1 / 6
1 新しい住まい
しおりを挟む
☑閑静な住宅街の一戸建てである。
☑ネコなどの危険なペットを飼っていない。
☑食料が適度に放置してある。
☑多少ものがなくなっても気にしないおおらかな家庭である。
☐いたずら好きで乱暴なわんぱく小僧がいないこと。
コロンコはカーテンレールの上からお絵かきにいそしむ女の子を見下ろした。机も使わずに、カーペットの上に画用紙をじかに広げ、一心不乱にクレヨンを動かしている。画用紙の上には色も形も様々な花が咲き乱れていた。チューリップと思しき赤い花、タンポポなのかヒマワリなのか区別しづらい黄色い花、見たこともないようなくるんくるんの変てこな黒い花まで、いっせいに開花している。どうやら、お母さんの誕生日にプレゼントするつもりらしい。
コロンコは『ヤカクレの住居適性検査シート』の最後の項目にもチェックマークを書き入れ、まずまずだというふうに軽くうなずいた。新しい住み家はこの家にしよう。
ヤカクレとは、古くから民家などに住み着いて暮らしている人ならぬものである。
では動物なのかというと、調べた人はいないので微妙なところだ。姿かたちは個体によってまちまちだが、総じてネズミとモルモットの中間くらいのサイズで、つやのあるビロードのような毛並みをしており、尻尾は細くて長い。多くはひょうたんにマッチ棒を4本突きさしたような体形で、二足歩行をし、手先はとても器用。道具を作ったり、文字を書いたり、花を愛でたり、ゴルフを楽しんだりと、大いに文化的な側面を持つ。
好奇心旺盛で知恵も働くが、警戒心が強いので人間に見つかることはほとんどない。彼らが家にいるかどうか知りたければ、お菓子や人形用のミニチュア家具などを放置しておけばわかる。もしも知らぬ間にそれがなくなっていたら、十中八九君の家にはヤカクレがいる。ほかのだれかが盗んだのでなければの話だが。
さて、コロンコはヤカクレのなかでも特に好奇心が強いほうだった。新居に定めた家の女の子の部屋には、コロンコの心をくすぐるドールハウスや包み紙にくるまれた甘いキャンディや、部屋のアレンジに使えそうな布切れ、ビーズ、ボタン、それに絵本や図鑑がたくさんおいてあった。だから多少気食にわない点があったとしても、目をつぶるくらいの覚悟でいた。
ところが、住んでみればこれ以上ないほど快適な家だった。
コロンコはまず、当分の寝床として女の子の部屋のベッドの下を選んだ。ほこりっぽいので掃除から始めた。そして、もとからベッドの下に落ちていたタオルハンカチを布団がわりにし、ペンライトを据え置いた。
それから、本格的な住まいづくりにいそしんだ。机と本棚のあいだの、人間からは死角になっている柱の空洞に、自前の電動ノコギリで穴をあけ、簡単な足掛かりをつける。そこから、天井裏や台所や、掛け時計の裏なんかにつながる通路をつくる。
ヤカクレは特に天井裏の空間を好む。暗くて、湿っぽく、時にはネズミやクモなどの先客がいることもあるが、そういう場合は交渉による区画分けを行うことが多い。(その際、お菓子を大量に譲渡することもよくある。)幸い、コロンコが狙いをつけた辺りは気のいいネズミの通り道になっているだけだったので、キャンディ3つで片がついた。
スペースが確保できると、今度は風通しの穴をあけたり、掃除したり(ヤカクレはたいていきれい好き)、壁紙を貼って明るい雰囲気をつくった。それから、椅子、机、ベッドなど、必要な家具をそろえ、ペットボトルのキャップにきらきらのガラス玉をはめこんで作ったオブジェや、戸棚の裏で拾った怪獣のキーホルダーなど、お気に入りのものをどんどん運んで、快適で心躍る屋根裏へと仕上げていった。
そして、いよいよベッドの下から寝床を移そうと思ったときのことである。
コロンコはとても浮かれていた。これほど順調に、思い描いていた以上の完璧な部屋ができるとは思っていなかった。そして、今日からそこでの暮らしが始まるのだ! 今までのように、人間が現れるたびに気配を消して縮こまる必要はなく、好きなだけゴロゴロしてお菓子を食べ、趣味にひたることができる!(コロンコはとても多趣味で飽きっぽい。)しかし、まずは友人を呼んで記念パーティを開くことにしよう。みんな新しい部屋の完成度にびっくりすること間違いなしだ!
