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第二章 最強のお兄ちゃんは帝都へ行く

近衛師団幹部との初対面!

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セレスタイン様との朝食を終えると、スティヒさんが皇帝直属の近衛師団の訓練場へと案内してくれることになった。セレスタイン様も一緒に行くと言ってくれたけれど、医師に止められて今日は一日お休みらしい。

「スティヒ。コハクを訓練場と文殿へ連れて行ってくれ。」

「承知いたしました。昼になったら陛下の元へ彼をお返しいたします。」

わーい!お昼になったらセレスタイン様に会えるんだね!

「ああ。私は執務室にいるから、いつでも来てくれ。」

え、働くの?働いた方が気が紛れるとか?

「いいえ。今日は医師に言われた通り、お休みください。コハクは陛下の自室へと向かわせます。」

スティヒさんが速攻で却下していた。やっぱり心配だよね。

「どいつもこいつも私を休ませたがるな。」

セレスタイン様は深くため息を吐いた。これまで沢山働いてきたのだろうから、休んでいいと思うけどな。

「御身体が心配なのです。明日に備えて養生なさってください。・・・・それに、昼になれば抱き枕のコハクが来ます。」

スティヒさんの中で、僕の二つ名は「抱き枕のコハク」になってたんだね。「モリオンの黒駒」とかにされてなくて良かった!

「抱き枕?」

「いえ、何でもありません。それでは、また。」

セレスタイン様は僕を抱き枕にしている自覚はなかったのか。
スティヒさんが一礼をして、セレスタイン様の部屋から出ようとした。僕もそれに倣ってお辞儀をしてから、セレスタイン様にお願いをした。

「セレスタイン様、昼食は一緒に食べたいです!」

「ああ。それなら、こちらに用意させておく。」

「ありがとうございます!」

よかった!ひとまず安心だ。

◇◇◇

僕は訓練場へ行く前に、セレスタイン様の側に控えていた例の三人を紹介してもらうことになった。スティヒさんを含めた四人は、近衛師団の幹部らしい。四人とも武官と文官の両方の仕事をこなしているようで、今の時間は訓練場ではなく、執務室にいるんだって。

「こちらがコハクだ。既に報告は行ってると思うが、今回のヘミモルフィ皇太弟が起こした事件に関して、かなり貢献してくれた。紫の瞳を持つ者を狙った皇太弟の近衛による誘拐事件では、彼が全員をぶっ飛ばして未遂で終わらせた。陛下の抱き枕となったため、しばらく城に滞在する。」

滞在理由が皇帝の抱き枕で大丈夫なの、スティヒさん。

「コハクです!抱き枕としては不束者ですが、よろしくお願いします!」

とりあえず、抱き枕としての挨拶をしておこう。
早速声をかけてくれたのは、モノクルをつけた男の人だった。

「よろしくね。私はヴァーダ・シディアンです。」

「え!ヴァーダさんって、今年のモリオン優勝者の?!」

凄い!まさか本人に出会えるだなんて!

「知ってるの?嬉しいなあ。ガイトさんに憧れて始めたんだよね。棋力は陛下とガイトさんに全然追いつかないんだけどね。」

ヴァーダさんが嬉しそうに微笑んでくれた。

「ヴァーダはガイトに憧れすぎて軍師にまでなったやつだ。俺はタンザナだ。ガイトやカルサとは、スティヒと同じで昔馴染みだ!」

タンザナさんは、四人の中で一番体格も良くて、背もカルサさんより高かった。それから、他の三人は全員髪色が金色の中、タンザナさんは茶髪だったので、もしかしたら東方出身なのかもしれない。

「背が!高い!!!」

「おう!カルサよりも高いぞ!」

タンザナさんは陽気に笑った。何だかガイトさんに雰囲気が似ているなあ。
僕がほのぼのとしていると、すっと目の前に手が差し出された。

「きみの諸々の噂は他の近衛から聞いている。僕はラルビカだ。早速、手合わせ願いたい。」

「は、はい!!!」

ラルビカさんは僕と握手を交わすと、そのまま引っ張り出すように訓練場へと歩き出した。落ち着いた人に見えたけれど、意外と強引かもしれない。
ラルビカさんの左腕に嵌められている、いくつもの腕輪がカシャカシャと音を立てていた。

◇◇◇

訓練場には、食事処で顔馴染みになった近衛さんたちもいた。「遂にコハクと手合わせか!」とみんながガヤガヤと騒ついてる中で、ラルビカさんと僕は向かい合った。

(長槍・・・・!)

ラルビカさんが構えたのは、じぃじが背負っていた大剣よりも長い槍だった。基本的に剣を扱っている近衛兵が多い中で、幹部の四人は武器も特殊なのかもしれない。スティヒさんも帯剣はしているけれど、実戦になった時は毒針だったしなあ。

「始め!」

スティヒさんの合図で、僕たちは動いたけれど、長槍と長剣だと、どうしても弾き合いになってしまった。

「お互い長物だと距離が縮められない。しかし、この場合だとどうだろうか?」

ラルビカさんが突然、脇で長槍の柄を挟み、槍頭が短く前へ出るようにして距離を詰めてきた。その後、容赦無く槍を前へと突き出して来たので、僕は慌てて退避した。

「わっ!」

「瞬発力もいいんだね。」

ラルビカさんが関心したように呟いたけれど、内心はとんでもなく焦っていた。あの厄介な柄をどうにかできないだろうか?
僕は試しに、柄頭でラルビカさんの柄を抑えてみた。

「凄い!しなってる!」

けれども、ラルビカさんの柄は僕の長剣とは異なり、しなりもあり、それでいて斬れないほどの硬さも備えていた。こんな武器があってたまるか!

「柄で抑えるのも難しいでしょう?コハクくん、どうする?」

「うーん」

(よく、跳べそう・・・・)

僕は、ラルビカさんのしなりの良い柄を見ながら閃いた。

「えっ?!」

ラルビカさんの柄に思いっきり乗って、柄のしなりに合わせて大きく中空に跳ね上がった。自己史上最高の跳ね上がりだ!
跳ね上がった衝撃で上下に大きく揺れる槍は、数秒の間は制御できないだろう。今のうちに攻撃を入れてしまおう。

「えーいっ!!!」

「なるほどね。」

ガキンッ

「わわっ!」

何だか槍とは違う物に、僕の剣先はぶつかった。

「実は長槍だけじゃなかったんだ。」

ラルビカさんは左腕で、僕の剣を受け止めていた。さっきの腕輪だ!

「初めて見た!これ何?!腕輪じゃなかったの?」

「チャクラムだよ。こうやって使うんだ。」

ラルビカさんは淡々と説明すると、輪っか状のチャクラムという武器を左腕から外して、次々と僕の方へと投げつけた。
怖すぎる!凄い物騒な物を投げつけて来る人だ!

「わーっ!!!」

僕はチャクラムを避けつつ、地面に突き刺さっているチャクラムを一つ拝借した。これ、外側が全部刃になってる。恐ろしい武器だ。
これからはラルビカさんの左側は通らないようにしよう。万が一にもぶつかったら大怪我だ。

さて、僕もチャクラムを投げてみよう。確か、ラルビカさんはこんな感じで投げてたよね!
僕はラルビカさんの投げ方を思い描いて、拝借したチャクラムを投げてみた。

「もう投げ方を覚えたの?!」

ラルビカさんが驚きの声をあげた。

「コハク、随分と筋がいいんだな。」

タンザナさんが腕を組んで、ヴァーダさんとほのぼのと会話をしている。

「うちの近衛に是非欲しい人材ですね。」

ヴァーダさんもにっこにこだ。
何で僕がラルビカさん以外の人の会話が聞き取れるかって?!
それは、現在、投げては投げ返されるチャクラムを無限に拾い集めては、再びラルビカさんに投げつけているからだよ!

「なんか、チャクラムの高速投げ合いになってないか?スティヒ、一旦終わらせれば?」

タンザナさんの、そんな声が聞こえた。

「コハクくん、このままだと手合わせが終わってしまいそうだ。」

ラルビカさんが少し残念そうに言った。

「それはちょっと・・・・」

もったいない!!!

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