30 / 38
本編
六夜ー6 3連泊、楽しもうね
しおりを挟むモリオンさんの工房からグランをなんとか連れ出し、カフェにやって来た。
旬の果物を使った焼き菓子と氷菓がお薦めらしいので俺は、ポプルパイのレモンシャーベット添えを選んだ。
「んー、ポプルはとろっと甘いし、パイ生地もサクサク軽くて香ばしい……」
焼きたてのパイにはポプルのペーストとカスタードが包まれていた。甘めのパイにレモンシャーベットの爽やかな酸味がとても合う。
交互に食べてもいいし、シャーベットを少しパイに乗せても美味しい。冷や熱を堪能していると。
「トモル、こちらのも食べるか。焼きポプルなんだが」
向かいで食べていたグランにフォークに差した欠片を差し出された。口を開けるとフォークが近づき、ほんのりと温かいポプルの実が口唇にあたる。
「ん……っ」
思ったより大きかったみたいだ。もう少しだけ開き、フォークを招き入れた。
「ふぁ、……んんっ」
果肉を噛むと、とろりと果汁が溢れ出す。
「パイの中身と全然違う。食感があってこれも美味しいね」
口唇に残る果汁を舐めとると、グランの喉がゴクリとなった。
「グラン?」
「いや……。ーートモル、私もパイが食べてみたい」
「いいよ。あーんして?」
同じようにパイを差し出すと、グランは嬉しそうに口を開けた。雛鳥みたいでちょっとかわいい。
「どう?」
「トモルに食べさせてもらえて、胸がいっぱいだ……」
口を震える手で押さえながら、グランはとろけそうな笑みを浮かべた。
「はいはい。もう、大袈裟だよ。シャーベットも食べて」
「ありがとう」
その後も食べさせ合いながら、異世界スイーツを堪能した。
◇◇◇
カフェを出てから市場を見に出かけたり、ドッグランならぬ騎竜広場でムツキや他の騎竜と遊んだりして王都を満喫した。
夕暮れの街を竜車に揺られ、着いた先は城ではなく。
「竜の巣……?」
クリーム色の煉瓦造りの大きな建物に木製の看板が掛けられている。ペンダントのお陰で字も読めるけど、何のお店なのか分からない。
「宿だ。明日は遠出する予定だから城へ戻るよりここに泊まった方が都合がいいんだ」
「遠出って。でも、ムッちゃんは帰っちゃったよね?」
ここまで送り届けてくれたムツキは先ほど城へ向けて返してしまった。
「ムツキでは行けないところに行くからな」
「そうなんだ?」
「あぁ」
含みのあるグランの言い方が気になったけど、今教えてくれないということは内緒ってことかな。
ムツキに会えないのは残念だけど、どこに連れて行ってくれるのか楽しみだ。
案内された部屋は広めではあるものの、引くほどの高級感はなかった。
スイートルームとかだったらどうしようかと思ったけど、これはどちらかというとラブホテルだ。
薄桃色の天蓋付きベッドと赤いクッションの置かれたカップルソファが甘い雰囲気を醸し出してるけど、まさかね。異世界にラブホがあるとも思えないし。
「かわいい部屋だね」
「本当だな。トモルの印象を伝えておいたんだが、こういう感じになったのか」
なるほど、と頷くグランだったが聞き捨てならない。
どう伝えたらこんな可愛いお姫様な感じになるんだ?
「待って、俺のイメージなの? 宿の人になんて伝えたか聞いてもいい?」
隣で部屋を眺めるグランを問い質したが。
「……たくさん歩いたから疲れてないか。風呂に入ろう」
「誤魔化さないで教えてよ」
「トモル、バスルームはこっちだ」
聞こえていないフリで腰に手を回され、お風呂に連れて行かれた。
13
お気に入りに追加
1,657
あなたにおすすめの小説
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる