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本編

六夜ー4 3連泊、楽しもうね

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竜車はいつの間にか停まっていた。

背後からムツキの困ったように鳴く声がするが、グランは俺を膝に抱えたまま放してくれない。

視察というからには訪問先があるだろう。このまま竜車に留まっているわけにはいかない。

「着いたんじゃない?」

「……」

「グラン?」

声をかけても俺の肩口に顔を埋めたまま、返事は返って来ない。背中をあやすように軽く叩くとやっと顔を上げた。

「離したくない……」

グランの言葉に胸が痛む。感傷的になりそうな気持ちを堪え、心の中を悟られないようゆっくりと話しかけた。

「色々案内してくれるんでしょ? 俺、すごく楽しみにしてたんだよ。この国のこと、たくさん教えて」

「だが……」

頑なだったグランの声に迷いが見える。もう一押しかな。

艶やかな銀髪を撫で、耳元に口唇を寄せ囁きかける。

「今夜、続きしよ」

「……分かった」

名残惜しげに離れていく腕に苦笑しながら、グランの膝を降りた。

外に出てまず見えたのは、大きな竜とその傍に寄り添うように立つ女性の銅像。
竜は隣に立つ女性を守るように見つめ、女性も竜を信頼するように身を委ねている。

円形広場の中央に聳え立つ銅像は周囲の二階建ての建物と同じくらいの高さで存在感があった。

「あれは……」

「父と母だ」

端的だが衝撃的な単語に驚いてグランと銅像を見比べる。

「似てる、ような?」

「父親似だと言われているが、自分ではあまりどちらにも似てないように思う」

グランは銅像を見ながら首を傾げた。似てるかどうかは分からないけど、グランもいつかはご両親みたいに番さんと結ばれるんだろう。

「仲の良さそうなご夫婦だね」

「番になってかなりの年数が経っているが、父の母への執着は衰えないな」

呆れたようなセリフだけど、グランは羨ましそうな顔で両親の銅像を見上げている。

「やっぱり特別なんだね、番って……」

「そうだな、特別ではあるな。ただ、竜種や竜人にとって番と結ばれることが必ずしも幸せだとは言えないが」

「え? どうして?」

竜人の幸せは番と一緒にいることだと思っていた。離れていると寂しくて堪らないと教えてくれたのはグランだ。

「相手がまともな者ばかりとも限らないからだ。番であることを利用され、傷つけられることもある」

「傷つけられるって気持ちを?」

「いや、身体的に。……竜や竜人の心臓は万病に効くと信じられていて、かなり高価だと聞く」

「そん、な……」

胸が痛い。

お金のために自分を盲目的に愛する竜人を殺すなんて……

「竜は番を求めるが、人は違うだろう。……そういうことも少なくない」

「そんな人でも、一緒にいたいものなの?」

「悲しいことだが、結ばれなければ永遠に安らぐことはないからな。竜種や竜人がつらい目に合わないよう、法を制定したり教育を施したりしているが、全てを救えるわけじゃない」

震える手にグランの手が重なる。

見つかっているものの、側にいないらしいグランの番さんも問題ある人なのか。

グランを傷つけるような番なら、渡したくない。俺じゃ満たしてあげられないかもしれないけど、絶対に裏切ったりしない。俺ならずっと、ずっと側にいるのに。

悲しげに同胞を憂うグランに問いかける。

「グランは……グランの番さんはちゃんとした、人?」

返事によっては、グランと離れるのをやめようと翻意し、審判を待った。

「私の番か」

「うん」

固い表情で強張る俺とは対照的に、グランはふっと甘く微笑んだ。愛おしい人を想う表情に自分の未来を悟る。

「私の番はとても優しく可愛らしい人だ」

ーーあぁ、やっぱり。

「そっか。よかった……」

自分でも呆れるぐらい気持ちのこもってない言葉に笑える。

グランにとって幸せなことなのに。俺はそれを嬉しく思えない。

目の奥がじんと熱くなる。

「トモル?」

俺の様子がおかしいことに気付いたのか、グランに名前を呼ばれる。自分で聞いたことだったが、これ以上この話を続けたくなくてグランを手を引き、早口で捲し立てた。

「長話しちゃったけど、視察に行くんでしょ。ここからは歩くの? ムッちゃんは一緒に行けるの?」

「あ、あぁ。ここからすぐの工房通りに行く予定だ。ムツキは広場の端にある預かり所で休憩になるな」

俺の様子に戸惑った顔をしながらもグランは丁寧に教えてくれた。

ごめんね、グラン……




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