35 / 42
7-5.
しおりを挟むでも茂倫さんに気を取られるあまり、すぐには気付かなかったが、馬車の影に入る2人の役人は、なんと2人とも同じ顔をしたイケメンだった!
髪は白く、長い前髪からは片目だけが覗き、赤い目をしている。なんともミステリアスな雰囲気だ。
「右目が出てるのが祥雲、左目が出てるのが冴霧。2人は双子で、僕の補佐をしてくれてるんですよ!」
茂倫さんが紹介すると、双子は軽く頭を下げた。
智彗様が「粋凪」を演じると、双子はじっと智彗様を見た後、智彗様の頬をプニっと両側からつついた。
···え?何してるのこの人たち···?
「ここにこんな可愛いものがいるなんて知らなかった。」
「瑞凪様に弟なんていた?年離れすぎじゃない?ほんとに弟?」
智彗様は冷や汗を流しながらも、必死に作り笑いをしてごまかしている。
「いやあ弟さんがいるなんて僕も知りませんでしたよ~。もしかして実は瑞凪様の子供だったりして、なんて。ははっ☆」
茂倫さんが軽く言うも、瑞凪様はもうすでにどっと疲れた顔をしていた。
6人で話し合いの部屋に入るなり、茂倫さんが、「そういえば」と思い出したように呟く。
「そろそろ昼餉の時間ですよね。今日僕ら、海で獲れた新鮮な魚や貝類を持ってきたんです。ここの料理長さんにお願いして、皆さんの昼餉を作って頂いても構いませんか?」
瑞凪様が智彗様と目配せをし、確認を取る。
「···それはそちらの食材を頂けるということですか?」
「勿論です!挨拶代わりに持って来ただけですから気にしないでください!」
作るのはこっちの料理長なのに、あたかも自分たちが全面的に恩を売るような言い方、気に食わないな。
茂倫さんが「祥雲」と一言名前を呼ぶと、祥雲さんが頷き部屋から出て行った。恐らく料理長のところに食材を持って行くのだろう。
私の心の内を知ってなのか、席に座るなり、茂倫さんがすぐに私に話しかけてきた。
「いやいや、この国の宰相様が女性だったなんて驚きです☆今日はどうぞお手柔らかに頼みますよ瀬里様!」
「···そうですね、なるべく口は挟まないよう気を付けますね茂倫さん。」
自分のイラ立ちを見せないよう、なるべくにこやかな笑顔で返しておいた。同じように、にこやかな笑顔で返してくる茂倫さん。水面下での戦いはすでに始まっている。
しかし瑞凪様が「では、」と切り出した瞬間、茂倫さんがすぐに言葉を被せてきた。
「今回こちらの友好国になりたいという申し出に、わざわざ話合いの場を設けるということは、何かうちと関係を躊躇う理由でもあるんですかね?」
「···単に友好関係と言われても、何のために関係を結ぶのかを知るのは、当然のことかと。」
「ふむ。確かに。でもこの国は今や財政難に陥っています。うちと関係を結び貿易を盛んに行えば、繁栄させるのは至極簡単なことだと思いますけど?」
「···では、貿易の際に、そちらがこの国に求めるものとは一体何なのでしょう?見ての通り、もううちには貿易を盛んに行えるほどの品は、ありません。」
話す隙を与えようとしない茂倫さんに、直球ストレートを投げていった瑞凪様。私だったら絶対に、木々を伐採したことを問い詰めて、嫌味を言ってしまうだろう。
「なんか瑞凪様、昔と変わった」とポツリと呟いた冴霧さん。
心の声が駄々洩れな冴霧さんに、皇族に対して失礼な人だな、でもイケメンだから仕方ないか、と勝手に自己解決する私。
すると茂倫さんが、細い目をさらに吊り上げるようにして笑いかける。
「いやいやご謙遜を。この国には素晴らしい財産があるじゃないですか!」
「···はあ。」
「書物という財産が。」
智彗様が小さな肩が、ピクリと動くのがわかった。
皇帝である智彗様が、一番に財産と認める書物を持ち出してくるなんて、さすが茂倫さん、よくこの国のことを調べている。
「実は最近、うちは別大陸との貿易を始めましてね、南洲と亜怜音なんですけど。」
亜怜音だけじゃなく、南洲大陸とも貿易を始めたんだ!それって全部鉱山のお陰じゃない?
「それで南洲から聞いた話なんですがね、この幌天安には何でも、"武器の生成術"を取り扱う書物があるとか。」
「!!」
それって禁書のことだ!
両隣に座る智彗様と瑞凪様から、緊張感が伝わってくる。
禁書はご先祖様たちが戦の度に集めてきたものだと智彗様が言っていたが、もしかして大昔に南洲大陸から持ち出したものだったのだろうか?
「ご存じの通り、うちは武器を売っておりましてね、その生成術の書物を貸して頂ければ、武器の大量生産ができるというわけなんですよ!」
急に茂倫さんが手の内を見せてきたが、まさか禁書を持ち出されるとは思わず、瑞凪様は無言になってしまい、戸惑っている様子だ。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる