上 下
32 / 41

6-4.

しおりを挟む


「俺はミレーヌと婚約することにした。」

「え?」

「今ミレーヌは王室嫁入りのため修行中の身でな、離宮で暮らしているんだ。」


 元婚約者、前世からの恋人に向かって、よくも平然と言えたものだ。何で私はこんな男が好きだったのだろう。ミレーヌはその間にもいけしゃあしゃあと柔和な笑顔を保っている。


 ああ爆破したい!


 そこからはグレゴリー王子がゾイに事実確認を行い、私への質問などないまま終わった。

 正直この状況でゾイに助けを求めるのは私の意に反する。それでも家族やレオのことを思えば背に腹は変えられない。


「ゾイ!あなたに向けて爆破したことは謝る!でも私は爆破するつもりなんて全くなかったの!自分でも知らなかった能力が発動しちゃっただけなのよ!」

「うるさいぞシシル・メレデリック、貴様に発言権などない!」


 グレゴリー王子がぴしゃりと言い放つ。


「貴様は牢獄に収監され、しばらく反省した後は修道院に放り込まれる。」

「ええええ~!!!!」


 修道院行きは勘弁だ!!頼むから処刑にして欲しい!!

 するとゾイが、「まさに悪役令嬢のエンディングそのものだな」と呟いた。

 なぜゾイは助けてくれないの?!私が修道院行きだけは嫌なことを知っているはずなのに!!


「貴様の心配よりも周りの心配をした方がいいのではないか?メレデリックの家名に傷がつけば、貿易商の家業もこの先廃れることになるのだぞ?」

「う…」

「貴様を助けた、あのレオハルト・アルヴェールも団長の肩書を剥奪されることになるのだ。」

「で、でもレオは私の無実を証明してくれるために助けてくれただけで、」

「うるさい!貴様に発言権はないと言ったはずだ!」


 グレゴリー王子の大声に、私は身を強張らせた。

 彼は昔から気性が荒いのは有名だったが、実際怒っている姿を見るのは初めてだ。 



「…しかし、それらを回避する方法が一つだけあるのだが。」


 急に口調が落ち着いて、その起伏の激しさに私は息を呑む。


「そ、その方法とは、何でしょうか…。」


 グレゴリー王子が足を組み替え、気味の悪い笑顔を浮かべた。


「俺と婚約することだ。」

「なっ」

「俺なら貴様を助けてやれんこともないぞ?」


 …はい??

 この優美な乙女ゲームの世界で、なぜわざわざあなたと婚約しなければならないの??


「この俺なら学園爆破の件はもみ消す事も可能だし?父親の貿易商も、また王族との繋がりが出来れば安泰だろう。」

「…もしあなたと婚約したら、レオの肩書はどうなるの。」

「無論そのままだ。奴は将来この国を背負って立つ騎士として相応しいと、父上に根回ししといてやるぞ?」

「……」


 これは、つまり脅されているということだろうか?


 本当に、私が、この男と…?


 ゲームの中でもグレゴリー王子は脇役として出てきた。実は悪役令嬢であるシシルに淡い恋心を抱いているという誰も得しない設定なのだ。


 ゾイルートでは、最後の断罪イベントでシシルは修道院に行くのだが、そこでグレゴリー王子が「俺と結婚すれば修道院に行かなくて済むんだぞ?」とプロポーズをするのに、「あなたと結婚するくらいなら修道院に行く方がマシよ!」とシシルが叫んで終わるという無駄なシーンがあった。


 今まさに私はその無駄なシーンを体験しているというわけだ。




 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

処理中です...