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番外編 参 歌のテスト
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日ノ元中学校の音楽室には2年A組の生徒が揃っていた。
「来週は歌唱のテストやるから皆練習するんやで。楽曲は何でもOK.
暗譜が原則やけど、外国語の歌に限っては見ながらでもえぇよ」
音楽教師、佐竹陽子からの宣告は、通常だと一部を除き死刑宣告も同然だった。
しかし、コンクールでの優勝を経験した猛者達にとっては腕が鳴る瞬間だった。
「何か質問は・・・無いんやったっら今日は解散」
直後、チャイムが鳴り生徒達は一礼した後音楽室を出た。
生徒達の話題は既に決まっていた。
「何にする?」
「正直選択肢が多過ぎて凄く困ったlolol」
「明照にお勧め聞いてみるか?」
「良いわね。そうしましょ」
2年A組の生徒にとって、人前で歌うのは、依然緊張はするが
今となっては楽しくて楽しくて堪らない事だった。
翌日から明照は目が回る程忙しくなった。自分のクラスだけでなく
他のクラス、剰え、1年生と3年生からも助言を求められる程だった。
寝る間も惜しんで処理しても未だ追いつかないので、根路銘崇と赤嶺美娜が
マネージャーを務めた。人に教えを求める態度ではないと判定された
者を門前払いにした結果、助言を求める者の数は幾分減った。
数日後、歌声喫茶“ひかり”での会に出た後、明照・崇・美娜は残って
歌のテスト対策をしていた。そんな折、主催者の孫娘
稲葉杏果が小走りで現れた。
「いらっしゃい。明照君、たーかーにーにー、みーなーねーねー。
歌のテスト対策、よく頑張っているんだね」
杏果の存在は“休憩しなさい”と云うサインであると考えた3人は
目線を向けると表情を緩めた。
「大丈夫? 魂飛んでいってない?」
冗談交じりに明照が尋ねると、崇と美娜は吹き出しながらも答えた。
「何十回もそんな事してたら身がもたないってlolol」
「明照がそんな冗談言える様になるとは思わなかったlolol」
笑いが巻き起こりながらも、兎も角も、3人は杏果の案内で家に入った。
「何でも自由に選んで良いと言われると確かに却って悩むよね」
苺を食べながら杏果は考えた。
「まぁ、僕達は直ぐに決まったから良いけどね」
明照の言葉に褐色カップルは大きく頷いた。
「本当、歌声喫茶に通っていて良かったな」
「多分これは簡単には真似出来ないと思うよ」
暫くの間、4人は談笑していたが、直ぐに本来の目的を思い出した。
自分達は苺を食べに来た訳じゃない。
「忘れるところだった。僕達は歌のテスト控えているんだった」
この言葉に、杏果は意外な反応を見せた。
「あたしもなんだよ。何でも好きに選んで良いって」
偶然の一致に4人は思わず目を丸くした。
「尤も、何歌うかは1日で決まったんだけどね」
得意そうに笑う杏果が、中学生3人には微笑ましく映った。
そうして迎えた当日、明照達は勿論、他の生徒達も
今日が余程楽しみなのか、目を爛々と輝かせていた。
「何や、今日は随分やる気満開やないか。えぇなぁ。
せやなかったら何もおもろない」
佐竹陽子は生徒達の様子が余りに違うので驚きを
隠せなかったが、悪い気はしなかった。
「順番は如何する? 誰からでもええよ」
「私から行きます!」
早速手を挙げたのは同級生の一人、西田美穂だった。
「前もって説明した通り、原則として暗譜。
但し、外国語の歌に関しては歌詞カード持ち込みOK
ほな、名前と、歌う楽曲を言った後
自分のタイミングで始めて」
「はい。西田美穂。La Chanson de l'oignon」
美穂は、戦車に乗った女子高生が戦うアニメに触発され
この歌を覚えたのだった。後半はよく知っていたので
苦労は半分だったと後に語った。
楽曲を、多少訛りは有るものの、概ね流暢なフランス語で
歌い上げた後、美穂は丁寧に一礼した。
聴き終えた後、陽子は、意外にも馴染の有る楽曲だったので安堵した。
「クラリネットを壊しちゃったの元歌か。ええ選択やな。次」
「棚橋学。John Brown's Body」
リパブリック賛歌の元となった歌に“Blood Upon the Risers”の
歌詞も捩じ込んだ歌が音楽室に響いた。
聴き終えた後、陽子は笑いを隠せなかった。
「随分欲張ったなぁ。こんなん初めてや。次」
「古谷由依。Johnny I hardly knew ya」
“When Johnny comes marching home”の元歌が
有るとは知らなかったので、誰もが興味を持って聴いていた。
「何や今日はアメリカの歌がよう出てくるなぁ」
「それなら次は大橋清 British Grenadiers イギリスの歌です」
「結局英語やんかlolololol まぁどうぞ」
漫才の様なやり取りを経て、4人目の番が来た。
清は美穂に誘われて戦車に乗った女子高生のアニメを見たのだった。
その後、紆余曲折を経て遂に歌声喫茶“ひかり”の常連である
三英傑の出番が来た。3人が何を選ぶか皆が注目していた。
「根路銘崇。ステンカラージン」
初めて来たロシア語の歌に、陽子は表情を緩めた。
「殆どが英語か日本語やったし、丁度良かったわ」
やがて歌が始まった。杏果からの指導を受け、力まず
歌える様になった崇の技術は間違い無く進歩していた。
聴き終えると、陽子は急いでメモを取った後、顔を上げた。
「考えてみたら、ロシア語の歌は初めてかも?
