14 / 57
3-5
しおりを挟む化粧水は呆気なく商品化された。売れ行きも上々のようである。
今は市井でしか販売していないが、美しい瓶に入れて貴族に売ってはどうかというところまできている。
父は貿易はさっぱりらしいが、物づくりの資質は持っていたようだ。
発想という点が問題で、それを解決してくれる人がいなかったため、売れる商品が作れなかったのだろう。
ファビオの頬は思春期のせいもあって完治は難しかったけれど、部屋にこもることはなくなっていった。
クリスティーヌは野菜嫌いで肉ばかり食べるファビオの食生活もよくないのではと思っていたため、父にこっそり相談して食事の改善を試みた。
やはりこの知識もタルコット公爵家で読んだ書物のお陰である。あの家の図書室には王都で売っている本は全て揃っていたと言っても過言ではない。
そして。
悪いこともだが、良いことというのも案外続くものである。
クリスティーヌが前世を思い出してから一年経ったころ、父が義母とコレッティ子爵の信用を取り戻すような商品を作りたいと言ってアイディアを求めてきたのだ。
(そろそろとは思っていたから好都合だけど、六歳の娘にアイディアをねだるってどうなのよ……)
若干顔を引き攣らせながらも、義母のための商品のアイディアを披露する。
父の膝の上であることは考えないようにした。
「スズランっていうお花がいい香りなんだそうです」
「スズランか……あまり馴染みがないな」
これもタルコット公爵家でお世話になっていたころ、レイにお土産でもらった香水の中に珍しいスズランの香水があったのだ。
(先に出してしまう申し訳なさはあるけれど、薔薇の香りだってジャスミンの香りだって、色んなお店が出してるのだから、スズランだっていいよね?)
「図鑑で見たスズランがお義母様のように綺麗だったので、お義母様の名前の香水にするのはどうですか?」
クリスティーヌが知る限りでは、クリスティーヌが生まれる前から、二人は寝室を共にしていない。
父の不貞が先だったと噂する人もいれば、先に父を寝室から追い出したのは義母だという人もいた。
(真実は重要じゃないわ。お父様とお義母様の仲が改善するのが重要だもの)
「なるほど? ベルタという名は美しいという意味だし、それは良い案だな」
作り方を調べる必要はない。
父の持つ工場では香水も作っているからだ。
「しかしクリスティーヌは、一体どこでそんな知識を得ているんだろうね?」
不意にかけられた言葉に心臓が跳ね上がった。
貴族らしい笑みを向けられ、背中がすっと冷えたような気もする。
「色んなご本を、読んでもらってるんです」
「ほう?」
父がチラリとカリナを見たが、カリナは表情を変えることなくお辞儀をしていた。
「まぁ、いいだろう。そういうことにしておこう」
ニッコリ。
父が貴族らしい笑顔をクリスティーヌに向ける。
(お父様がこの笑顔のときは危ないわ……少しお父様を侮り過ぎていたかも。もうアイディアを出すのはこの辺りで終わりにしておこう……)
関係の改善は今後の為に必要ではあるが、何事もやり過ぎはよくない。
最近、やけにクリスティーヌに話しかけてくるようになったファビオにも気を付けなければならない。近付き過ぎて運命が急激に変化するのが怖いからだ。
(あとはどうやって学園に行かずに済ませるかよね……)
前回までのループでは、ファビオは学園に通っていなかった。
今回は引きこもっていないので恐らく通うだろう。
(お義兄様が学園に通って、すごくお金がかかるからというのを理由にして行くのをやめようかな?)
父が納得するかが問題だが、まだ時間はある。
家庭教師だけで十分だと徐々に示して行こう。
27
お気に入りに追加
2,175
あなたにおすすめの小説
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

全てを捨てて消え去ろうとしたのですが…なぜか殿下に執着されています
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のセーラは、1人崖から海を見つめていた。大好きだった父は、2ヶ月前に事故死。愛していた婚約者、ワイアームは、公爵令嬢のレイリスに夢中。
さらにレイリスに酷い事をしたという噂まで流されたセーラは、貴族世界で完全に孤立していた。独りぼっちになってしまった彼女は、絶望の中海を見つめる。
“私さえいなくなれば、皆幸せになれる”
そう強く思ったセーラは、子供の頃から大好きだった歌を口ずさみながら、海に身を投げたのだった。
一方、婚約者でもあるワイアームもまた、一人孤独な戦いをしていた。それもこれも、愛するセーラを守るため。
そんなワイアームの気持ちなど全く知らないセーラは…
龍の血を受け継いだワイアームと、海神の娘の血を受け継いだセーラの恋の物語です。
ご都合主義全開、ファンタジー要素が強め?な作品です。
よろしくお願いいたします。
※カクヨム、小説家になろうでも同時配信しています。

侯爵家のお飾り妻をやめたら、王太子様からの溺愛が始まりました。
二位関りをん
恋愛
子爵令嬢メアリーが侯爵家当主ウィルソンに嫁いで、はや1年。その間挨拶くらいしか会話は無く、夜の営みも無かった。
そんな中ウィルソンから子供が出来たと語る男爵令嬢アンナを愛人として迎えたいと言われたメアリーはショックを受ける。しかもアンナはウィルソンにメアリーを陥れる嘘を付き、ウィルソンはそれを信じていたのだった。
ある日、色々あって職業案内所へ訪れたメアリーは秒速で王宮の女官に合格。結婚生活は1年を過ぎ、離婚成立の条件も整っていたため、メアリーは思い切ってウィルソンに離婚届をつきつけた。
そして王宮の女官になったメアリーは、王太子レアードからある提案を受けて……?
※世界観などゆるゆるです。温かい目で見てください

偽りの愛に終止符を
甘糖むい
恋愛
政略結婚をして3年。あらかじめ決められていた3年の間に子供が出来なければ離婚するという取り決めをしていたエリシアは、仕事で忙しいく言葉を殆ど交わすことなく離婚の日を迎えた。屋敷を追い出されてしまえば行くところなどない彼女だったがこれからについて話合うつもりでヴィンセントの元を訪れる。エリシアは何かが変わるかもしれないと一抹の期待を胸に抱いていたが、夫のヴィンセントは「好きにしろ」と一言だけ告げてエリシアを見ることなく彼女を追い出してしまう。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています
21時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。
誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。
そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。
(殿下は私に興味なんてないはず……)
結婚前はそう思っていたのに――
「リリア、寒くないか?」
「……え?」
「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」
冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!?
それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。
「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」
「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」
(ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?)
結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?
【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。
しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」
その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。
「了承しました」
ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。
(わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの)
そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。
(それに欲しいものは手に入れたわ)
壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。
(愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?)
エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。
「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」
類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。
だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。
今後は自分の力で頑張ってもらおう。
ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。
ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。
カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)
表紙絵は猫絵師さんより(。・ω・。)ノ♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる