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 でも茂倫さんに気を取られるあまり、すぐには気付かなかったが、馬車の影に入る2人の役人は、なんと2人とも同じ顔をしたイケメンだった!

 髪は白く、長い前髪からは片目だけが覗き、赤い目をしている。なんともミステリアスな雰囲気だ。


「右目が出てるのが祥雲ショウウン、左目が出てるのが冴霧サギリ。2人は双子で、僕の補佐をしてくれてるんですよ!」


 茂倫さんが紹介すると、双子は軽く頭を下げた。

 智彗様が「粋凪」を演じると、双子はじっと智彗様を見た後、智彗様の頬をプニっと両側からつついた。


 ···え?何してるのこの人たち···?


「ここにこんな可愛いものがいるなんて知らなかった。」
「瑞凪様に弟なんていた?年離れすぎじゃない?ほんとに弟?」


 智彗様は冷や汗を流しながらも、必死に作り笑いをしてごまかしている。


「いやあ弟さんがいるなんて僕も知りませんでしたよ~。もしかして実は瑞凪様の子供だったりして、なんて。ははっ☆」


 茂倫さんが軽く言うも、瑞凪様はもうすでにどっと疲れた顔をしていた。


 6人で話し合いの部屋に入るなり、茂倫さんが、「そういえば」と思い出したように呟く。


「そろそろ昼餉ひるげの時間ですよね。今日僕ら、海で獲れた新鮮な魚や貝類を持ってきたんです。ここの料理長さんにお願いして、皆さんの昼餉を作って頂いても構いませんか?」


 瑞凪様が智彗様と目配せをし、確認を取る。


「···それはそちらの食材を頂けるということですか?」

「勿論です!挨拶代わりに持って来ただけですから気にしないでください!」


 作るのはこっちの料理長なのに、あたかも自分たちが全面的に恩を売るような言い方、気に食わないな。


 茂倫さんが「祥雲」と一言名前を呼ぶと、祥雲さんが頷き部屋から出て行った。恐らく料理長のところに食材を持って行くのだろう。

 私の心の内を知ってなのか、席に座るなり、茂倫さんがすぐに私に話しかけてきた。


「いやいや、この国の宰相様が女性だったなんて驚きです☆今日はどうぞお手柔らかに頼みますよ瀬里様!」

「···そうですね、なるべく口は挟まないよう気を付けますね茂倫さん。」


 自分のイラ立ちを見せないよう、なるべくにこやかな笑顔で返しておいた。同じように、にこやかな笑顔で返してくる茂倫さん。水面下での戦いはすでに始まっている。

 
 しかし瑞凪様が「では、」と切り出した瞬間、茂倫さんがすぐに言葉を被せてきた。


「今回こちらの友好国になりたいという申し出に、わざわざ話合いの場を設けるということは、何かうちと関係を躊躇う理由でもあるんですかね?」

「···単に友好関係と言われても、何のために関係を結ぶのかを知るのは、当然のことかと。」

「ふむ。確かに。でもこの国は今や財政難に陥っています。うちと関係を結び貿易を盛んに行えば、繁栄させるのは至極簡単なことだと思いますけど?」

「···では、貿易の際に、そちらがこの国に求めるものとは一体何なのでしょう?見ての通り、もううちには貿易を盛んに行えるほどの品は、ありません。」


 話す隙を与えようとしない茂倫さんに、直球ストレートを投げていった瑞凪様。私だったら絶対に、木々を伐採したことを問い詰めて、嫌味を言ってしまうだろう。


 「なんか瑞凪様、昔と変わった」とポツリと呟いた冴霧さん。

 心の声が駄々洩れな冴霧さんに、皇族に対して失礼な人だな、でもイケメンだから仕方ないか、と勝手に自己解決する私。
 

 すると茂倫さんが、細い目をさらに吊り上げるようにして笑いかける。


「いやいやご謙遜を。この国には素晴らしい財産があるじゃないですか!」

「···はあ。」

「書物という財産が。」


 智彗様が小さな肩が、ピクリと動くのがわかった。

 皇帝である智彗様が、一番に財産と認める書物を持ち出してくるなんて、さすが茂倫さん、よくこの国のことを調べている。


「実は最近、うちは別大陸との貿易を始めましてね、南洲と亜怜音なんですけど。」


 亜怜音だけじゃなく、南洲大陸とも貿易を始めたんだ!それって全部鉱山のお陰じゃない?


「それで南洲から聞いた話なんですがね、この幌天安には何でも、"武器の生成術"を取り扱う書物があるとか。」

「!!」


 それって禁書のことだ!


 両隣に座る智彗様と瑞凪様から、緊張感が伝わってくる。

 禁書はご先祖様たちが戦の度に集めてきたものだと智彗様が言っていたが、もしかして大昔に南洲大陸から持ち出したものだったのだろうか?


「ご存じの通り、うちは武器を売っておりましてね、その生成術の書物を貸して頂ければ、武器の大量生産ができるというわけなんですよ!」


 急に茂倫さんが手の内を見せてきたが、まさか禁書を持ち出されるとは思わず、瑞凪様は無言になってしまい、戸惑っている様子だ。



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