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しおりを挟む宮廷に戻り、そんな姑息な売り込みをした話をすれば、智彗様が「あはは」と笑ってくれた。
「瀬里は本当に凄い、やはりこの国の勇者様ですね!交渉での魯源さんの言葉を盗むだけでなく、新たな切り口で売り込むなんて!」
正々堂々戦う勇者ではないが、財政難を救うためなら多少の手段も致し方ない。
「瀬里は人との会話から知識を盗み、私は書物から知識を盗む。きっと2人一緒なら、この先この国も安泰ですね。」
何気なく嬉しそうに話す智彗様だが、この先って一体いつまでのことを言っているのか。
···私そのうち帰るんですけど?
本の整理の方は、地味だが着々と進んでいて、書庫のジャンル分けにようやく終わりがみえてきた。
次にはジャンル分けした本を、タイトル順に並べるという苦行が待っている。
できれば検索システムのような、"配架目録"まで作りたいというのが私の希望だが、この世界の文字が書けない私には、到底無理かもしれない。(だから誰かにやらせたい)
智彗様から許可をもらい、山脈から切ってきた樹木で棚を作る作業と、いらなくなった宮廷の屋根の鉄鋼でブックエンドを作る作業にも取りかかり始めた。
景郷国の兵士たちが。
その代わり、3食宿泊付で。もちろん宮廷の部屋を使ってもらっている。
因みに今、修繕作業の様子を見に、わざわざ俊恵さんがまた来訪しているのだが、なぜか宮廷の侍女をナンパしていた。
今日も色気を放つ俊恵さんと困りながら頬を染める侍女さんに、私がげんなりした顔をしていると、「おっと瀬里、嫉妬かい?」と訳のわからないことを言ってきた。
「俊恵さん!ナンパしてる暇あったら書物並べるの手伝って下さい!」
瑞凪様は、「···いや、絶対邪魔になる」と呟いたが、これも"知の聖地"の立派なPRになると思い、私は無理矢理俊恵さんを書庫に案内した。
「へえ!さすがに驚いたよ。この国に、こんなに沢山の書物があったとはね。」
私は簡単に、どんなジャンルの本があるかを俊恵さんに説明した。戦術に関するものは少ないものの、生活に関わる実用書や指南書の数は計り知れない。
あ、それと万能薬の宣伝も忘れずに。
「で?この書庫は改装でもするの?」
「改築というか、綺麗に書物を並べて、皆が読むことのできる空間を作ってるんです。」
「皆?」
「はい、書庫を民にも開放しようかと考えていまして。」
「へえ、なかなか粋なことを考えたね。」
「幌天安の人々が少しでも楽しめる場を提供したいのと、知識が皆の生活に役立てるようにしたいんです!」
あわよくばその知識で財政難を打開したいんです!と言うのはやめておいた。
近くにいた瑞凪様の肩に手を置き、「側室候補では勿体ないんじゃない?」と冗談ぽく言う俊恵さん。
瑞凪様が、「実は、正式に正室候補にすることを考えています」とはっきり返しているのには少しドキリとしてしまった。
それから俊恵さんは、書庫の侍女や王都に住む女性たちをナンパし、智彗様の非難を浴びながら帰って行った。
そして書棚やブックエンドがいくつか出来上がり、本を少しずつタイトル順に並べ始めた頃、宇汾さんの武勇伝を聞きつけた人々が、本の知識を頼りに商売を始めたいと宮廷に訪ねてきたのだ。
反物屋を営む商人は、もっと実用性のある衣服を作りたいと言って、"洋裁"の指南書を借りに来たし、総菜屋を営みたいという料理好きの男には、瑞凪様が"食材の保存法"や"衛生"についての本を見せていた。
智彗様が一番推していたのは、私塾《しじゅく》(個人塾)を開きたいという、農村部に住むお寺の住職さんだった。
この世界にも学校はあり、それとは別に、皇族や貴族には専属の教師がつくこともある。しかし世界情勢や戦術、商売についての学習が大半を占め、その他の知識は独学で身に付けるしかないらしい。
この国の学校は、智彗様の計らいで、物語の読解や計算問題、生物、植物についての知識も教えているとのことだ。
しかし子供が少ないため、学校の数が少なく、農村部の子供は遠すぎて通えないのだとか。
私塾が各地にできれば、読み書きのできる人間が格段に増える。そうなれば、"知の聖地"の利用も自然と増えるだろうと智彗様は予想しているのだ。
住職さんには教育関係の本だけでなく、"考える力の育て方"など、教則本も貸していた。
貸し出し期限は2週間とし、いつ、誰に、どの本を貸し出したのかわかるようにするための"貸借目録"も作り、それに書き留め、本人たちに指紋で印を押してもらった。
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