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34-2 これからは全ての時間を ※

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「……怪我も病も無い。だから、奏が僕に触れても聖女の力は発動しないように思う。だから、これは提案なんだけれど、……素手で触れて欲しい。駄目かな」

 駄目なわけがない。奏は首を振り、直ぐに手袋を外す。

「駄目じゃないです。素手で触れさせてください」
「――うん、触れて欲しい」

 フェリクスが囁いて、そのまま奏の頬に口づけてくる。ちゅ、ちゅ、と軽い音を立てて頬から鼻筋、首元に柔らかな唇が触れて、そのまま奏の口元に触れる。
 戯れのように唇を重ね合わせて、どちらからともなく笑い合う。寝ましょうか、と奏が声をかけると、フェリクスは頷いた。

 ベッドに向かう。元々、大きめのベッドであったから、二人で横になっても全く問題無い。なんなら多少ゆとりがあるくらいだ。

「じゃあ寝ましょうか」
「ねえ」
「はい」
「なんで離れてるの? 離れる必要ある? 無いよね」

 多少なりスペースを取るべきだろう、とフェリクスから少し遠い所で横になったのだが、それがどうやら大変不服であったらしい。フェリクスは直ぐに奏へ距離を詰めると、そのまま体に手を回してきた。そっと抱きしめられる。ただ、力は弱いが、抜け出せそうにはない。

「……少しは離れていた方が良いかなあって」
「僕のことを慮ってくれているのは凄く嬉しいけれど、その優しさは大丈夫。どこかに置いておいて」

 滔々と紡がれる言葉に、奏は小さく笑う。フェリクスが少しばかり怒ったような表情をした。
 部屋の明かりはまだ点いていて、お互いの表情がよく見える。フェリクスは奏の上に覆い被さるような格好を取ると、そのまま唇を重ねてきた。

「んっ、……フェリクス、ちょっと、ふふ」

 フェリクスはキスが好きなのかもしれない。奏と婚約関係を結んでからというもの、毎日必ず何度かしてくるようになった。
 奏としても、もちろん好きな人とキスするのは嬉しいし幸せなので、拒むつもりは無い。唇を重ねるだけでじんわりと頭が熱を持ち始め、思考がゆっくりになっていく。幸福感で背筋が痺れるような感覚を覚えたのは、初めてだった。

「折角一緒に寝るっていうのに、離れようとしたから。お仕置きだよ」
「これがお仕置き? ご褒美にしかなってないです」

 奏が笑うと、フェリクスも同じように笑う。ちゅ、ちゅ、と唇を重ね合わせては吐息を零すようにして喜色を滲ませる。
 どうしようもなく幸せで仕方無い。ずっとキスしていたい、なんて思ってしまいそうになる。

「……奏、キス、好きでしょ」
「……フェリクスもでは?」
「僕は好きだよ。奏とのキスが好き。毎日しても足りないくらいにはね」

 軽く唇を食むようにされて、一瞬だけぞく、と背筋が震えた。鼓動が少しずつ早くなっていくのがわかる。フェリクスに気付かれているだろうか、と考えて、これほどまでに体を密着させているのだから、気付かれていない方がおかしいか、と奏は苦笑する。

「――一緒に寝ようって誘われたら、流石に僕も色々と考えちゃうんだけど、わかってる?」
「……フェリクスの不安を取り除くために誘ったんですが。私の優しさは伝わっていない感じですか」

 奏が意識して口調を尖らせると、フェリクスは笑った。ごめん、と囁くように言葉を口にして、奏の額をすり、と指で撫でる。

「拗ねないでよ。もちろんキミの優しさは伝わっているけれど、……僕も男だし、キミの夫になるわけだし、もう我慢しなくても良いんじゃないかって思ってしまうんだよ」
「我慢?」
「そう。キミに、僕が今までどれほど我慢してきたか、語って教えたいくらいだ」

 フェリクスの唇が奏の唇を軽く食む。吸い付くようにされた後、舌先がそろ、と奏の唇に触れた。
 少しの躊躇いを乗せた、誘うような動きに奏も僅かに口を開く。舌先だけでキスをするように重ね合わせると、そのまま奏の口内へフェリクスの舌が入り込んできた。
 歯をなぞるように舌先が動き、丹念に中を愛撫される。舌をちゅ、と吸い付かれるようにされた後、内部を味わうように表面をゆっくりとすりあわされると、じんわりと鼓動が早くなっていくのを感じた。

 痺れるような甘い感覚に酩酊しそうになりながら、奏はフェリクスの背に手を回す。体温が高い。多分、興奮しているのだろう。それを、どうしようもなく嬉しいと思ってしまう。
 奏とのキスで、こんなにも鼓動を早くしてくれていることが、――幸せで仕方無い。結局、奏はどうしたってフェリクスの行動を受け入れてしまう。いや、受けいれたい、と思ってしまうのだ。

 唇が離れるや否や、角度を変えてまた口づけられる。フェリクスの舌が、奏の口内の弱い部分を掠めるように動いて、奏の体がびく、と震えた。瞬間、それに気付いたのだろう、フェリクスが楽しげに喉で笑う。重なった唇の隙間から、吐息のような声音が零れた。

「奏、好き、好きだよ」
「……も、ん、う、ぅ……」

 ちゅ、ちゅ、と吸い付くような水音を立てて、フェリクスは唇を離す。美しい虹彩が熱を孕んでいるのが見えた。
 普段とは違う。――欲情といっても差し支えない、視線が奏の輪郭を辿っていく。

