【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび

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「うわっ、娼婦が来てんのかよ!!」

 クリスティーヌを取り囲んでいた二人が殺気立った。
 ルーカスの暴言よりも、殺気のほうが気になってしまう。

「ロジェ叔父様は!? 一人で来たのかよ!?」
「ルーカス。ノックもせずに淑女が控えている部屋に入るとは。一応聞くが、娼婦とは誰のことだ?」
「そいつだよ!!」

 ルーカスはクリスティーヌを指差した。

 彼には一周目のときに髪を引っ張られたので、今世でも苦手なままだ。
 赤い短髪に茶色の瞳。
 カヌレ伯爵家が持つアイスブルーの瞳をルーカスは受け継いでいない。
 顔立ちも父親のラッセルに似ていないことから、一見するとカヌレ家とはわからないだろう。

 ロジェと結婚する前に行われた顔合わせの席で、ルーカスが突然「叔父様が娼婦を娶るなんて!!」と叫んだときはさすがに唖然としたが、すぐに「なるほど、愛妾という立場は世の中の人にはそう思われるのね?」と、妙に納得してしまった。

(でもそれは娼館で働く方たちに失礼な発言だわ……)

 彼女たちを馬鹿にすることは、クリスティーヌにはできない。
 生き方を選べずに、それでも必死に生きる人たちを。
 身を削りながら生きるのは娼婦も修道女も――妃でさえ、何も変わらない。

 クリスティーヌはぼんやりとそんなことを思っていたが、カヌレ伯爵家は大騒ぎになった。
 誰が何を叫んだか覚えていないほど、大きな声が飛び交った。

 隣に座っていたミシェルがルーカスにナプキンを投げつけようとしていたので、それだけは必死で止めた。
 反対側の隣に座っていたロジェには『みんなを止めて、私は大丈夫だから』と目くばせしたが、ロジェはいつも以上に表情が抜け落ちていて、ぬらりと立ち上がってしまった。

(これ以上、揉めないで!!)

 そんな願いもむなしく、ロジェよりも速く動いたのはエディットだった。

 あっという間にルーカスの前に立ち、彼の頬を叩くと、何も言わずに部屋から追い出した。最後はルーカスを蹴っていたと思う。
 ロジェだけでなく、カヌレ伯爵もラッセルも、レイモンドさえも間に合わないぐらいの速さだった。
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