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4-1.シーク様は特撮好き

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 ママ馬をダルタニアンに会わせると、2頭は涙を流し、嬉しそうに身を寄せ合った。


「ヒヒヒ、ヒヒーン。。(ありがとう、シシル。)」

「こちらこそ、ここまで乗せて来てくれてありがとう。」


 火竜が騎士たちの風の魔法により運ばれていく。

 とりあえずは騎士団本部の魔獣専用の檻に留置し、この火竜がどの地域に生息しているのかを調べた後で返すらしい。竜は希少なため殺傷処分はしないのだとか。


 ゲームの中でも火竜は出てきた。開拓のため、辺境地に視察に行った他国の王子(攻略対象)が火竜に出くわし攻撃を受け、片腕が不随になるのだ。そこで回復魔法を持つミレーヌに会いにやって来るというルートがある。


 
「なぜ近衛騎士は応援に来なかったんだ?!使い魔を飛ばせと言ったはずだろ!!」

「と、飛ばしたはずなのですが…も、申し訳ありません!」


 第2騎士団の団長が騎士に怒鳴っている。でもレオがそこに割って入り、「使い魔も火竜に恐れをなし錯乱していたのかもしれない」と騎士を庇っていた。


 前世は敵だったから悪いイメージしかなかったけれど、レオって実は仲間想いで優しいのかも。ステラに捕まっている時にもっと腹を割って話せていたら、メロウとも仲良くやれていたのでは?



「レオってとってもいい団長なのね。私レオのいる第3騎士団にきて良かった。」

「おやおや、ようやくレオの良さに気付いたのですか?…確かにリオの時は近寄りがたい雰囲気はありましたけど、今では皆のヒーローのような存在なんです。」

「へえ。」


 ポルト先生と、他の騎士団長たちと話し合っているレオを見つめる。真剣な表情で話をする姿にドキッとした。

 さっき抱きしめられた感覚がまだ残っているのを思い出し身体が熱くなる。推しなんだからドキドキするのは当たり前かと自分を納得させた。


「姉さん!!!」


 校舎から走ってくるアンドリューが見えた。


「アンドリュー!!」


 私が抱きしめようと大きく手を広げると、アンドリューが私に「何してるの!!」と大声を上げた。


「姉さんは保護されてる身なんでしょ?!それが何でこんなところで火竜相手にしてるんだよ!!」


「心配させてごめんねアンドリュー。私が心配になって勝手について来ただけなの。」

「じゃあ何でそんな騎士の格好なんてしてるの?!絶対おかしいよ!!!」


 アンドリューが膨れた顔で私の両手をギュッと握る。


 助けを求めようとポルト先生を探すと、先生は他の騎士団の女性に囲まれていた。


 ここは抱きしめて誤魔化そうとアンドリューをぎゅっと抱きしめると、少し向こうの木に何かが引っかかっているのが見えた。


 あれって、ストール??


 私はアンドリューから離れ、その木に近付いて見上げた。どこかで見たことのある、金の絹のような大きなストールだ。どこで見たんだったか…


 木に足をかけ登ろうとすると、アンドリューが「もう!話聞いてよ!」と文句を言いながらも、風の魔法でストールを取ってくれた。


「ありがとうアンドリュー。」

「あれ?これって、どこかの王子が巻いてたやつじゃなかったっけ?」

「え?」

「ほら、よくマキが、シーク系は色気が凄いとかって言ってたじゃん。」

「…え?…マキ??」


 アンドリューの口から突如、私の前世の名前が出てきた。

 考えたくなかった事実が目前に迫るも、アンドリューが、「あ!授業中だったんだ!」と、くしゃりと笑って校舎に駆けて行った。やっぱりアンドリューはサクなのかもしれない…。

 
 でも今の"シーク系"で思い出した!

 このストールは攻略対象であるカミール・パストラーナが首に巻いているものに似ている。

 カミールはこの国の王子ではなく、ここから西南にあるサウザード王国の、確か第4王子だったはず。サウザードは砂漠地帯なので、口に砂が入らないようにストールを巻いているのだ。


「伝達です!!先程の火竜の住処がわかりました!!」


 1人の騎士が、外から学園の中へと走ってきた。

 私も皆の元に駆け寄ると、騎士たちが一カ所に集合する。


「先程の火竜は、サウザード王国王族の従魔《じゅうま》であることが判明したそうです!」

「は?従魔だと?!」


 レオが声を上げた。

 従魔とは飼育用の魔獣のこと。でもこの国で使い魔以外の従魔を持つことは禁止されている。


「もしかしてサウザードが従魔を使い攻めてきたのか?!」

「いえ、そんなはずでは。伝達によれば、現在サウザード王国のカミール・パストラーナ殿下が視察に来ているとかで、」

「視察?…どういうことだ。」


 まさか、視察にペットの火竜を連れてきたってわけじゃないわよね??






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