上 下
18 / 45

17

しおりを挟む
「見て!モニカ!!魚が跳ねてるわ!」
「お嬢様!今日こそは釣りますよ!!」


 我儘になると決意を固めてから数日、私とモニカは遊び倒していた。それで最近ハマったのは釣りだ。
 ピクピクと手に伝わる竿の感覚が楽しくて、毎日海に釣りに来ている。日焼けが…と最初は渋っていたモニカもどハマりしたらしく、私に大量の日焼け止めを塗り日陰で釣りが楽しめるポイントを自ら探して来たくらいだ。


「今日こそは私が釣った魚をお嬢様のディナーにお出しするんです!!」
「あはは!モニカったら、昨日も聞いたわよ、それ」
「くっ…中々奴らは頭が良いのですよ…」


 悔しげに呟くモニカは、針に餌を付けてぽちゃんと水面に投げた。私もせっせと餌を付けては、同じように投げる。しかし、ピクピクとアタリはあるものの、いつの間にか餌だけ無くなっているという現象に毎日頭を悩ませている。

 そう、一匹も釣れていない。


「あっ…!また餌だけ…」
「あら、私もだわ」


 竿を上げると餌の無くなった針だけがゆらゆらと揺れている。


「難しいわねぇ、釣りって」
「そうですねぇ、相手も死活問題ですからねぇ」
「確かに、魚からすれば私達は美味しい餌で罠を掛ける悪人でしょうね」
「まぁっ!せめて悪女に致しません?何か、こう…良い感じでしょう?」
「あははは!良い感じって何よ?」


 そんな具合に毎日楽しく生きている。彼らの事は、思い出してもすぐに違う楽しい事でかき消されていくのだ。どちかと言えば、今は目の前で餌を取っていく魚を釣る方が大事である。


「釣れてるか?ティアラ」
「あっ!テオ!!いいえ、魚に出し抜かれてばっかりで全く釣れないわ」
「ははは!そりゃ大変だ!でも喜べ、俺が釣りの天才をつれてきてやったぞ」
「まぁ!そうなの?」
「あぁ、今準備してるよ、ほら、あいつだ」


 テオが指差す先には真っ赤な髪を揺らし、日に焼けた肌の男性が釣り竿を持って歩いてくる所だった。


「リーン、こっちだ」
「待たせた、すまん」


 手を上げて笑う彼は爽やかな雰囲気の男性だった。
 日焼けした肌に真っ白な歯が印象的な人。


「ティアラ、お前の釣りの師匠になるリーンハルトだ。ジェラス商会の跡取り息子だ」
「まぁ!あのジェラス商会の?私、ティアラ・シュバルツです。よろしくお願いします」
「シャリエ様のお孫さん…ですか。初めまして、リーンハルト・ジェラスです。リーンとお呼び下さい」


 にこっ!綺麗な笑顔を正面から貰い、私は目を奪われてしまった。爽やか!!爽やかだわ!!レモンケーキみたい!!


「リーン様…私達、未だに魚を釣った事がないのです。ご教授願えますか…」
「は…あはは!そんなに畏まらなくても!!すぐに釣れますよ」
「でも…私も侍女のモニカも…全くで…」
「どうしても私が釣った魚をお嬢様のディナーにしたくて…お願いします!リーン様!」


 リーン様は一瞬驚いて、「わかりました」と笑い出した。彼は針に餌を付けて、ぽちゃんと海に投げる。


「ここまでは多分、一緒です」
「はい、そうです」
「問題はここからですかね」
「は、はい!!」


 私とモニカは目を皿のようにしてじっとリーン様を見ていた。一瞬たりとも気が抜けない。どこに問題点が眠っているかわからないのだから。


「あ、ピクピクしてますわ」
「そうですね、そろそろ釣り上げますよ」
「え!?もう!?」
「いきますよ、ほらっ!」


 リーン様が竿を上げると針の先にピチピチと魚が掛かっていた。


「あっ!!」
「お嬢様!!魚です!!釣れています!!凄い!!」
「ね?簡単でしょう?」


 リーン様は針から魚を外してぽいっと水に沈めた網にそれを入れた。


「ピクピクとなる瞬間はわかるのですが…竿を上げたらいつもいないのです」
「引き上げるタイミングが少しずれているんでしょうね」
「タイミング…」
「そうです」


 私達はそのタイミングがわからないでいた。モニカはどうしても釣りたいからと、リーン様に横で「今!」と言ってもらっていた。


「お嬢様!!釣れましたよ!!ほら!!!」


 モニカの嬉々とした声が聞こえて振り返ると小さな魚がピチピチと跳ねていた。モニカは興奮した様子で魚を針から外していたが、ぴちりっと元気よく動いた魚はそのままモニカの手を離れ。


 ぽちゃんっ!!