まぁその辺は兎も角、次」
「赤嶺美娜。ウラルの茱萸の樹」
前に出てきた美娜が歌ったのは、ロシアの楽曲ではあるが
中国語の歌詞も交えていた。
聴き終えると、陽子は少し考えた後、何かを納得したのか手を打った。
「そうか。せやな。ソ連と中国は同盟国やし、国境
接しているから知ってて当然か。次、田中明照君やろ?」
普段なら順番はランダムなのだが、この時は次に誰が来るか予測出来た。
事実、三英傑の首領である田中明照は勢いよく挙手した。
「田中明照、谷を渡り丘を越えて」
どんな凄い歌を選ぶのかと思ったら、予想以上に牧歌的なタイトルの
歌だったので、誰もが拍子抜けした。これは三段オチなのか。
しかし数秒後、それは間違いだと嫌でも痛感することになった。
恐怖分子を駆除する赤軍の進撃を綴った歌が音楽室に響く間
誰もが静かに傾聴していた。
明照は、伊達に最も長く杏果から歌唱指導を受けていなかった。
全員の歌が終わった後、陽子は普段以上に疲れていると実感した。
「教師やって結構経つけど、こんな事は初めてや。
皆から教わることになるとはな。ほんま、おおきに!」
疲れているとは言っても、それは正確には心地よい疲れだった。
一方、外国語の歌を選べば暗記しなくて済むと云う抜け穴は確かに問題だった。
日本語の歌に限定しようかと思ったがそれは人権の侵害と考え、思い留まった。
翌週、音楽室内の掲示板にはこう書かれていた。
<外国語の歌を暗記して歌った場合、ボーナススコア有り
※日本語と外国語が混ざった場合も適用>
その日の放課後、杏果の家へ遊びに来た3人は
デラウェアを食べながら今日の事を話した。
「皆中々やるね。指導し甲斐が有りそう」
事情を聞いた杏果は、歌唱指導をする時に見せる
愛らしくも、何処か怖い顔をしてみせた。
「杏果ちゃんらしい考えだね」
そんな時、美娜は或る事を思い出した。
「杏果ちゃんの歌のテストは如何なったの?」
「あぁ、それ? 聴きたいなら歌うよ」
「じゃあ御願いしようかな」
そうして杏果が3人の前で歌ったのは“中国人民志願軍戦歌”だった。
しかも、中国語と朝鮮語の歌詞を交互に歌うというものだった。
聴き終えた後、3人は拍手を送りつつ、にやけていた。
矢張り杏果が歌うと何でも素敵だ。3人はここで可笑しな想像をした。
カラオケボックスに来た杏果は“ヘーコキましたね”を歌っていた。
下品な内容ではあるものの、杏果の可愛い声と
愛らしい外観がそれを見事に打ち消していた。
ふと我に返った3人は、誤魔化す様に麦茶を飲んだ。
「それで、先生は何て言ってた?」
平静を装い崇は尋ねた。
「“そう来るとは思わなかった”だって。ポカーンとしてた。
あたしが小さい頃から歌声喫茶に入り浸っている事は皆
知っているのにね」
その時の音楽の先生の心理と表情を想像して、3人は吹き出すのであった。
「来週は歌唱のテストやるから皆練習するんやで。楽曲は何でもOK.
