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書籍化御礼番外編 ※リツ視点
家族サービス 6 (番外編 完結)
しおりを挟む慰められているうちに涙が止まったリアンくんは抱っこされている状況が気まずくなったのか、ディーンさんの腕の中で顔を伏せるように頭を下げた。
「す、すみません。幼い子のように泣いてしまいまして……」
「気にすることはない」
リアンくんを抱いたまま、ディーンさんは下げられた頭を撫でた。髪の隙間からのぞく小さな耳が赤い。それでも遠慮せずにされるがままになっているのは、ディーンさんに甘えられるようになったのかもしれない。
前は泣き顔をディーンさんに見られたくないと固辞したのに。
暖かい気持ちで2人を眺めていたが、リアンくんが小さく震え出した。ディーンさんの溢れる愛情を受け止めきれなくなっているんだろう。身に覚えがあるからリアンくんの気持ちが手に取るようにわかった。
リアンくんが嬉しさと恥ずかしさに気を失ってしまう前に助け舟を出す。
「ディーンさん、リアンくん。そろそろ、お昼にしませんか」
バスケットを持ち上げて声をかけると、リアンくんが助かったとばかりに安堵した顔で誘いに乗ってきた。
「リツ様のごはん、楽しみにしてました。ディーンハルト様、早く食べましょう」
「そうだな、時間も頃合いだし、湖の近くで食べようか」
炭酸水を汲んで水辺に戻ると、開けた場所に木陰を見つけた。そこへレジャーシート代わりの布を広げ、昼の用意をする。真っ赤なトマトソースを絡めたプルドポークを挟んだコッペパンをディーンさんへ渡すと、楽しそうに眉が上がった。
「今日のは随分大きいな。だが、とても美味そうだ」
「森の中を歩くと聞いてたのでお腹が空くかもって思ったんです。多ければ残してください」
「大丈夫だ。リツの予想通り、かなり腹が減っている」
その言葉は事実らしくいつもみたいに観察することなく、ディーンさんは早々にコッペパンに齧り付いた。
「ソースが辛すぎないですか」
「いや、ちょうどいい。それにしても、随分と柔らかな肉だな。少しピリッとするトマトのソースとキャベツのサラダも肉とよく合って美味い」
感想を口にしつつも視線はコッペパンから離れない。何を作っても美味しいと言ってくれるけど、今回のは特に好評だったみたいだ。
「塊の豚肉を窯でじっくり焼いて、柔らかくしものをフォークで裂いたんです。ソースとサラダの野菜はリアンくんが魔法で細かくしてくれたんですよ」
「そうか。均一に上手く切れているな」
「本当ですか?! そう言って頂けて嬉しいです」
褒め言葉にリアンくんはいつものように謙遜することなく、素直に喜んだ。ディーンさんも気付いたのか、目を細めて言葉を続けた。
「あぁ、制御が上手く出来ている証拠だ。これほど細かく正確にするのはなかなか難しい」
「ありがとうございます。これからも頑張ります」
リアンくんがはりきってくれるのは助かるけど、ほどほどでいいからね。
想定以上に粉々にされた野菜たちを見て、そっと息をつく。
内心の憂いを振り払うように笑ってリアンくんにもコッペパンサンドを勧めた。
「リアンくんも食べて。リアンくんのソースはちょっと甘くしてみたんだよ」
甘いという言葉に口元を綻ばせたリアンくんはいただきます、とパンを頬張る。小さな口を精一杯開けて食べる姿が可愛らしくつい見ていると、視線に気付いたリアンくんが急いで咀嚼した。
「トマトのソースがほんのり甘くて、とてもおいしいです。お肉も細く割かれていて食べやすいですね」
「そんなに味が違うのか」
「ディーンさんのは辛味の強い野菜を混ぜたソースですが、リアンくんは辛いのより甘い方が好きなので代わりにはちみつを入れたんです。僕も辛いものは得意ではないのでリアンくんと同じソースですよ」
ソースの違いを説明するのをディーンさんは興味深そうに頷きながら聞いてくれた。魔法で料理を作るとどれも均一の味になるので、調味料の匙加減で調整できるというのが新鮮なのかもしれない。
「同じ料理でも味を変えられるというのは面白いな」
