らし、目を細めている。
 馬に乗れないニーナを決して落とさぬよう、背後から腕を回す。柔らかな肉体の感触と、胴体の薄さを感じる。変に力を込めると潰れてしまいそうで、この瞬間だけは、少し緊張する。緊張するのは俺だけではなく、ニーナの華奢な肩も強張っている。仕方のないことだ。慣れない間は、馬に乗った瞬間に視点が高くなり、誰でも身がすくむ。
 彼女を抱き寄せると、見下ろした先にちょうど耳が見える。耳の端が僅かに染まっているのを見て、俺はわざと彼女の緊張を指摘した。耳が一瞬で赤くなる。わかりやすい反応は、本当に面白い。

 揶揄いたくなるのも、あの瞳に浮かぶ様々な感情を見てみたいと思うのも、面白いから。それだけだ。
 俺は自分の感情を、自分でそう定義する。

 周囲の騎士たちには、俺がニーナに惚れ込んで、ついに騎士団まで連れ込んだと揶揄されている。無論、彼女の「探し物を見つける勘」に惚れ込んだと言われたら否定できないが、それだけだ。
 あくまでも、興味があるだけ。王宮騎士である俺の周りには、飾り立てた貴族の女性しかいない。遠くから憧れの眼差しを注いでくる市民の女性とは、距離がありすぎて関わりがない。たまたまニーナと関わりを持ち、その新鮮さに興味を喚起されているだけだ。
 それだけ。何に対する言い訳なのかわからないが、俺は自分の頭の中で、まるで自分に言い聞かせるように繰り返す。

 スオシーが動き出すと、ニーナの肩の力がふっと抜ける。彼女は乗馬が好きらしく、馬上での重心の取り方にもすぐ慣れた。彼女がこれから騎士団でどのように活動するかを考えたら、乗馬を覚えさせた方が良い。
 そう口にすると、ニーナがいきなり振り返った。俺は彼女を決して落とさないよう、腕に力を込めた。
 傷ひとつ、つけたくはなかった。本来なら彼女は、恩人のいるあの小さな町でささやかな「探し物屋」を営み、幸せに暮らすはずの人だった。それを、種々の思惑が渦巻く騎士団に連れて行こうとしているのは、他ならぬ俺である。

 騎士とは、自らの身を犠牲にしてでも、人々を守る崇高な使命を負った存在。それは事実だが、だからと言って騎士団が崇高な場所かというと、違う。序列、能力、家柄、昇進。それぞれの思惑があり、決して平和な場所ではない。
 ニーナはそんなこと、何ひとつ知らない。ぼんやりしていたら、彼女もその渦に巻き込まれてしまう。ニーナの「魔獣を見つけることができる」という能力は、騎士にとっては垂涎の的だ。俺に敵意を持つ連中や功を焦る連中が、彼女を手中に収めようと、何らかの働きかけをしてくるのは容易に想像できる。
 手の届く範囲にあるものは、自分の命が危うくない限り、できるだけ守る。俺の信念に照らした時、ニーナは間違いなく、守るべき存在だった。

「君を巻き込んだのは俺だ。だから俺が、君を守ると誓う」

 その責務は果たさなければならない。俺が宣言すると、なぜか彼女の耳が染まる。耳だけでなく、うなじまで桃色に染まるのを見て、自分の発言がいささか歌劇調だったことに気づいた。
 思い詰めた気持ちが、ふっと和らぐ。ひとつひとつの発言に照れる、彼女はやっぱり面白い。

 緑盛る季節の爽やかな風が、彼女の藍色の髪を優しく踊らせる。髪が日の光を受け、艶やかに煌めく。
 ニーナが、俺に対する好意を持たないことはわかりきっている。「求めるなら応える」と話していた彼女は、俺や騎士団が求めているから、俺と共に王都へ向かっているのだ。それ以上でも、それ以下でもない。桃色に染まる肌は、言葉の字面に照れているだけだ。だからこそ、面白いのだけれど。
 王都が近づくと、彼女を袋に入れる。俺と共にスオシーに乗っている様子を目撃されたら、妙な目で見られるのはニーナだ。嫌味や悪口を浴びせられて心が傷つくより、肉体的に疲弊する方がましだ。だとしても、いくら彼女のためとは言え、自分を袋に突っ込むような男に好意なんて持つはずないだろう。

 本部に到着し、袋から転がり出て呼吸を整える彼女に、そっと手を伸ばす。ニーナが騎士団にいる限りは、俺が守ろう。決意を新たにし、ニーナを起こして、本部へ向かって歩き始めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

公爵子息に気に入られて貴族令嬢になったけど姑の嫌がらせで婚約破棄されました。傷心の私を癒してくれるのは幼馴染だけです

エルトリア
恋愛
「アルフレッド・リヒテンブルグと、リーリエ・バンクシーとの婚約は、只今をもって破棄致します」 塗装看板屋バンクシー・ペイントサービスを営むリーリエは、人命救助をきっかけに出会った公爵子息アルフレッドから求婚される。 平民と貴族という身分差に戸惑いながらも、アルフレッドに惹かれていくリーリエ。 だが、それを快く思わない公爵夫人は、リーリエに対して冷酷な態度を取る。さらには、許嫁を名乗る娘が現れて――。 お披露目を兼ねた舞踏会で、婚約破棄を言い渡されたリーリエが、失意から再び立ち上がる物語。 著者:藤本透 原案:エルトリア

勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

処理中です...