「は、……奏、可愛い……」
「フェリクス……?」
「ごめん、本当に――止められない、かもしれない、ずっとこうやってキミに触れたかったから……」

 フェリクスの声は、熱に浮かされたように掠れていた。奏の耳元から首筋を辿り、鎖骨にキスをされる。少しずつ触れあった体の熱が、お互いに高くなっていくのがわかった。
 ゆったりとした寝間着の前を開き、フェリクスは奏の体に自身の体を密着させてくる。
 その瞬間、奏は自身の体に触れた硬い熱に気付く。

「……フェリクス?」
「……ごめん、勃ってしまったみたい」
「い、いや、大丈夫、大丈夫です、けれど」

 その状態で眠れるのだろうか。奏はフェリクスをうかがう。フェリクスは細く呼吸をすると、「大丈夫、自分でどうにかするから」と静かに囁いた。唇が重なり、舌が奏の口内を丹念に解していく。フェリクスの手が動いて、下に向かうのが見えた。
 口にした通り、恐らく、自分でどうにかするつもりなのだろう。しゅるしゅると皮膚が擦れるような音が耳朶を打って、それは次第にぬちぬち、と粘着質めいた音を混じらせていく。

「ん、は、――奏、好き、大好きだよ、……」

 舌先が離れて、奏の肩口に顔を寄せながら、フェリクスは掠れた声で奏の名前を呼ぶ。
 自身の体の上で、好きな人が自慰行為を始めるとは、思ってもみなかった。奏は何度もキスをしたせいで茹だりがちの脳を動かし、息を飲む。それからフェリクス、と名前を呼んで、そのままフェリクスの熱に触れた。フェリクスの体がびく、と震える。

「奏……?」
「て、手伝い、たいです。手伝わせてください……」
「……良いの? 本気にしてしまうけれど」
「本気にして下さい」

 奏は頷く。フェリクスが荒い呼吸を繰り返しながら、奏の手にこすりつけるように腰を動かした。奏の手に、フェリクスの熱が触れる。逡巡は一瞬だった。奏は熱に触れた手をそろそろと動かし始める。
 動かす度に、熱がびくびくと震える。まるでそこだけ別の生き物のように拍動している。フェリクスが小さく呻いて、そのまま奏の首元に口づけてきた。フェリクスの手が前を開いて、奏の体を露わにする。

「は、……待って、僕も、させて……」
「え? ――んっ!」

 フェリクスの指が奏の胸元に触れる。くすぐるように指先が動いて、奏は敏感に体を震わせた。
 くすぐったさの中に、じんわりと熱が灯っていくのがわかる。フェリクスの手の平が奏の胸を優しく揉むように動く度に、電気が通されたかのような微量の快感が奏の体を襲う。

「ん、あ、……っ、フェリクス、待って、触られると、むずかし、い……」
「手、止まっちゃう? 全然良いよ。可愛い声聞けるだけで、どうしようもなく興奮するから……」

 フェリクスの指先が奏の胸の先端に触れる。柔らかなそこを指先ですりすりと撫でられて、奏は息を詰まらせた。先端を軽く弾くようにされたかと思えば、触れるか触れないかの距離でそろそろと撫でられる。軽く摘ままれて扱くようにされると、思考が茹だっていくような感覚を覚えた。

「ここ、ふふ。かたくなってきてる。すりすりって撫でるのと、くにくに扱かれるの、どっちが好き?」
「あ、あっ、――ッん、ぅうっ……」
「可愛い。声、甘くて、凄い、腰に来る……」

 フェリクスの舌がそろ、と奏の胸元に触れる。唇で食むように加えられ、舌先でちろちろと先端を刺激されると、腰が震えるほどの快楽を覚えた。
 手伝う、と言ったのは奏なのに、フェリクスから与えられる刺激で体が震えて、上手く動けない。浅い呼吸を繰り返しながら、奏は首を振った。

「あ、あ、やぁ……っ、す、吸われるの、だめ、だめぇ……っ」
「ふ。あは。駄目じゃないでしょ? だって、体、熱くなってきてる」
「ほ、ほんとに、だめ、なの、頭……っ、頭、びりびり、してくるから……っ」
「可愛い、……ねえ、もっと触れたい、もっと……触らせて、奏」

 フェリクスが囁く。欲に濡れた声だった。普段発するそれと、全く違う声音だ。
 胸を愛撫していた手がゆっくりと降りて、そのまま下腹部に触れる。下着の上からすり、と秘部を撫でられて、奏は体を震わせた。

「は、可愛い、ここ……凄い、びくってして、濡れていて、凄くえっちで、……」
「んぅっ、あ、……っ」


 もう既に奏の手は動いていない。フェリクスから与えられる刺激によって、体の自由がままならない。フェリクスがふ、と笑う。

「ごめん、体勢変えさせて……」
「えっ……?」

 フェリクスは奏の上から退くと、奏を横向きの状態で抱きしめるようにする。
 ちょうど後ろから抱きしめられているような形だ。断続的に与えられていた刺激から、ようやく休息が出来た、と奏が息を僅かに引きつらせるのと同時に、奏の太ももの間に熱が差し込まれた。
 それは下着の上から、奏の秘所を刺激するようにすりすりと動き始める。

「んっ、フェ、フェリクス……?」
「好き、奏、好き……、はあ、ごめん、我慢出来なくて、……中には挿れない、から……っ、は、ねえ、こすりつけるたびに、ぬちぬちって、えっちな音して……っ」

 腰を動かしながら、フェリクスが奏の片方の胸元に手を伸ばす。柔らかなそこの中で、唯一芯を持ってしまった部分をフェリクスの指が刺激する。それと同時に、もう片方の手の平が、下腹部をくすぐるように動いた。
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