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「まぁ、ロジェは及第点といったところね。ミシェルとクリスは着替えたらわたくしと四阿でお茶を」

 いつの間にか扉前に来ていたエディットが二人に呼びかけた。

「はい! お義母様!」
 ミシェルが元気に返事をして、クリスティーヌも「はい」と頷いた。

「母上。私も一緒に」

 ロジェが珍しく自分から声をかけた。

「野暮ね。女性だけの話があるのに」
「いけませんか?」
「……仕方がありません。そこの、逃げようとしているレイモンドもいらっしゃい」

 そう言いおいて踵を返そうとしたエディットは立ち止まり、ルーカスを一瞥した。

「お前は騎士団の平民寮に入れます。これは決定事項です。王命でマノロ殿下から宰相のロジェに下賜されたクリスティーヌ様は、お前などとは比べようのない高貴な方だと、その身に刻みなさい。平民寮へ入れば、自ずと理解できるでしょう」

「そん、そんな!! おれ、私はこのカヌレ家のちゃく「勘違いするな」

 ルーカスの言葉に今度はロジェが被さる。

「カヌレ伯爵家は代々実力主義だ。お前の父上は顔の美しさで近衛騎士になったとでも? それは侮辱というものだろう。かの近衛騎士団を実力主義に変えたのは兄上だ。それがどれほどの苦労か、お前にはわからぬだろうが、兄上は実力でこのカヌレ家を継ぐ。それを身をもって知るがいい。私に踏みつけられているような男には、カヌレ家は絶対に継がせない。母上が生んだ息子は三人もいるのだということを決して忘れるな」

 震えるルーカスにレイモンドが声をかけた。

「俺にもロジェにもいずれは子どもができるだろうしな? 兄貴は公平な人だから、資質がある者にしか継がせない。ちょっと考えりゃ当たり前のことなんだがな。家の存続に関わるんだ。つまり、今のお前には爵位なんざ転がっちゃこねぇぞって話なんだけど。ロジェに言われていることの意味、本当にわかってる?」

 ここで頷く以外の選択肢はなかったのだろう。
 ロジェの殺気にあてられているルーカスは、ガクガクしながら頷いた。

「文官になるっていう道もあるんだぞ? 俺が見る限りでは、騎士よりそっちのほうがまだ可能性がある気がするんだけど……どうしても騎士になりたいなら、もっと死ぬ気で稽古しろ。平民の見習い騎士は荒っぽいぞ? あいつ等こそ強くなきゃ生き残れないからな。ただし、剣のセンスがなくても残る奴は残る。文字通り、そいつらは死ぬ気でやってるよ。見てるこっちの胃が痛くなるぐらいにな。その覚悟がお前にあるかどうかだよ」

 ようやくロジェが足を離したときには、ルーカスは見るも無残な負け犬のような姿をしていた。
 俯いたままのルーカスをロジェが起こし、部屋の外へ引きずっていった。

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