上 下
31 / 41

6-3.

しおりを挟む


「シシル!!」


 レオが「やめろ!」と騎士を引き剥がそうとするけれど、騎士たちが声を荒げる。


「邪魔立てするようであれば、役職どころか騎士号自体を剥奪するぞ!!」

「っ!」


 その言葉でレオが離れる。

 駄目だ。レオは軍部大臣の息子、私に関わっていてはレオどころかレオの家族まで巻き込んでしまう!


 私はレオに言った。


「ありがとうレオ!!私は大丈夫だから!きっと納得してもらえるはず!」


 どこにもそんな材料はないけれど、一方的に婚約破棄を言い渡されたのだから釈明する余地はあるはず。ゾイに話せばきっとわかってくれるだろう。


 私は精一杯の笑顔をレオに向けた。


「シシル…!」


 レオはやりきれない表情で返し、それでも私は満面の笑みを作った。


 レオでもそんな顔をするのね。でももうこれ以上迷惑はかけられない。

 修道院行きは嫌だけれど、レオの騎士号が剥奪されるよりはずっとマシだわ。レオは騎士団長になるべき人物だもの。




 王都から出ると、第3騎士団の騎士たちが不思議そうに見ている。ポルト先生は、何かあったのかと近衛騎士に聞いていたが、「お前たちには関係ない」と突き放されていた。


 鉄格子の牢馬車が目の前に停まると、途端に武者震いがした。自分はそこまでの罪を犯してしまったのかと。


 …家業にも傷がつく。そうなれば私の家族はどうなってしまうのだろう。


 牢馬車に乗せられた私は意気消沈していた。


 罪人は本来騎士団本部の牢獄に収監させられるのだが、私の場合、まずは宮殿でゾイとの事実確認が執り行うとのこと。裁判のようなものだ。


 
 宮殿は何度か足を踏み入れたことがある。門は竜が通れるかと思うほどの大きさで、丸い屋根の形が特徴的な宮殿だ。

 昔からここに来ると緊張した。好きな人が住んでいる場所なのに、大きくなってからも挨拶やマナーが正しく出来るかと気を揉んでいた。



  近衛騎士たちが私を取り囲みながら、応接間へと連れて行く。


「…シシル?」

「モーゼス!」


 応接間の前にはモーゼスが立っていて、知っている顔を見たら少し安心した。


「なぜこんなところにいるんだ。」

「…実は、学園を爆破した罪で捕まっちゃって。」

「え?…あの件は終わったはずでは、」


 モーゼスが言い終わる前に「さっさと入れ」と他の騎士に促され、部屋に入る。


 ここは私がゾイとこの世界で初めて出会い、転生していることに気付いた場所だ。
 赤い絨毯を緊張の面持ちで踏みしめる。


「シシル・メレデリック久しいな。」

「グレゴリー・エルヴァン王子…。」


 ソファにふてぶてしく座っていたのは、この国の第2王子であるグレゴリー・エルヴァン王子、ゾイのお兄さんだ。


 残念ながら彼は乙女ゲームのセオリーを無視したデブキャラ。とてもゾイと血が繋がっているとは思えない。


 2人掛けのソファを1人で占領し、黄金色の肩までの髪を手で払う。


「さて、先日の学園爆破事件だが、思った以上に被害がでかくてな。学園の理事や父兄から苦情が出ている。シシル・メレデリックを処罰せよと。」

「……」

「軽傷とはいえ怪我人も出ていてね。それもこれも、ミレーヌ・ランシーのお陰だが。」

「…ミレーヌ?」

「ああ、彼女の回復魔法のお陰で場が上手く収まったんだ。」


 ちょうどその時、部屋の扉が開かれ、ゾイとミレーヌが入って来た。


「ゾイ!…ミレーヌ。」


 何でミレーヌがここに?


「久しぶりね、シシル。」


 ミレーヌがスカートを持ち上げ、王族の挨拶をして見せた。

 私が呆然としていると、隣にいたゾイがミレーヌの肩を抱いて言った。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜

よどら文鳥
恋愛
 フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。  フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。  だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。  侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。  金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。  父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。  だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。  いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。  さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。  お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

処理中です...