暗譜が原則やけど、外国語の歌に限っては見ながらでもえぇよ」
音楽教師、佐竹陽子からの宣告は、通常だと一部を除き死刑宣告も同然だった。
しかし、コンクールでの優勝を経験した猛者達にとっては腕が鳴る瞬間だった。
「何か質問は・・・無いんやったっら今日は解散」
直後、チャイムが鳴り生徒達は一礼した後音楽室を出た。
生徒達の話題は既に決まっていた。
「何にする?」
「正直選択肢が多過ぎて凄く困ったlolol」
「明照にお勧め聞いてみるか?」
「良いわね。そうしましょ」
2年A組の生徒にとって、人前で歌うのは、依然緊張はするが
今となっては楽しくて楽しくて堪らない事だった。
翌日から明照は目が回る程忙しくなった。自分のクラスだけでなく
他のクラス、剰え、1年生と3年生からも助言を求められる程だった。
寝る間も惜しんで処理しても未だ追いつかないので、根路銘崇と赤嶺美娜が
マネージャーを務めた。人に教えを求める態度ではないと判定された
者を門前払いにした結果、助言を求める者の数は幾分減った。
数日後、歌声喫茶“ひかり”での会に出た後、明照・崇・美娜は残って
歌のテスト対策をしていた。そんな折、主催者の孫娘
稲葉杏果が小走りで現れた。
「いらっしゃい。明照君、たーかーにーにー、みーなーねーねー。
歌のテスト対策、よく頑張っているんだね」
杏果の存在は“休憩しなさい”と云うサインであると考えた3人は
目線を向けると表情を緩めた。
「大丈夫? 魂飛んでいってない?」
冗談交じりに明照が尋ねると、崇と美娜は吹き出しながらも答えた。
「何十回もそんな事してたら身がもたないってlolol」
「明照がそんな冗談言える様になるとは思わなかったlolol」
笑いが巻き起こりながらも、兎も角も、3人は杏果の案内で家に入った。
「何でも自由に選んで良いと言われると確かに却って悩むよね」
苺を食べながら杏果は考えた。
「まぁ、僕達は直ぐに決まったから良いけどね」
明照の言葉に褐色カップルは大きく頷いた。
「本当、歌声喫茶に通っていて良かったな」
「多分これは簡単には真似出来ないと思うよ」
暫くの間、4人は談笑していたが、直ぐに本来の目的を思い出した。
自分達は苺を食べに来た訳じゃない。
「忘れるところだった。僕達は歌のテスト控えているんだった」
この言葉に、杏果は意外な反応を見せた。
「あたしもなんだよ。何でも好きに選んで良いって」
偶然の一致に4人は思わず目を丸くした。
「尤も、何歌うかは1日で決まったんだけどね」
得意そうに笑う杏果が、中学生3人には微笑ましく映った。
そうして迎えた当日、明照達は勿論、他の生徒達も
今日が余程楽しみなのか、目を爛々と輝かせていた。
「何や、今日は随分やる気満開やないか。えぇなぁ。
せやなかったら何もおもろない」
佐竹陽子は生徒達の様子が余りに違うので驚きを
隠せなかったが、悪い気はしなかった。
「順番は如何する? 誰からでもええよ」
「私から行きます!」
早速手を挙げたのは同級生の一人、西田美穂だった。
「前もって説明した通り、原則として暗譜。
但し、外国語の歌に関しては歌詞カード持ち込みOK
ほな、名前と、歌う楽曲を言った後
自分のタイミングで始めて」
「はい。西田美穂。La Chanson de l'oignon」
美穂は、戦車に乗った女子高生が戦うアニメに触発され
この歌を覚えたのだった。後半はよく知っていたので
苦労は半分だったと後に語った。
楽曲を、多少訛りは有るものの、概ね流暢なフランス語で
歌い上げた後、美穂は丁寧に一礼した。
聴き終えた後、陽子は、意外にも馴染の有る楽曲だったので安堵した。
「クラリネットを壊しちゃったの元歌か。ええ選択やな。次」
「棚橋学。John Brown's Body」
リパブリック賛歌の元となった歌に“Blood Upon the Risers”の
歌詞も捩じ込んだ歌が音楽室に響いた。
聴き終えた後、陽子は笑いを隠せなかった。