パーティには楽しい飾りつけとごちそうがいる。コロンコはおもちゃ箱の中に、色とりどりのゴムボールが入っていることを知っていた。大きさも、持ち運ぶのに無理がない。あれを飾ったら、きっともっと素敵な部屋になるだろう。けれど、ちょっとのあいだ借りるだけ。あとでちゃんと返しに来よう。
そう考えて、ひょいっとおもちゃ箱にダイブした。
☑ネコなどの危険なペットを飼っていない。
☑食料が適度に放置してある。
☑多少ものがなくなっても気にしないおおらかな家庭である。
☐いたずら好きで乱暴なわんぱく小僧がいないこと。
コロンコはカーテンレールの上からお絵かきにいそしむ女の子を見下ろした。机も使わずに、カーペットの上に画用紙をじかに広げ、一心不乱にクレヨンを動かしている。画用紙の上には色も形も様々な花が咲き乱れていた。チューリップと思しき赤い花、タンポポなのかヒマワリなのか区別しづらい黄色い花、見たこともないようなくるんくるんの変てこな黒い花まで、いっせいに開花している。どうやら、お母さんの誕生日にプレゼントするつもりらしい。
コロンコは『ヤカクレの住居適性検査シート』の最後の項目にもチェックマークを書き入れ、まずまずだというふうに軽くうなずいた。新しい住み家はこの家にしよう。
ヤカクレとは、古くから民家などに住み着いて暮らしている人ならぬものである。
では動物なのかというと、調べた人はいないので微妙なところだ。姿かたちは個体によってまちまちだが、総じてネズミとモルモットの中間くらいのサイズで、つやのあるビロードのような毛並みをしており、尻尾は細くて長い。多くはひょうたんにマッチ棒を4本突きさしたような体形で、二足歩行をし、手先はとても器用。道具を作ったり、文字を書いたり、花を愛でたり、ゴルフを楽しんだりと、大いに文化的な側面を持つ。
好奇心旺盛で知恵も働くが、警戒心が強いので人間に見つかることはほとんどない。彼らが家にいるかどうか知りたければ、お菓子や人形用のミニチュア家具などを放置しておけばわかる。もしも知らぬ間にそれがなくなっていたら、十中八九君の家にはヤカクレがいる。ほかのだれかが盗んだのでなければの話だが。
さて、コロンコはヤカクレのなかでも特に好奇心が強いほうだった。新居に定めた家の女の子の部屋には、コロンコの心をくすぐるドールハウスや包み紙にくるまれた甘いキャンディや、部屋のアレンジに使えそうな布切れ、ビーズ、ボタン、それに絵本や図鑑がたくさんおいてあった。だから多少気食にわない点があったとしても、目をつぶるくらいの覚悟でいた。
ところが、住んでみればこれ以上ないほど快適な家だった。
コロンコはまず、当分の寝床として女の子の部屋のベッドの下を選んだ。ほこりっぽいので掃除から始めた。そして、もとからベッドの下に落ちていたタオルハンカチを布団がわりにし、ペンライトを据え置いた。
それから、本格的な住まいづくりにいそしんだ。机と本棚のあいだの、人間からは死角になっている柱の空洞に、自前の電動ノコギリで穴をあけ、簡単な足掛かりをつける。そこから、天井裏や台所や、掛け時計の裏なんかにつながる通路をつくる。
ヤカクレは特に天井裏の空間を好む。暗くて、湿っぽく、時にはネズミやクモなどの先客がいることもあるが、そういう場合は交渉による区画分けを行うことが多い。(その際、お菓子を大量に譲渡することもよくある。)幸い、コロンコが狙いをつけた辺りは気のいいネズミの通り道になっているだけだったので、キャンディ3つで片がついた。
スペースが確保できると、今度は風通しの穴をあけたり、掃除したり(ヤカクレはたいていきれい好き)、壁紙を貼って明るい雰囲気をつくった。それから、椅子、机、ベッドなど、必要な家具をそろえ、ペットボトルのキャップにきらきらのガラス玉をはめこんで作ったオブジェや、戸棚の裏で拾った怪獣のキーホルダーなど、お気に入りのものをどんどん運んで、快適で心躍る屋根裏へと仕上げていった。
そして、いよいよベッドの下から寝床を移そうと思ったときのことである。
コロンコはとても浮かれていた。これほど順調に、思い描いていた以上の完璧な部屋ができるとは思っていなかった。そして、今日からそこでの暮らしが始まるのだ! 今までのように、人間が現れるたびに気配を消して縮こまる必要はなく、好きなだけゴロゴロしてお菓子を食べ、趣味にひたることができる!(コロンコはとても多趣味で飽きっぽい。)しかし、まずは友人を呼んで記念パーティを開くことにしよう。みんな新しい部屋の完成度にびっくりすること間違いなしだ!
