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巨大迷路

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砂漠らしい黄金色の砂に目を引かれるが、このダンジョンの特徴としては巨大迷路型というところにあった。
「この歩きにくい砂と複雑な迷路で体力を奪われて、私のパーティはリタイアしちゃったんです」
「そこへもってきてモンスターも攻撃してくるんだもんな。確かに、これはしんどそうだ」
「あっ、そうだ! 次の実験なんですけど……」
「一体、何しにきたんだかわからないわね」
「ほんとだな……」
また実験を始めようとするミレイユにリヴィも呆れた様子だ。
彼女が次に提案した実験は、迷路の壁を壊し、順路を無視して進む、というものだった。
「そんなことして、ダンジョンが崩壊したりしないのか?」
「それを確かめるための実験です!」
「おいおい……。リヴィ、どう思う?」
「いいんじゃないかしら、付き合ってあげたら」
「本気か?」
「ええ。いざとなったら、私が二人を連れてダンジョンの外に飛んであげる」
「そんなことができたのか。知らなかったな」
「いつも使ってる、あなたが黒い煙って呼んでる時空間魔法よ。あれで貴方たちを運ぶことができるの。水中で使うのと同じくらいに疲れるけど」
「そんなリスクを取ってまで……」
「いいじゃない、べつに」
どことなく楽しげなリヴィ。どうやらこの中でハラハラしているのは俺だけらしい。
……まぁ、もし何かあったら地中に隠れよう。
「わかった。じゃあ、いくぞ」
壁一枚、ぐらいを想像していたのだが、迷路は想像よりもずっと厚かった。それがかえって安心感をもたらしてくれたので、大胆に穴を開けることができた。
「こんなもんかな?」
「すごい! こんなにあっさりと!」
迷路の壁を壊すことで複雑さが解消されて、ダンジョンの地形を把握しやすくなった。
「これズルくないか……」
「迷路型のダンジョンに遭遇したときは、迷わずソウタさんを呼びます!」
あ、そうか。迷路型のダンジョンのお手伝いっていう形で他のパーティにも入れてもらえば、もっと早く経験値を積めるんじゃないか? これは検討の価値ありだな。
「さて次ですが、ソウタさんの戦闘能力について調べさせてください」
「俺の戦闘能力? そんなもの、ないってわかってるよ」
俺に戦闘能力があれば、他人と一緒に冒険なんてしていない。
「ダンジョンの壁を簡単に破壊するほどの威力を持つ穴掘りスキルですが、それはモンスター相手にもダメージとして通るのでしょうか」
「ああー……いわれてみれば、モンスター相手に穴掘りスキルを発動したことはなかったな。岩とか壁に使うっていう認識だったから」
「あのモンスターに試してもらえますか?」
ミレイユが指差したトカゲのようなモンスターを相手に試したが、案の定これは不発に終わった。穴掘りスキルを発動する感覚でモンスターに殴りかかっても、ただ筋力のみの力でダメージが与えられた。
俺に反撃をしようとしたトカゲはリヴィが片づけた。
「これはダメそうですね……やはりオブジェクトのみに有効なのでしょうか」
「もう満足かな?」
「はいっ! 今のところは!」
ようやく気の済んだらしいミレイユと共に、俺たちは順路を無視して壁を壊し続け、モンスターはリヴィが倒し、本来の目的である落し物を探すためダンジョンをくまなく歩いた。
「この先は魔力が強いから、恐らくボスモンスターがいる最深部よ」
しかしミレイユの落し物が見つからないまま、最深部へ到達してしまった。
もちろんボスのいる部屋には入らなかった。ミレイユの話だと、迷路に苦戦してリタイアしたということだから、最深部までは到達していないはずなのだ。
「あれー……おかしいな。絶対にこのダンジョンのどこかにあるはずなんですけどな……」
「もう一度、戻って探してみましょう? 砂に埋もれて見づらくなっているかもしれないわ」
「はいっ!」
来た道を戻ろうとすると、ダンジョン全体が揺れるほどの地鳴りがした。衝撃で天井からパラパラと岩か何かのかけらが降った。
「なんだ?」
「……なにかくるわ」
うす暗いボス部屋のほうを見据え、鎌を構えたリヴィの表情が引き締まった。
な、なにがくるんだ?
一気に高まる緊張感のなか、俺とミレイユも構えた。
轟音とともにボス部屋を破壊して出てきたのは、巨大な岩の兵士だった。
「ゴーレム! な、なんでボスが部屋から出ているの?」
「それは彼らに聞いたほうが早そうよ」
巨大なゴーレムの足元にふたつの人影が。壁を壊したときに発生した砂煙で姿まではよく見えない。
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」
砂煙の中から、女の狂ったような笑い声が聞こえてきた。
「すげぇだろ! 俺様がテイムしたんだぜ!」
続いて、男の怒鳴るような声。
視界が晴れると、男女二人組が姿を現した。
女のほうはボロボロの服をまとい、左目を包帯で隠している。手にしたナイフが彼女の狂気に拍車をかけている。
相棒と見られる男は大きな体に大きな声といい、どことなくランドウと似た雰囲気を持っていたが、ランドウよりももっと野性的で狂暴な感じがする。
彼らは危険。直観的にそう思った。
「ボスモンスターをテイムするなんて聞いたことがないわ。おそらくダンジョンを岩魔法で塞いだのは彼女たちね」
「テイム?」
「飼いならすという意味よ。あのゴーレムはもう、あの二人の仲間」
「なんだか、ちょっと違和感がありますよね。ふつうならテイマーは専用の小さい杖を持っているはずですから。男のほうは何も持っていないし、女のほうはナイフ……あっ! あの女の人、私が落としたネックレスを持っています!」
だらりと両腕を垂らした女の、大きく開いた胸元を見ると確かにペンダントのようなものが光っている。
「ってことは、あいつらと戦わなきゃいけないってことか……。なんとか話し合いで解決できないかな」
「どうかしらね。見て、彼女たち、手の甲に魔法印を押されているわ」
「うそっ……!」
「ん、どういうことだ?」
「手の甲に魔法陣のようなものが描かれているのが見える? あれは役所が仮釈放中の犯罪者に押すものよ」
「は、犯罪者だって?」
「そうです。ただ魔法印を押されたひとは魔力とスキルの大半を封印されます。なぜ、彼らがダンジョンにいて、しかもゴーレムをテイムできているのか……」
「謎が多いわね」
「あ゛ァァ? オイ、あのオンナ死神じゃねェか!」
女はリヴィが死神ということに気が付くと、異常に興奮した様子を見せた。
「やっぱりアタシたち最高にツイてるぜェ!」
発狂したように笑うと、手にしたナイフの柄に埋め込まれた石が光り、ゴーレムが銀色の甲冑などの防具をまとった。
それに続くように男も猛獣のように吠えた。
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