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5-3.
しおりを挟む「ヤバい、興奮する。」
一言そう言い残し、その場から去って行った心陽君。
興奮するって、一体何に興奮するんだろう···。
私はドクドクと心臓をうるさく鳴らしながら授業を受けた。
駄目だ、絶対に心陽君に靡いてはならない。あの手のタイプは痛い目を見る。
そう何度も自分に言い聞かせた。
そして隣を見れば、やっぱり秋人が座っていた。
昼休み、相変わらず忙しそうな蓮見先輩を遠目に見ながら中庭のテラスでのランチ。因みに秋人は今も隣にいるが、今日はまだ一言もしゃべっていない。
蓮見先輩は違う学部のおじいさん教授3人に囲まれて、あちこちから話を振られ大変そうだ。
可哀想に···、と同情の目を向ければ、少し疲れた顔をする蓮見先輩と目が合った。
真っ直ぐと、鋭い眼光で私を見つめる先輩。表情は無に等しい。
でも私にはわかる。あれは、「かなりしんどい」と言っている目だ。
···先輩ってほんと、外では自分を抑えてるよな。。
そんな先輩からのSOSメッセージが、ランチ後すぐに入ってきた。
『3限終わったら部屋に来てくれ。頼む。』
私は深い溜め息をついた。このラインだけ見れば、深刻な相談でもあるのかと思ってしまうが、多分違う。
先輩はラインでもまだ自分を崩せない性質《タチ》なのだ。
先輩の本当の姿を知っているのは、どうも私だけらしい。
実家の両親や兄弟にも本性は見せたことがないのだとか。
···別に、本性を見せられるのが嫌というわけではない。嫌、というわけではない····のだけど····
先輩は3人兄弟の長男ということもあり、世話好きで、困っている人を見れば放っておけない。それ故に皆に頼られるリーダー的存在。
誰にでも平等に接し、頭脳分野でもスポーツ分野でも優秀、教授や他の企業からも一目置かれる、日本の期待の星といっても過言ではない、スーパー学生だ。
3限が終わり、私は「よーいドンッ」で秋人をどうにか振りきると、蓮見先輩の部屋へと急いだ。
私が部屋のドアを叩くと、中から「入れ」と、今だ冷静な先輩の声が聞こえた。
「···先輩、お疲れ様です。。ええと、それで···ご用件は何でしょう??」
···靴も脱がず、玄関から白々しく聞く私。
先輩がヒョコッと顔を出し、私に「おいでおいで」をする。
部屋に上がると、先輩がポンポンとベッドを叩き、ここに座れと私を促す。
仕方なく真ん中にある机を避けて、ベッドの方へとゆっくり近づく私。
蓮見先輩は床に膝立ちをし、私がベッドに座るのをじっと待っている。
なんか飼い主を待っている犬みたいだ。
ベッドに腰を下ろすと、蓮見先輩が私を見上げて言った。
「···教授らに、お前の力で孫をどうにか就職させてやって欲しいと言われた···。」
「ええ···それ、前にも違う教授に頼まれてましたよね?」
「ああ···これでもう37人目だ。」
御曹司なんてこの学校に山ほどいるのに、何で皆蓮見先輩ばっかに頼むのか···
「先輩、顔が利くから大変ですね。」
「···うん」
「でも先輩はいつも皆の言うことに耳を傾けてて偉いですよね。」
「うん、そうなの。」
「私はちゃんと知ってますよ?先輩がとっても頑張り屋さんなこと。」
「うん、ポク、ガンパリ屋しゃんなの。」
大きな身体の先輩が、前から私の背中に腕を回し、ギュッと下から抱きついてくる。
···私は先輩の頭を撫で始めた。
「先輩、頑張り屋さんでいい子ですね。」
「うん、ポクいい子なの。イイコイイコなの。」
「···先輩、今日も髪の毛サラサラでいい匂いしますね。」
「うん、ポク髪の毛しゃらしゃらなの。いい匂いしゅるの。ちゃんリンシャンなの。」
オウム返ししかせんのかお前。
先輩が私にしか見せない顔。それがこれ。
先輩は疲れに疲れがたまると、赤ちゃん返りしてしまうのだ。
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