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しおりを挟むまだ書庫の本が全て綺麗に並べられたわけじゃないが、知識を求める人が増えてきたため、書庫の隣の部屋を、急遽読書スペースとして開設することになった。
「もっと皆が気軽に利用できる空間にしたいわよね。できれば宮廷内を通らずに、外から入って来れるような感じで。」
「それは離宮のような"離れ"みたいな感じですか?」
「ああ、離宮···うん、"離宮の図書館"ってなんか素敵かも!」
私のその一言で、書庫とその隣の部屋の周りを取り壊し、離宮のような造りにすることになった。
「···でも兄さん、禁書はどうする?今までは、私たちしか書庫に入れなかったからいいが、今後はそうはいかない。」
「ああ、そうでしたね。」
そういえば、禁書である"派遣術の書"は皇族しか使えない術書だって言ってたっけ。
「ところで禁書って普段はどこにあるの?書庫では見かけなかったけど。」
智彗様と瑞凪様が顔を見合わせ、真剣な表情で、お互い了解を得たように頷いた。
「瀬里には特別に教えますが、誰にも内緒ですよ?」
可愛く人差し指を口元に立てる智彗様にキュンとしてしまい、眉を下げながら首をブンブンと縦に振る私。
「実は禁書は今、書庫の隠し部屋にあるんですよ。」
「え?!か、隠し部屋??!」
あの乱雑に本が積まれていただけの書庫に、隠し部屋??大事にしているのかいないのか、もう私にはよくわからない。
聞くところによれば、実は書庫の床に隠し部屋があるらしく、そこに禁書が隠されているらしい。
「その禁書っていうのは何冊あるの?」
「この宮廷にある禁書は120冊ですよ。」
「ええー!!!そんなにあるの?!!」
私の驚いた声に驚いた智彗様。「びっくししました!」と目を丸くしている。
禁書は全て金縁がついた真っ赤な表紙で、いわゆるこの世界の"魔法"のようなものらしい。
禁書は、何かを生成したり、人や物を瞬間的に移動させたり、はたまた消したり、嵐のような風や大火、洪水などの災害も起こせる、元は戦に利用されていた"術"の手引書。
ただし禁書というからには理由があって、それらの術を使うには、術を必要とする主の"身体の一部"の犠牲が伴うとのこと。
私を派遣した時にも智彗様の背丈(年齢)が削られた。派遣だから担保として扱われるが、他の術はそうはいかないらしく、そのまま片足や両目を失うこともあるのだとか。おー怖い怖い。
「うちにある禁書は、軍神と謳われてきたご先祖様たちが戦の度に集めてきたものなんです。だから捨てるに捨てられなくて。」
「···まさに、負の遺産。でも他国に利用されないためにも、この宮廷で厳重に保管しておく必要がある。」
「そうですね、禁書がもし勝手に持ち出されたら危険ですし、禁書は特別に鍵付きの書庫を造るか、他の隠し部屋を作って保管する必要がありますね。」
とりあえず禁書の保管場所は保留となったまま、読書スペースの開設が進められた。
書棚は縦置きのものだけでなく、"今週の注目書物"など、目玉になるような本を利用者にアピールできるよう、横置きの棚もいくつか兵士さんたちに作ってもらった。
「書物を横に並べるという発想はありませんでした!」と智彗様も感心してくれた。
ブックエンドも、和装本ばかりが並ぶ書棚、5冊置きくらいに使えば、綺麗に縦に配架することができた。
ただやっぱり和装本に背表紙がないのは、本を探すのに手間取りそうだ。
瑞凪様には、「それなら和紙に題名を書き、それを背表紙に貼ればいいのでは?」と言われ、それを聞いていた侍女たちがその役を買って出てくれた。
とはいえ、長い日数、いや年月がかかるのは間違いない。
"知の聖地"が徐々に機能し始め、農村部や山間部から王都に移り住む人々が増えてきた頃、新たな来訪者がやってくることとなる。
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