「随分欲張ったなぁ。こんなん初めてや。次」
「古谷由依。Johnny I hardly knew ya」
“When Johnny comes marching home”の元歌が
有るとは知らなかったので、誰もが興味を持って聴いていた。
「何や今日はアメリカの歌がよう出てくるなぁ」
「それなら次は大橋清 British Grenadiers イギリスの歌です」
「結局英語やんかlolololol まぁどうぞ」
漫才の様なやり取りを経て、4人目の番が来た。
清は美穂に誘われて戦車に乗った女子高生のアニメを見たのだった。
その後、紆余曲折を経て遂に歌声喫茶“ひかり”の常連である
三英傑の出番が来た。3人が何を選ぶか皆が注目していた。
「根路銘崇。ステンカラージン」
初めて来たロシア語の歌に、陽子は表情を緩めた。
「殆どが英語か日本語やったし、丁度良かったわ」
やがて歌が始まった。杏果からの指導を受け、力まず
歌える様になった崇の技術は間違い無く進歩していた。
聴き終えると、陽子は急いでメモを取った後、顔を上げた。
「考えてみたら、ロシア語の歌は初めてかも?
まぁその辺は兎も角、次」
「赤嶺美娜。ウラルの茱萸の樹」
前に出てきた美娜が歌ったのは、ロシアの楽曲ではあるが
中国語の歌詞も交えていた。
聴き終えると、陽子は少し考えた後、何かを納得したのか手を打った。
「そうか。せやな。ソ連と中国は同盟国やし、国境
接しているから知ってて当然か。次、田中明照君やろ?」
普段なら順番はランダムなのだが、この時は次に誰が来るか予測出来た。
事実、三英傑の首領である田中明照は勢いよく挙手した。
「田中明照、谷を渡り丘を越えて」
どんな凄い歌を選ぶのかと思ったら、予想以上に牧歌的なタイトルの
歌だったので、誰もが拍子抜けした。これは三段オチなのか。
しかし数秒後、それは間違いだと嫌でも痛感することになった。
恐怖分子を駆除する赤軍の進撃を綴った歌が音楽室に響く間
誰もが静かに傾聴していた。
明照は、伊達に最も長く杏果から歌唱指導を受けていなかった。
全員の歌が終わった後、陽子は普段以上に疲れていると実感した。
「教師やって結構経つけど、こんな事は初めてや。
皆から教わることになるとはな。ほんま、おおきに!」
疲れているとは言っても、それは正確には心地よい疲れだった。
一方、外国語の歌を選べば暗記しなくて済むと云う抜け穴は確かに問題だった。
日本語の歌に限定しようかと思ったがそれは人権の侵害と考え、思い留まった。
翌週、音楽室内の掲示板にはこう書かれていた。
<外国語の歌を暗記して歌った場合、ボーナススコア有り
※日本語と外国語が混ざった場合も適用>
その日の放課後、杏果の家へ遊びに来た3人は
デラウェアを食べながら今日の事を話した。
「皆中々やるね。指導し甲斐が有りそう」
事情を聞いた杏果は、歌唱指導をする時に見せる
愛らしくも、何処か怖い顔をしてみせた。
「杏果ちゃんらしい考えだね」
そんな時、美娜は或る事を思い出した。
「杏果ちゃんの歌のテストは如何なったの?」
「あぁ、それ? 聴きたいなら歌うよ」
「じゃあ御願いしようかな」
そうして杏果が3人の前で歌ったのは“中国人民志願軍戦歌”だった。
しかも、中国語と朝鮮語の歌詞を交互に歌うというものだった。
聴き終えた後、3人は拍手を送りつつ、にやけていた。
矢張り杏果が歌うと何でも素敵だ。3人はここで可笑しな想像をした。
カラオケボックスに来た杏果は“ヘーコキましたね”を歌っていた。
下品な内容ではあるものの、杏果の可愛い声と
愛らしい外観がそれを見事に打ち消していた。
ふと我に返った3人は、誤魔化す様に麦茶を飲んだ。
「それで、先生は何て言ってた?」
平静を装い崇は尋ねた。
「“そう来るとは思わなかった”だって。ポカーンとしてた。
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