「あーっ!!」


 元いた海に帰って行きましたとさ…。
 私達はその後もリーン様に色々と教えて頂き、大物を狙うべく毎日海に出掛けていた。


 そんな時、一通の手紙が届き…穏やかな日々が終わりを告げると知る。

 この地に来てから二週間が経っていた。









しおりを挟む
感想 232

あなたにおすすめの小説

【完結済】自由に生きたいあなたの愛を期待するのはもうやめました

鳴宮野々花@軍神騎士団長1月15日発売
恋愛
 伯爵令嬢クラウディア・マクラウドは長年の婚約者であるダミアン・ウィルコックス伯爵令息のことを大切に想っていた。結婚したら彼と二人で愛のある家庭を築きたいと夢見ていた。  ところが新婚初夜、ダミアンは言った。 「俺たちはまるっきり愛のない政略結婚をしたわけだ。まぁ仕方ない。あとは割り切って互いに自由に生きようじゃないか。」  そう言って愛人らとともに自由に過ごしはじめたダミアン。激しくショックを受けるクラウディアだったが、それでもひたむきにダミアンに尽くし、少しずつでも自分に振り向いて欲しいと願っていた。  しかしそんなクラウディアの思いをことごとく裏切り、鼻で笑うダミアン。  心が折れそうなクラウディアはそんな時、王国騎士団の騎士となった友人アーネスト・グレアム侯爵令息と再会する。  初恋の相手であるクラウディアの不幸せそうな様子を見て、どうにかダミアンから奪ってでも自分の手で幸せにしたいと考えるアーネスト。  そんなアーネストと次第に親密になり自分から心が離れていくクラウディアの様子を見て、急に焦り始めたダミアンは───── (※※夫が酷い男なので序盤の数話は暗い話ですが、アーネストが出てきてからはわりとラブコメ風です。)(※※この物語の世界は作者独自の設定です。)

〖完結〗旦那様が私を殺そうとしました。

藍川みいな
恋愛
私は今、この世でたった一人の愛する旦那様に殺されそうになっている。いや……もう私は殺されるだろう。 どうして、こんなことになってしまったんだろう……。 私はただ、旦那様を愛していただけなのに……。 そして私は旦那様の手で、首を絞められ意識を手放した…… はずだった。 目を覚ますと、何故か15歳の姿に戻っていた。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全11話で完結になります。

貴方は私との婚約を解消するために、記憶喪失のふりをしていませんか?

柚木ゆず
恋愛
「レティシア・リステルズ様、申し訳ございません。今の僕には貴方様の記憶がなく、かつての僕ではなくなってしまっておりますので……。8か月前より結ばれていたという婚約は、解消させていただきます……」  階段からの転落によって記憶を失ってしまった、婚約者のセルジュ様。そんなセルジュ様は、『あの頃のように愛せない、大切な人を思い出せない自分なんて忘れて、どうか新しい幸せを見つけて欲しい』と強く仰られて……。私は愛する人が苦しまずに済むように、想いを受け入れ婚約を解消することとなりました。  ですが――あれ……?  その際に記憶喪失とは思えない、不自然なことをいくつも仰られました。もしかしてセルジュ様は………… ※申し訳ございません。8月9日、タイトルを変更させていただきました。

愛のない貴方からの婚約破棄は受け入れますが、その不貞の代償は大きいですよ?

日々埋没。
恋愛
 公爵令嬢アズールサは隣国の男爵令嬢による嘘のイジメ被害告発のせいで、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられる。 「どうぞご自由に。私なら傲慢な殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」  しかし愛のない政略結婚でこれまで冷遇されてきたアズールサは二つ返事で了承し、晴れて邪魔な婚約者を男爵令嬢に押し付けることに成功する。 「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って実は〇〇ですよ? まあ独り言ですが」  嘘つき男爵令嬢に騙された王太子は取り返しのつかない最期を迎えることになり……。    ※この作品は過去に公開したことのある作品に修正を加えたものです。  またこの作品とは別に、他サイトでも本作を元にしたリメイク作を別のペンネー厶で公開していますがそのことをあらかじめご了承ください。

〖完結〗親友の幸せを願っていたのに、親友は私が大嫌いだったようです。

藍川みいな
恋愛
「私、レイド様が好きなの! 協力してくれない?」 親友のモニカが、好きだと言ったレイド様は、私もずっと好きだった人でした。 好きな人をモニカに譲る事にしたのですが、モニカは私を親友だとは思っていませんでした。それどころか、大嫌いだそうです。 カゲで散々悪口を言っていたのを聞いてしまった私は、反撃する事に…… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全7話で完結になります。

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

〖完結〗醜いと虐げられて来た令嬢~本当は美しかった~

藍川みいな
恋愛
「お前は醜い。」ずっとそう言われてきたメリッサは、ずっと部屋に閉じこもっていた。 幼い頃から母や妹に、醜いと言われ続け、父テイラー侯爵はメリッサを見ようともしなかった。 心の支えは毎日食事を運んでくれるティナだけだったが、サマーの命令で優しいふりをしていただけだった。 何もかも信じられなくなったメリッサは邸を出る。邸を出たメリッサを助けてくれたのは… 設定はゆるゆるです。 本編8話+番外編2話で完結です。

(完)婚約解消からの愛は永遠に

青空一夏
恋愛
エリザベスは、火事で頬に火傷をおった。その為に、王太子から婚約解消をされる。 両親からも疎まれ妹からも蔑まれたエリザベスだが・・・・・・ 5話プラスおまけで完結予定。

処理中です...