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5-1.皇帝を立てる勇者になります!

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  結局智彗様は、昼食どころか夕食にも顔を出さないまま夜になってしまった。


 何度か部屋を訪ねても返事はなく、何をどうフォローし謝ればいいのかもわからない。

 瑞凪様に相談すれば、


「···あまり気にするな。兄さんも男。きっと色々思うところがあるのだ。」


 と言われるばかりで、仲を取り持とうとはしてくれない。


 私も午前中の交渉で疲れているはずなのに、智彗様のことが気になって全く眠れず、気分転換に書庫に足を踏み入れた。

 書庫は真っ暗で、自室から持ってきたランタンを本棚の隙間に置く。

 もっとこの国のことを予習しておくべきだったかもしれない。山脈に囲まれていることさえ知らなかったのだから。


 私はジャンル分けされた地図の場所で、古そうな和装本の地図を開いた。一番最初のページには、蛇腹に折り込まれた長い地図が入っている。

 "幌天安"となんとか読める文字が右上に書かれており、その地図の真ん中にはこの宮廷が記されているのがわかる。


 でもその地図の中の幌天安が山脈に囲まれているのは東南の方だけで、北西の方には川が流れているだけだった。

 不思議に思い、他の本を確認してみようと隣の本を取ってみる。


 と、その時、後ろから声をかけられた。


「瀬里!宮廷内とはいえ、こんな時間に出歩いては危険です!」
「ひゃっ!!」


 驚いて振り返れば、小さな座敷童···ではなく、智彗様だった。


「智彗様っ!!」

「···地図を、見ていたのですか?」


 寝巻姿にフワフワの羽織を羽織った智彗様が、私の手元の本を見て首を傾げた。


「あ、あの智彗様!!今日はごめんなさい!私、この国を危険に晒す様な勝手なことを言って!!」

 とにかく一刻も早く謝らなければと私は深々と頭を下げてから、智彗様の顔色を窺った。

 すると智彗様は交渉の時の暗い表情とは打って変わって、少し困ったように微笑んでくれた。


「いえ、瀬里は話術に長けているのだなあと感心してしまいました。」

「そ、そんな、話術だなんて···。」


 智彗様が私の後ろにある本棚から、比較的綺麗な地図の和装本を、背伸びして取った。


「···私は、この国が戦の危機に晒されないよう、色々なことに気を配りすぎてきました。」

「え?」

「昔、幌天安の北西に山はなかったのですが、祖父が衰えてからは、ずっと平和を望んでいた母が、北西に人工の山々を作り始めたのです。」

「え、ええ?!山を作る?!!」


 彼が持っていた和装本の地図を開いて私に見せてくれると、北西には確かに山脈とは言い難いが、山が記されていた。


「祖父への復讐にくる国が絶えなかったので、すぐに攻め入られないよう、幌天安の盾になる様にと山を少しずつ作っていったのです。」


 ああ、それで私が見た古そうな地図には、北西に山脈がなかったのか···。


「結局父も母も、祖父への復讐にきた兵士たちに殺されてしまいましたが。」

「······」


 正直、なんて言っていいかわからない。戦のない国で生きてきた私が「お気の毒に」なんて、とてもじゃないけど言えないし···。

 でもそんな平和しか知らない私が、この国をまた戦の危機に脅かしてしまったのかもしれないと思うと、急に後悔が襲ってきた。





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