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ファイアーツルハシ

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ルシェに場所を聞いてジッパーで移動した先は、確かに身を切るような寒さだった。
見渡す限り一面が氷で、月光を反射してキラキラしていた。
ルシェの指示は的確だったようで、ダンジョンの入り口には間もなく到着した。
珍しくリヴィに急かされて岩を破壊して、ダンジョンの扉をくぐると、そこは神殿のような、厳かな建物があった。
「扉をくぐった先が建物なんて、変な感じだな」
「橙色の扉は何もかもが特別よ。内容もごく簡単なものもあれば、上級者でもきついほど難易度の高い場合もあるから、気を引き締めて」
「わかった」
長い階段を上った先で、神殿の扉をくぐった。内部も神殿のような造りになっていて、今までのダンジョンとは異なり人工的な雰囲気だった。
「早速おでましのようね」
リヴィの視線を辿ると、西洋の騎士を思わせるモンスターが二体、こちらに対して剣を構えていた。
リヴィの攻撃に備えて穴掘りスキルを発動しようとしたところ、背後から光の弓矢が二本放たれ、騎士の頭部を貫いた。二体はたちまち崩れ落ちて消滅した。
振り返ると、自身の体ほどの大きな弓を構えたルシェの姿があった。
「ここのモンスターは弱いから安心して~。ちゃっちゃと最深部までいって、お宝もらって帰ろう~」
遠距離から敵を攻撃できるのであれば、リヴィとの相性は良さそうだ。
しかし、俺との相性は最悪だろう。それは戦闘スタイルやスキルの問題ではなく、俺の気持ちの問題だ。
このひと、常に俺の背後にいるってことは、その気になればいつだって俺のことを射れるということだ。さっきの騎士みたいに。
お宝と聞いてワクワクしていたが、ものすごく憂鬱な気分になってきた……。
「ソウタ、どうかした?」
遠くのほうでリヴィの声がしたと思ったら、ふたりは既に次の部屋に入ろうとしていた。
「ああ、ごめん」
ふたりのもとへ駆け寄り、次の部屋へ入った。
次も騎士型のモンスターがいたが、先ほどは剣を構えていたのに対し、今回は杖を持っていた。
「私もこのモンスターは初めて見るのだけれど、同じ種類でも違う武器を使うのね」
「そうみたいだよ~。剣士、魔法使い、僧侶、タンクは確認済みだよ」
「剣士と魔法使いはわかるけど、僧侶とタンクってなんだ?」
ルシェは弓を引いて狙いを定めながら、俺の質問に答えてくれた。
「僧侶っていうのは、主に回復魔法を使う魔法使いのこと。タンクっていうのは、盾を装備して味方を守る役をする勇者のことだよ」
説明しながらも寸分の狂いなくふたたび頭部を貫いたルシェ。
「そうなんだ。ありがとう」
「いいえ~」
次の部屋では、盾を装備した騎士が現れた。さっき言っていたタンクというやつだろう。
俺は多少の気恥しさを覚えながらもルシェにお願いごとをした。
「あ、あのルシェ……」
「ん~?」
「その、さっき庭で話した、ファイアーツルハシを試してもいいかな」
「あはは。本当にやるんだ。いいよ~」
ルシェが俺のツルハシに触れた。すると、持ち手以外の部分が赤く光った。
「よし」
「がんばって~」
ツルハシをモンスターに打ち付けた。
攻撃は盾に阻まれたが、炎の力を信じて力任せにツルハシを押しつけた。
「おらぁぁああああっ!」
じゅうっと焦げるような音とにおいがするだけで、何も起こらず気まずい時間が流れた。
「ん……」
諦めて一歩下がると、ちょっと盾に焦げ目がついただけだった。やっぱり死神のエンチャントじゃないと効果がないのか……。
そんなことを考えているうちにも、盾の騎士二体は、がら空きの頭上から振らされた光の矢によって崩れ落ちていた。
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