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16 アリーシャ視点

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「お前達が呼ばれた事に、心当たりはあるな?」


 目の前にはお父様、お母様に、お義兄様のお父様、お母様がいる。
 私が慌てて浴室から飛び出した頃、我が家に到着したようだ。応接室に呼ばれた私達は、四人にじっと見つめられるという何とも気不味い状態にある。


「単刀直入に聞く。何故ティアラに内緒で密会など疑われるような事をした?」


 お父様が淡々と質問を投げかけてくる。どうして知っているのかと一瞬思ったけれど、お姉様に知られていたのだとすぐに気付いた。ざっと血の気が引いた。


「黙っていないで答えなさい」
「そ、れは…」


 答えられない。
 答えてはいけない。
 だって、知られてはならない事だから。


「アリーシャ、リュダール、お前達がそんな事をしたから、ティアラは家を出た」
「えっ!?」
「ティアラが!?今、今ティアラはどこに!?」


 ずっと上の空だったお義兄様が、お姉様の名に反応を示した。抜け殻、まさにその呼び名がしっくりくるほどに反応がなかったのに。


「お前達にティアラの居場所は教えない。自分達がどれだけティアラを傷付けてきたのか考えた事はあるか?」
「それは…」
「ティアラ…ごめん…ごめん…」


 いつから知っていたのだろう…そう思うと手が震える。大好きなお姉様を傷付けるつもりは無かった。知らない方がいいだろうと私が勝手に思っていただけ。それに、お姉様は絶対私を止めるはずだから…それだけは、どうしても嫌だった。


「リュダール、理由を答えなさい。このままでは、ティアラとの婚約は解消になるわよ」
「お、お姉様との婚約を解消ですって!?」


 おばさまの一言に私は思わず大きな声を出してしまった。さっきお義兄様が言っていたけど、互いの両親まで話が進んでいるなんて!!マズイわ、それはダメよ!お義兄様は声も出せずに固まっている。


「アリーシャ、ティアラは約半年間思い悩んできた。お前達のせいでな。だから、家を出たんだ。そりゃあそうだろう、婚約者と妹が不貞関係にあるかもと思えば、そんな所にはいたくないだろう」
「なっ…不貞!?」
「疑われても仕方ないだろう?何せ隠れて会っているのだからな」


 冷たい表情のお父様は、怖い。ふるりと肩が震える。助けを求めてお母様を見るけど、微笑むだけで口は開かない。


「俺は誓ってアリーシャと不貞なんてしていません!!俺が愛してるのは昔も今もティアラだけだ!!」


 悲痛な声で叫ぶお義兄様は、涙をぼろぼろと流しながら両親達に詰め寄っている。私は今になってお姉様の儚げな笑顔を思い出す。前はもっと明るく笑っていた…半年前といえば…お姉様の誕生日パーティー…そういえば…あの時。


「わ、私…」


 何て事だ…誕生日パーティーの時、初めての受け渡しの為に倉庫でお義兄様と会っていたのを見られていたのかも知れない…。その後から…お姉様は……。


「リュダール、君はそう言うが例えばティアラが君以外の男と隠れてコソコソ会っていたら…君はそれを笑って許してやれるのか?」
「そ、れは…」
「半年間、それを目にし続けても…ティアラを信じてやれるだろうか?」
「……それは…」


 他の男とお姉様が会っているなんて、想像しただけで耐えられないでしょうね、お義兄様には。昔から異常なくらいお姉様だけを想い続けているんだもの。自分の友人達にも見せたくないくらいに。


「想像できたか?それと、ティアラが家を出る前に言っていたよ。君がパーティーの夜、アリーシャの部屋で肩を抱き寄せていたとな」
「違っ…!あれは、私が泣いたから…!!」
「なっ…見られて…」


 最悪だ。あの日の私はお酒を飲みすぎて、あまり覚えてない。けれど、お義兄様にぐちぐちと文句を言って八つ当たりしたのは覚えている。あまりにも辛くて…悔しくて…泣いた。
 お義兄様は大丈夫、と悲惨な状態の私を慰めていてくれたに過ぎない。それをお姉様が…見ていた…なんて。私はただダンスをするとある男女を見ただけで絶望したのに…。お姉様は……どれだけ……。


「お義兄様と私に恋愛感情なんて微塵もありません!!私が好きなのは…!!」
「やめろ、アリーシャ!それ以上はダメだ!!」
「でも!!このままだとお姉様とお義兄様が!!」
「…それでも、だ。まだ今はダメなんだ」
「そんな……」


 お義兄様はぐっと唇を噛み、悔しさや悲しみを耐えている。私が…あんな事を夢見なければ…。お姉様だけにでも伝えていれば。


「ぅっ…」


 自分のあまりの身勝手さに吐き気を催した。私は自分の事しか考えていなかった。お姉様に知られなければ大丈夫だとさえ思っていた。お姉様に隠し事など出来るはずもないのに。


「お姉様に…謝りたい……」


 ごめんなさいお姉様…本当にごめんなさい。
 私のせいで…馬鹿な妹でごめんなさい…。


 私のドレスにぽたぽたと落ちる涙が染みを作っていくのを私は呆然と見る事しかできなかった。












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