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本編

六夜ー6 3連泊、楽しもうね

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モリオンさんの工房からグランをなんとか連れ出し、カフェにやって来た。

旬の果物を使った焼き菓子と氷菓がお薦めらしいので俺は、ポプルパイのレモンシャーベット添えを選んだ。

「んー、ポプルはとろっと甘いし、パイ生地もサクサク軽くて香ばしい……」

焼きたてのパイにはポプルのペーストとカスタードが包まれていた。甘めのパイにレモンシャーベットの爽やかな酸味がとても合う。

交互に食べてもいいし、シャーベットを少しパイに乗せても美味しい。冷や熱を堪能していると。

「トモル、こちらのも食べるか。焼きポプルなんだが」

向かいで食べていたグランにフォークに差した欠片を差し出された。口を開けるとフォークが近づき、ほんのりと温かいポプルの実が口唇にあたる。

「ん……っ」

思ったより大きかったみたいだ。もう少しだけ開き、フォークを招き入れた。

「ふぁ、……んんっ」

果肉を噛むと、とろりと果汁が溢れ出す。

「パイの中身と全然違う。食感があってこれも美味しいね」

口唇に残る果汁を舐めとると、グランの喉がゴクリとなった。

「グラン?」

「いや……。ーートモル、私もパイが食べてみたい」

「いいよ。あーんして?」

同じようにパイを差し出すと、グランは嬉しそうに口を開けた。雛鳥みたいでちょっとかわいい。

「どう?」

「トモルに食べさせてもらえて、胸がいっぱいだ……」

口を震える手で押さえながら、グランはとろけそうな笑みを浮かべた。

「はいはい。もう、大袈裟だよ。シャーベットも食べて」

「ありがとう」

その後も食べさせ合いながら、異世界スイーツを堪能した。




◇◇◇




カフェを出てから市場を見に出かけたり、ドッグランならぬ騎竜広場でムツキや他の騎竜と遊んだりして王都を満喫した。
夕暮れの街を竜車に揺られ、着いた先は城ではなく。

「竜の巣……?」

クリーム色の煉瓦造りの大きな建物に木製の看板が掛けられている。ペンダントのお陰で字も読めるけど、何のお店なのか分からない。

「宿だ。明日は遠出する予定だから城へ戻るよりここに泊まった方が都合がいいんだ」

「遠出って。でも、ムッちゃんは帰っちゃったよね?」

ここまで送り届けてくれたムツキは先ほど城へ向けて返してしまった。

「ムツキでは行けないところに行くからな」

「そうなんだ?」

「あぁ」

含みのあるグランの言い方が気になったけど、今教えてくれないということは内緒ってことかな。

ムツキに会えないのは残念だけど、どこに連れて行ってくれるのか楽しみだ。


案内された部屋は広めではあるものの、引くほどの高級感はなかった。

スイートルームとかだったらどうしようかと思ったけど、これはどちらかというとラブホテルだ。

薄桃色の天蓋付きベッドと赤いクッションの置かれたカップルソファが甘い雰囲気を醸し出してるけど、まさかね。異世界にラブホがあるとも思えないし。

「かわいい部屋だね」

「本当だな。トモルの印象を伝えておいたんだが、こういう感じになったのか」

なるほど、と頷くグランだったが聞き捨てならない。

どう伝えたらこんな可愛いお姫様な感じになるんだ?

「待って、俺のイメージなの? 宿の人になんて伝えたか聞いてもいい?」

隣で部屋を眺めるグランを問い質したが。

「……たくさん歩いたから疲れてないか。風呂に入ろう」

「誤魔化さないで教えてよ」

「トモル、バスルームはこっちだ」

聞こえていないフリで腰に手を回され、お風呂に連れて行かれた。




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