21 / 42
5-1.皇帝を立てる勇者になります!
しおりを挟む結局智彗様は、昼食どころか夕食にも顔を出さないまま夜になってしまった。
何度か部屋を訪ねても返事はなく、何をどうフォローし謝ればいいのかもわからない。
瑞凪様に相談すれば、
「···あまり気にするな。兄さんも男。きっと色々思うところがあるのだ。」
と言われるばかりで、仲を取り持とうとはしてくれない。
私も午前中の交渉で疲れているはずなのに、智彗様のことが気になって全く眠れず、気分転換に書庫に足を踏み入れた。
書庫は真っ暗で、自室から持ってきたランタンを本棚の隙間に置く。
もっとこの国のことを予習しておくべきだったかもしれない。山脈に囲まれていることさえ知らなかったのだから。
私はジャンル分けされた地図の場所で、古そうな和装本の地図を開いた。一番最初のページには、蛇腹に折り込まれた長い地図が入っている。
"幌天安"となんとか読める文字が右上に書かれており、その地図の真ん中にはこの宮廷が記されているのがわかる。
でもその地図の中の幌天安が山脈に囲まれているのは東南の方だけで、北西の方には川が流れているだけだった。
不思議に思い、他の本を確認してみようと隣の本を取ってみる。
と、その時、後ろから声をかけられた。
「瀬里!宮廷内とはいえ、こんな時間に出歩いては危険です!」
「ひゃっ!!」
驚いて振り返れば、小さな座敷童···ではなく、智彗様だった。
「智彗様っ!!」
「···地図を、見ていたのですか?」
寝巻姿にフワフワの羽織を羽織った智彗様が、私の手元の本を見て首を傾げた。
「あ、あの智彗様!!今日はごめんなさい!私、この国を危険に晒す様な勝手なことを言って!!」
とにかく一刻も早く謝らなければと私は深々と頭を下げてから、智彗様の顔色を窺った。
すると智彗様は交渉の時の暗い表情とは打って変わって、少し困ったように微笑んでくれた。
「いえ、瀬里は話術に長けているのだなあと感心してしまいました。」
「そ、そんな、話術だなんて···。」
智彗様が私の後ろにある本棚から、比較的綺麗な地図の和装本を、背伸びして取った。
「···私は、この国が戦の危機に晒されないよう、色々なことに気を配りすぎてきました。」
「え?」
「昔、幌天安の北西に山はなかったのですが、祖父が衰えてからは、ずっと平和を望んでいた母が、北西に人工の山々を作り始めたのです。」
「え、ええ?!山を作る?!!」
彼が持っていた和装本の地図を開いて私に見せてくれると、北西には確かに山脈とは言い難いが、山が記されていた。
「祖父への復讐にくる国が絶えなかったので、すぐに攻め入られないよう、幌天安の盾になる様にと山を少しずつ作っていったのです。」
ああ、それで私が見た古そうな地図には、北西に山脈がなかったのか···。
「結局父も母も、祖父への復讐にきた兵士たちに殺されてしまいましたが。」
「······」
正直、なんて言っていいかわからない。戦のない国で生きてきた私が「お気の毒に」なんて、とてもじゃないけど言えないし···。
でもそんな平和しか知らない私が、この国をまた戦の危機に脅かしてしまったのかもしれないと思うと、急に後悔が襲ってきた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる