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(神の采配かねぇ……)

 五年のキャリアを積んだミシェルは、結婚しても仕事は続けられる。周りが残ってくれと言うはずだし、ミシェルの有能さをラッセルも理解するはずだ。ラッセルは頑固だが、馬鹿ではない。仕事熱心な人にはむしろ好意的だ。ミシェルの同僚のロザリーも結婚してもなおバリバリ働いているし、女性が仕事を持つ時代に変わってきているのをラッセルも感じてくれるだろう。

(我ながら自分の気の長さには感心するけどな)

 レイモンドは三日の休みを申請し、すぐさま実家へと戻ると父の了承を得てレーヌ子爵家へと馬を走らせた。
 ミシェルの父はかなり警戒心が強く、初めは訝し気に、父からの書状を見てからは恐縮し、最後はレイモンドが持ち前の根気強さを発揮して説得した。最後は酒を酌み交わすほど受け入れられた。

(さてと。婚約は成立しそうだけれど……)

 問題はセフレなどとふざけたことをぬかしているミシェルである。
 レイモンドは真綿に包むかのようにミシェルを大切にしてきたつもりだった。

 こっそり護衛を付け、安全を確保してきた。とにかく彼女は目立つ上に、やたら睨まれる。レーヌ子爵は領民思いの善良な領主だが、宮廷での力はない。それもあり、ミシェルはどうしても侮られるのだ。
 レイモンドが大々的に恋人関係であると公言しない上に、婚約関係でもないことから、レイモンドに遊ばれているだけの女と囁かれることもある。苦々しい気持ちにはなるが、ある程度はしかたのないことで、だからことさら彼女の身の安全には気を配ってきた。

 それに。本当は毎日でも抱きたいところを、休日前から休日までに抑え、優しく優しく――少々時間は長かったかもしれないが――とにかくミシェルのことを大切にしてきた。

 それでも伝わらなかったのだ。

 レイモンドは気が長い。
 結婚というゴールが見えた今、何の憂いも焦りもない。
 したがって、初心な婚約者を大切にする貴公子に徹するのは容易い。

(俺がどれほどミシェルが大切に思い、結婚したいと思っているか、じっくりと『わからせ』ようじゃないか)

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