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「智彗様···、私、そんなお母さんの大事な山を、他国に貸すなんて···」

「いえ、今回はそうせざるなかったと思います。決裂になればどうなっていたことか。」


 そんなフォローをしてくれる智彗様の言葉に、少し目が潤んでしまった私。

 書庫が暗くて良かったかもしれない。勇者が涙なんて見せたら、きっと智彗様はガッカリするだろうから。


「ただ、私は母の想いに囚われ過ぎるあまり、この国を財政難に陥れてしまいました。少しの危険も許さないがために、相手国の言いなりになってきてしまったのが私の失態です。」

「そんな!智彗様はお母さんの想いを大事にしていただけで、」

「いえ、私は、皇帝陛下失格です。···今回も、もし私が交渉に臨んでいたらきっと景郷国の言いなりになっていたに違いありません。」


 ···もしかして、
突然異世界からきた私みたいなズブの素人に手柄を取られたと思って、私に嫉妬してたのかな。。それで部屋に閉じこもってたのかも?

 
 本を閉じた智彗様が俯いて、「すみません」と呟くと、私は一目顔が見たい思い、智彗様の目線にしゃがみ込んだ。


 落ち込んでいる様子の智彗様も、やっぱり可愛い。


「···あの、私は智彗様のような、優しい方に派遣してもらえて良かったと何度も思ったの。」

「え?でも勝手に派遣してしまったのは私ですし、」

「私、智彗様と一緒なら何だってできる気がする!だから一緒に"立て直し"、頑張ろう?!」
 
「瀬里。」


 私が智彗様の手をギュッと握ると、ようやく満面の笑みを見せてくれた。

 
 2人で書庫から自室へと向かう途中、智彗様が少し不可解なことを言ってきた。


「あの、瀬里···、俊恵殿は、婚約者候補を探してると言っていましたが、実は彼にはすでに、立派な正室の婚約者がいるのです。」

「へえ?そうなの?」

「彼がいっている婚約者候補というのは側室の方で、すでに各国に50人以上の側室候補がいるという噂がありまして。」

「ご、50人?!」


 チャラそうだとは思っていたけど、まさか未来の正室以外の恋人がそんなに??!

 というかそんなに側室を置けるってことは。しまったな···。もっと山の賃料、高くすればよかった!!


「···う、うちは、こんなに貧相な宮廷で、私のような男ではとてもじゃないけど側室は置けませんし。いえ、そもそも私は正室以外いらないという考えですから、そこのところ、瀬里はわかっておいてくださいね?!」

「は、はあ。」


 急に強い口調で言われ、少し面食らってしまった。


 結局何が言いたかったのか。正室も側室も置けない、貧乏な皇帝だということをアピールしたかったのか、それとも私みたいなしゃしゃり出る女では、とてもじゃないが俊恵さんの側室にはなれないと言いたかったのか。


 何にせよ智彗様と仲直りできて良かった。

 これからは智彗様をちゃんと立てていかないと!




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