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私は痛む頭を押さえて世が白むのを見つめていた。
目を閉じたら、アリーシャを抱き寄せるリュダールが浮かんでしまって…とても眠れる状態では無かった。
あの後、しばらく見つめていた…いや、見たくは無かったけれど足が動いてくれなかった。アリーシャは眠ってしまったらしく、リュダールはそっとベッドに寝かせていた。そこで漸く神経の通った足を動かしてその場から離れた。
リュダールがいつまであの部屋にいたのか…それは知らない。
逃げるように部屋に帰りドアを閉めて座り込んだ。聞いたことのない心臓が跳ねる音、震える両手をただ見つめることしか出来ない。
「……嘘つき……」
その一言しか出てこなかった。
信じてたのに。
信じたかったのに。
嘘だった…全部…嘘だったのね…。
溶けたような顔も、愛の言葉も、熱の籠った視線も全部。
心臓がガラス細工ならば、パキパキとヒビが入りガシャンと壊れただろうと思えるくらいに痛い。
「ふ…ふふ…ふふふ…あはは…」
私はこの時初めて知った。人は、絶望をすると笑うのだと。
そして、笑った後に…初めて泣けるのだと。
「う…」
膝に顔を埋めて、声も上げずに泣いた。
泣いて、泣いて…いよいよ涙も出なくなった頃。
ようやく昏く悲しい夜が明けて全てを照らす太陽が昇る。
「馬鹿みたい…私…」
勝手に信じて見たくない物から目を背けて。いざ目の当たりにしたら何も考えられなくなるなんて。
仕返しをして、元に戻れると思うなんてどうかしてる。そもそも私に気持ちがないのに戻るも何もありはしないのに。
「…私は…」
今でもあなたを愛してる。
だから、決断をしなければならない。
愛しい人、どうか。
どうか、あなたの最愛の人と末長くお幸せに。
私は登り行く太陽に祈りを捧げる。
「さぁ、最悪で最高の一日にしよう」
私は憑き物が取れたかのように笑った。
「ティアラ、眠れなかったのか?」
ランチは庭園にセットしてもらった。自室はあまりにも思い出がありすぎて。これ以上の積荷には耐えられない。モニカには席を外してもらい、他の事を頼んである。
「ちょっと、寝付けなくて」
「勉強、無理してるんじゃないのか?」
「大丈夫よ、今日は眠れると思うから。あなたも寝不足なんじゃない?」
心配そうな表情を向けて来る彼は、いつもと同じに見える。でも、それに期待をしてはいけない。
「昨日帰って来るのが遅くなって…アリーシャが飲みすぎてさ」
「そう、大変だったわね。お疲れ様」
「酔っ払いの相手はキツイわ」
「うふふ…そうね」
枯れたと思った涙がまた活動を始めたようで、ひょっこり顔を出さないように庭園を眺める。この庭園にも思い出はたくさん。
「ティアラ、結婚指輪の事だけどさ」
「え、うん」
「昨日、リアのオーナーとばったり会って、今度店においでって」
「リアのオーナー…知り合いなの?」
「前にネックレス作った時に、結婚指輪の話もしてたんだよ」
「そうなんだ」
結婚指輪…それは、もう…私達には…。
相談は、あの子と行けばいい。
「ティアラ?嬉しくない?」
「え、いいえ!リアのオーナーってパーティーとか来るんだなって思って。正体不詳でしょ?」
「うん、知ってる人がかなり少ないらしい。俺もティアラ以外には言ってない。口止めされてる」
「そうよね、みんな何もわからないって言ってたわ」
ニコニコと機嫌の良さそうな彼は、やっぱり私に真実を打ち明ける様子も見られなくて。
あんなに泣いていたあの子を優しく慰めていたのに、彼女を婚約者と言えなくても苦しくはないのだろうか。
「そうだな、明かせる事と、明かせない事があるんだろうな」
遠くを見つめながら彼はそう呟いた。まるで自分の事のように。言いたくても言えない、何か理由があると言うように。
「あなたも何か明かせない事があるの?」
ふと口を突いて出た一言に私が一番驚いた。
お願い、全てを今私に明かして。
そうしたら、あなたを信じる事ができる。
「俺はティアラに明かせない事はないよ」
世界が真っ黒になった瞬間だった。
いつもの顔でいつものように笑うあなたを私はもう信じる事が出来ないわ…。
最後の願いでさえも、あなたは無かった事にしてしまうのね。
気付いているかしら?私は今日、一度もあなたの名を呼んでいないことに。次に愛しいあなたの名を呼ぶ時が、最後の時なのだと。
「ふふ…そうね。私、嘘つきは許せないから、良かったわ」
「…っ!そうだな、ティアラは昔から嘘が嫌いだよな」
「えぇ、けれど、私が相手に嘘を吐かせてしまっている事もあるかもしれないから…気を付けないとね?」
「そ、そうだな?」
私は彼を見て微笑んだ。
私もあなたを好きだと言ったから、心が変わってもあなたは嘘を吐くしかなかったのね。
さっきまで晴れていた空が少しずつ陰りを見せる。
私ももう、限界だった。
目を閉じたら、アリーシャを抱き寄せるリュダールが浮かんでしまって…とても眠れる状態では無かった。
あの後、しばらく見つめていた…いや、見たくは無かったけれど足が動いてくれなかった。アリーシャは眠ってしまったらしく、リュダールはそっとベッドに寝かせていた。そこで漸く神経の通った足を動かしてその場から離れた。
リュダールがいつまであの部屋にいたのか…それは知らない。
逃げるように部屋に帰りドアを閉めて座り込んだ。聞いたことのない心臓が跳ねる音、震える両手をただ見つめることしか出来ない。
「……嘘つき……」
その一言しか出てこなかった。
信じてたのに。
信じたかったのに。
嘘だった…全部…嘘だったのね…。
溶けたような顔も、愛の言葉も、熱の籠った視線も全部。
心臓がガラス細工ならば、パキパキとヒビが入りガシャンと壊れただろうと思えるくらいに痛い。
「ふ…ふふ…ふふふ…あはは…」
私はこの時初めて知った。人は、絶望をすると笑うのだと。
そして、笑った後に…初めて泣けるのだと。
「う…」
膝に顔を埋めて、声も上げずに泣いた。
泣いて、泣いて…いよいよ涙も出なくなった頃。
ようやく昏く悲しい夜が明けて全てを照らす太陽が昇る。
「馬鹿みたい…私…」
勝手に信じて見たくない物から目を背けて。いざ目の当たりにしたら何も考えられなくなるなんて。
仕返しをして、元に戻れると思うなんてどうかしてる。そもそも私に気持ちがないのに戻るも何もありはしないのに。
「…私は…」
今でもあなたを愛してる。
だから、決断をしなければならない。
愛しい人、どうか。
どうか、あなたの最愛の人と末長くお幸せに。
私は登り行く太陽に祈りを捧げる。
「さぁ、最悪で最高の一日にしよう」
私は憑き物が取れたかのように笑った。
「ティアラ、眠れなかったのか?」
ランチは庭園にセットしてもらった。自室はあまりにも思い出がありすぎて。これ以上の積荷には耐えられない。モニカには席を外してもらい、他の事を頼んである。
「ちょっと、寝付けなくて」
「勉強、無理してるんじゃないのか?」
「大丈夫よ、今日は眠れると思うから。あなたも寝不足なんじゃない?」
心配そうな表情を向けて来る彼は、いつもと同じに見える。でも、それに期待をしてはいけない。
「昨日帰って来るのが遅くなって…アリーシャが飲みすぎてさ」
「そう、大変だったわね。お疲れ様」
「酔っ払いの相手はキツイわ」
「うふふ…そうね」
枯れたと思った涙がまた活動を始めたようで、ひょっこり顔を出さないように庭園を眺める。この庭園にも思い出はたくさん。
「ティアラ、結婚指輪の事だけどさ」
「え、うん」
「昨日、リアのオーナーとばったり会って、今度店においでって」
「リアのオーナー…知り合いなの?」
「前にネックレス作った時に、結婚指輪の話もしてたんだよ」
「そうなんだ」
結婚指輪…それは、もう…私達には…。
相談は、あの子と行けばいい。
「ティアラ?嬉しくない?」
「え、いいえ!リアのオーナーってパーティーとか来るんだなって思って。正体不詳でしょ?」
「うん、知ってる人がかなり少ないらしい。俺もティアラ以外には言ってない。口止めされてる」
「そうよね、みんな何もわからないって言ってたわ」
ニコニコと機嫌の良さそうな彼は、やっぱり私に真実を打ち明ける様子も見られなくて。
あんなに泣いていたあの子を優しく慰めていたのに、彼女を婚約者と言えなくても苦しくはないのだろうか。
「そうだな、明かせる事と、明かせない事があるんだろうな」
遠くを見つめながら彼はそう呟いた。まるで自分の事のように。言いたくても言えない、何か理由があると言うように。
「あなたも何か明かせない事があるの?」
ふと口を突いて出た一言に私が一番驚いた。
お願い、全てを今私に明かして。
そうしたら、あなたを信じる事ができる。
「俺はティアラに明かせない事はないよ」
世界が真っ黒になった瞬間だった。
いつもの顔でいつものように笑うあなたを私はもう信じる事が出来ないわ…。
最後の願いでさえも、あなたは無かった事にしてしまうのね。
気付いているかしら?私は今日、一度もあなたの名を呼んでいないことに。次に愛しいあなたの名を呼ぶ時が、最後の時なのだと。
「ふふ…そうね。私、嘘つきは許せないから、良かったわ」
「…っ!そうだな、ティアラは昔から嘘が嫌いだよな」
「えぇ、けれど、私が相手に嘘を吐かせてしまっている事もあるかもしれないから…気を付けないとね?」
「そ、そうだな?」
私は彼を見て微笑んだ。
私もあなたを好きだと言ったから、心が変わってもあなたは嘘を吐くしかなかったのね。
さっきまで晴れていた空が少しずつ陰りを見せる。
私ももう、限界だった。
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