「そうですね。今日のは途中で調整しましたけど、仕上がってからも味を変えられることもあるのでディーンさんももっと辛い方がいいとか甘い方がいいとか教えてくださいね」
リアンくんと距離を縮めたように僕とも今以上に遠慮なく言い合えるようになって欲しい。
そんな気持ちを込めて伝えると、ディーンさんはとろけるような瞳で耳打ちした。
「甘い方がいい、か。そのときは隠さず伝えよう。……どんなときでもな」
低く囁かれた言葉の意味は腰に伸びてきた腕によって知らされた。
明日も睡眠不足かもしれない。
昼ごはんを食べた後、湖を眺めたり、レオナルドさんたちのお土産にオレンジを収穫たり、森を満喫して帰途についた。
帰りの馬車の中。リアンくんとともにディーンさんの向かいに腰掛け、話をしていると不意に腕に重みがかかった。そっと隣を見ると、リアンくんの丸い頭が腕に寄りかかっている。
ディーンさんも気付いたのか、リアンくんを心配して顔を覗き込んでいた。
起こさないように慎重にリアンくんの頭を膝に乗せる。むずかるように眉を寄せたが、背中をトントンと叩くと表情が和らいだ。
「寝ちゃったみたいですね」
健やかな寝息を邪魔しない音量でディーンさんに笑いかけたが、重いため息が返ってきた。
「どうしたんですか」
「せっかくの休日に疲れさせてしまっただろうか。結果的に泣かせてしまったからな……」
眉根を下げ、失敗を悔いるような呟きがいじらしくて、ふっと笑みが溢れる。
「リツ?」
「ごめんなさい、つい。疲れたかもしれませんが、嫌な疲労じゃなくて。楽しくてはしゃいじゃったんだと思いますよ」
「はしゃいで、いたのか?」
「はい、とても楽しそうでしたよ。普段は絶対に僕の手を引っ張って行ったりしない子ですから」
見慣れないものばかりだったこともあるが、それだけじゃなく、仕事から離れたところでディーンさんや僕と過ごすことにテンションが上がっていた。
リアンくんの様子を具体的に話すと、やっとディーンさんの空気が和らいだ。
「そうか、楽しそうだったか……」
「ディーンさんも楽しそうでしたね」
「あぁ、そうだな。こんな風に近しいものと出歩いたのは初めてだ」
ディーンさんは幼少期にあまりいい思い出がないと前に話してくれた。小さなディーンさんを抱きしめてあげることは出来ないけど、これからはたくさん思い出を作っていける。
「またお弁当持って来ましょうね。ここだけじゃなく、公爵領や色んなところをディーンさんとリアンくんと見て回りたいです」
「私もだ。リツたちとならきっとどこへ行っても楽しいだろう」
**************************
番外編はこれにて終了です。
2章準備中ですが、8月中には投稿開始する見込みです。
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番外編完結おめでとうございます!
2章準備中との事!!楽しみにしてますね😊
酷暑が続いていますのでお体ご自愛くださいませ。
コメントありがとうございます!
とても励みになりました😊
気温と闘いながら2章開始に向けて頑張ります!!
ノア吉さんもお体に気をつけてお過ごしください。
遅くなりましたが、一章完結おめでとうございます。
ディーンさんも律君がいれば、もの凄い無理は泣き落としとかによってなくなりますね。
律君もディーンさんに愛されて、美味しいパンを作ったり、ディーンさんのご飯を作ればディーンさんも食事を抜くことないんでずっとやりがいありますね。
続きも楽しみに待ちまーす。
感想ありがとうございます
無事に一章完結できました。
これからリツもディーンもお互いがお互いを幸せにしていってくれると思います。
二章はもう少し先になりますが、更新しましたらまたお読み頂けると幸いです。
面白く一気に読まさせて頂きました。ありがとうございます。
リツ&ディーンの甘々な生活を期待しています。
シエラ&レオ、シァル&ジークの甘々なお話も読みたいです。
感想、一気読みありがとうございます。
一章が終わりましたら、甘々な番外編を更新する予定ですので、しばらくお待ちください。