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「ヤマトは?ヤマトもこの世界に転生して来たの??」

「…うん、ヤマトはね、この国の第3王子、ゾイ・エルヴァンに転生したの。」


 できる限り、声のトーンが最後まで落ちないように、コウキにゾイと私のことを全て伝えた。

 最初は信じられないといった表情だったコウキも次第に沈んだ表情に変わっていく。


「…確かにヤマトは人を惹きつけるし、はっきり言ってマキと付き合っている時も沢山の女の子が言い寄って来てたんだよ。」


 …わかっちゃいたけど、実際口に出されるとイライラするわね。


「それでもヤマトはマキを離そうとはしなかったのに。」

「…彼には、"長く一緒に居すぎた"って言われたわ。」

「時間って、残酷だね。良い思い出も全部忘れさせちゃうんだから。」


 目の前にいたコウキことカミール王子が私の隣にきて、ハグをしてくれた。

 泣きたい気持ちが全くないとは言えない。でも私はもう騎士の一員なのだから、泣いてばかりはいられない。


「…でもねマキ、いくら"推し"だからって、こいつの下で働くのはどうかと思うよ?」


 カミール王子が私を抱き寄せ、レオを睨みつける。


「ねえ、シシル・メレデリック。良ければ僕のお嫁さんにならない?」

「…え、ええっ?!!」


 驚きのあまり、彼の胸を両手でおさえて離れる。



「家柄も問題ないし、何より僕の特撮の趣味に理解がある!」


 特撮の趣味に理解はあっても、従魔を67頭も持つ趣味は理解できない。


「もし就職先がなくて仕方なくこいつの下で働いているなら僕の国に来ればいい。きっとご両親も安泰だ。」


 両親のことを考えるとそうかもしれない。体裁もあるし、私が騎士になるよりは賛成だろう。それでも私はやっぱり自分の能力を活かせることがしたい。


「…ごめんなさいコウキ、いえ、カミール王子。私は自分の意思で騎士になることを選んだの。例え上司が前世の敵だったとしても関係ないわ。」


 そして私は、メロウで自分も同じ一員として扱ってもらいたかった事実を話た。"姫"としてではなく、1人の仲間として。


「そういえばマキはよく、ヤマトやキラに会合に参加させてほしいって直談判してたよね。」


 懐かしい名前が出てきた。

 キラとはメロウの参謀、ヤマトの右腕のような存在で、会合を取り仕切っていた人物だ。


「ヤマトもマキも、ステラも転生してきてるってことは、きっとキラもこの世界に転生してきてるよね。」

「…そうなのかしら。キラにはまだ会ったことがないのだけど。」

「キラは策略家だったから、きっとこの世界でもどこかで何か企みながら生きているかもね。」


 キラはヤマトを地区のトップにのし上がらせるために、色々な策略を張り巡らせていたとよく皆が言っていた。

 敵チームと敵チームをわざと抗争させるように仕向けさせたり、敵同士の抗争中を狙って2チームを一気に壊滅させたり。



「策略家といえば、この国の第1王子、プレゴール·エルヴァンが策略家で有名だな。」


 レオが私を見る。

 前にレオが、第1王子側と第2王子側で派閥争いが勃発してるって言ってたっけ。


 でもプレゴール王子には私も王族主催のパーティーで何度か接触している。キラだとは一言も言っていなかったけれど。



 カミール王子は昨日からこの国に視察に来ているとのことで、明日には国に帰るとのことだった。


 宮殿の客間に泊まっているため、ゾイと接触してみるとのことだった。


「じゃあ僕たちはそろそろ宮殿に戻るよ。」

「レッカはどうやって持って帰るの?」

「もちろん乗って帰るんだよ!」


 従魔の手懐け方がプロだ。

 
 そして「こんな汚いところで一夜を過ごすなんて可哀想に」と檻の鉄格子からまたしてもレッカを見つめている王子。レッカをお嫁さんにすべきだろう。


「マキ、いやシシル。僕はいつでも待ってるから、気が向いたらうちの国にも遊びに来てね!」

「ありがとうカミール王子!」

「それとお嫁さんの件も待ってるからね!」


 本気か否か定かではないけれど、同じメロウだった彼に、自分の気持ちをはっきりと伝えられて良かったと思う。それもこれも私の能力を見出してくれたレオのお陰だ。自分の気持ちに自信が持てた。


 本部の門に停まる馬車の前で最後の挨拶を交わす私と王子。


 その隣で、レオがお供の近衛騎士に話をしているのが聞こえた。


「ところで先刻の学園での件ですが、第2騎士団がすぐ近衛騎士宛に使い魔で応援要請を出したのですが、届いていませんか?」

「…それが、我々は学園に火竜が出たと王都の民らが騒いでいるのを聞いて、慌てて学園に行ったんだ。もし宮殿に要請がいっていれば、我々にも緊急連絡として回ってきているはずだが…。」


 視察中の彼らしか学園に来なかったという事は、きっと使い魔が途中で錯乱し、逃げたのかもしれない。


 レオが腑に落ちな様子で「そうですか。」と話を終わらせた。



 それからカミール王子一行を見送り、私とレオもそのまま直帰することになった。


「…王子の嫁にならなくて良かったのか?安定の就職先だぞ?」

「言ったでしょ?私は誰かの妻として大人しく宮殿で過ごすよりも、外で暴れていた方が性に合うのよ。」


 来た時同様、レオに腰を支えられながら馬に乗るが、来た時ほどの気まずさはない。お互いに慣れてきたのかもしれない。


「さっき王子が言っていた"時間は残酷"って言葉、シシルはどう思った?」

「え?"良い思い出も全部忘れさせちゃう"ってやつ?」

「ああ。」


 私はゾイとはこの先後世でもきっと一緒にいられると思っていたけれど、結局は"永遠"なんて言葉はないのかもしれない。

 ミレーヌという存在が現われて彼が心変わりしたように、人の心は常に新しいものに更新されていくと考えると、"時間は残酷"なのだろう。


 でも、私も今は爆破の能力を活かしたいという気持ちでいっぱいだ。


「私は残酷じゃないと思う。新しい自分の道が切り開けたわけだし。」

「そうか。俺はむしろ時間に感謝しているくらいだ。」

「へえ?何で?」

「シシルとこうして沢山話すことが出来たから。」

「……」


 また気まずくなるようなことを言う。でもレオは真面目に言ったようで、特に照れている様子もない。だから私も真面目に返した。


「そうね、じゃあ私も、レオとこうして話せる時間に感謝するわ。」


 夜風が頬を撫で、火照りを隠すにはちょうどいい。夜空には前世では見られなかった星空が広がっている。"ステラの総長"が近寄り難い存在でないことを知った日だった。







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