パーティには楽しい飾りつけとごちそうがいる。コロンコはおもちゃ箱の中に、色とりどりのゴムボールが入っていることを知っていた。大きさも、持ち運ぶのに無理がない。あれを飾ったら、きっともっと素敵な部屋になるだろう。けれど、ちょっとのあいだ借りるだけ。あとでちゃんと返しに来よう。
そう考えて、ひょいっとおもちゃ箱にダイブした。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
Vicky!
大秦頼太
児童書・童話
時計職人のお爺さんの勘違いで生まれた人形ヴィッキーが、いたずら妖精のおかげで命を持つ。
ヴィッキーはお爺さんの孫娘マーゴットの心を開き、彼女の友だちとなり、人と触れ合う大切さを教えてくれる。
けれどそんなヴィッキーにも悩みがあった。
「どうしたら人間になれるのだろう」と言う悩みが。
知識を詰め込むだけでは何の意味も無い。そこに心が無ければ、学んだことを役に立たせることは出来ない。
そんな思いを込めました。
※海部守は脚本用のPNです。ブログなどですでに公開済みです。脚本形式なので読みにくいかなと思いますが、せっかくなので色んな人に読んでいただきたいと思い公開します。
・ミュージカル版→ロングバージョン。
・ショートバージョン
の2種類があります。登場人物が少し違うのとショートバージョンには歌がほぼありません。ミュージカル版を作るときの素といった感じです。あと指示も書いてないです。
ミューカル版の歌についてはhttps://youtu.be/UPPr4GVl4Fsで聞けますが伴奏なんかはないので参考程度にしかならないと思います。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
魔法少女はまだ翔べない
東 里胡
児童書・童話
第15回絵本・児童書大賞、奨励賞をいただきました、応援下さった皆様、ありがとうございます!
中学一年生のキラリが転校先で出会ったのは、キラという男の子。
キラキラコンビと名付けられた二人とクラスの仲間たちは、ケンカしたり和解をして絆を深め合うが、キラリはとある事情で一時的に転校してきただけ。
駄菓子屋を営む、おばあちゃんや仲間たちと過ごす海辺の町、ひと夏の思い出。
そこで知った自分の家にまつわる秘密にキラリも覚醒して……。
果たしてキラリの夏は、キラキラになるのか、それとも?
表紙はpixivてんぱる様にお借りしております。
小鬼の兄弟とまんじゅう
さぶれ@5作コミカライズ配信・原作家
児童書・童話
ほのぼのとしたお話。
今回は絵本風に仕上げました。
是非、楽しんで下さい。
何時も応援ありがとうございます!
表紙デザイン・玉置朱音様
幻想的な音楽・写真の創作活動をされています。
Youtubeの曲は必聴! 曲が本当に素晴らしいです!
ツイッター
https://twitter.com/akane__tamaki
Youtube
https://www.youtube.com/channel/UCK2UIMESQj3GMKhOYls_VEw
星降ル夜ニ、君ハ何ヲ願フ
三日月らびっと
児童書・童話
〔あらすじ〕
とある街で少年と少女は暮らしていました。その町では夜になると賑やかになる一方、オオカミがでるという。
そのオオカミを封印するためには星姫様の存在が必要不可欠なのだがーー。
のんきなこびとを愛でてください
香月ミツほ
BL
拾われた小人をみんなで愛でるお話です。
「何かおかしいと思ってたんだけど」の前身。
長くなりそうで書き直したものの、放置しておくのもなんなので書き上げました。前後編でエロなしです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる