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第一章 最強のお兄ちゃんが誕生するまで

内緒の作戦

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僕はベリル様のために寝台の敷き布を新しいものに交換して、机の上を整えた。それから、数日分の自分の衣類をガイトさんの部屋へと運びこむ。

「終わったよ!」

何やら話をしている三人に声をかける。

「ありがとな!ベリル様。お部屋へ移動しましょう。」

カルサさんがベリル様を食堂から二階の奥の部屋へと案内する。その後ろに続いて階段を上っていると、ベリル様が振り返った。肩までかかる長い銀髪は、結っていないせいか、ベリル様の動きに合わせて派手に動く。

「不便をかけるなガイト、アンバー。」

ベリル様は表情ひとつ変えることなく言った。僕はぶんぶんと首を振ったが、ガイトさんは「まったくですよ・・・・」と呆れていた。

「アンバー、俺たちは明日に備えて寝るぞ。」

「うん!」

ベリル様とカルサさんが部屋へと入るのを見送ってから、僕はガイトさんの部屋へ久しぶりにお邪魔することとなった。でも、熱が出た時ぶりだから、少し嬉しかった。

「さあ、おやすみ。」とガイトさんは言いながら、手だけで「少し待て」と僕を制した。それから、机の上に広がった紙の一枚に何かをサラサラと書き込んでいった。僕はその様子を寝台の上に座りながら見ていた。しばらくするとガイトさんは、机の上に置いてあった蝋燭と紙を手に持って、寝台へとやって来る。そっと紙を手渡される。

『ベリル様は身分の高い人。性格はとても気難しい。三日間ここに滞在。ヒスイとはユナカの部屋だけで会うこと。コハクはアンバーとして三日間生活すること。ユナカには明日、俺が伝える。』

ヒスイは、ベリル様にとって受け入れてもらえない子なのかな。気難しいってことは、父さんや母さんのようにヒスイの子を「呪われた子」とか「魔の一族の遣い」だと考えてる人なのかもしれない。
この村に来て、頭に思い浮かぶことが少なくなった嫌な言葉に僕の身体は震えた。ガイトさんは僕の手から紙を抜き取って、蝋燭の火で燃やしてしまった。それからぎゅっと僕のことを抱きしめてくれた。

(三日間、お兄ちゃんが絶対に守るからね。)

僕は新しいおくるみに包まれたヒスイの姿を思い出して、決意した。
僕の妹はかわいくて、良い子で、みんなから喜ばれて良いはずなのに。いつか、いつかそんな未来がやって来ますように・・・・

◇◇◇

早朝、鶏小屋で卵を取っているとカサッと後ろの方で音が聞こえた。振り向いたらカルサさんがいた。

「朝から精が出るな。」

「おはよう!カルサさん!」

「おはよう。」

カルサさんは相変わらず目が笑っていない微笑みを浮かべていた。

「おまえは運が良いな。それ、ユナカのとんでもねえ失敗からできた意味わかんねえ薬だろう?」

「えっ・・・・うん、まあそうだけど。」

カルサさんが僕の髪を引っ張った。わあ!ちょっと!せっかく昨日ルリさんにもらった髪紐で上手に一本結びできたんだから、そんなに強く引っ張らないでよ。

「おまえ、村の中心で会った時から、いかにも訳ありって感じだったからさ!念には念をってな!」

「だから、名前も?」

「そう言うこと。俺は運が強いやつは嫌いじゃないぜ。・・・・よし、できた!」

カルサさんは、話しながらずっと僕の髪をいじっていたけれど、どうやら髪紐を結び直してくれていたみたいだった。紐の先を引いても解けることはなかった。すごい!

「これ!どうやって結んだの?」

「ん?解く時に教えてやるよ!俺はこれから寝起きの悪い依頼主を起こさねえとだからな。これが一番骨が折れる!」

そう言って、さっさとカルサさんは鶏小屋を出て行ってしまった。相変わらず風のように気ままな人だ。まだ何を考えているのか分からなくて少し怖いけど、名前と髪紐のことについてはお礼をしないとな。

「アンバー!俺はそろそろ漁に出る。他は準備が終わってるから、卵だけ焼いて皆んなで食ってくれ!今日は昼に一度戻るが、心配なことがあったらユナカに言うんだぞ。」

鶏小屋を後にして、家の扉を開けようとした時にガイトさんが出てきた。ガイトさんは太陽が少し顔を出し始めた頃に舟を出す。だから朝食は一緒に準備をするけれど、一緒に食べられないことの方が多い。名前も違って、お客さまもいるけれど、ほとんどがいつも通りに始まった月の日に、少しだけ安心する。

「分かった!ガイトさんも気をつけてね!いってらっしゃい!」

僕は、海岸へと続く道を下っていくガイトさんの姿が、見えなくなるまで手を振った。

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