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55話 出発と陰謀

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 王宮の入り口に、豪華な馬車と護衛の者達が列をなして並んでいた。

「フレア、本当に行くのか?」

 ルイス殿下が私の手を握り確認をしてくる。

「勿論ですわ。私が責任者ですもの。」

 私はルイス殿下の目をじっと見つめ、絶対行きます!の意思表示を示す。

 ルイス殿下は私の意志が固いと思ったのだろう、目をギュッと強く閉じて私を抱き締める。

「アリア、心配だよ。まだ君を襲った賊を捕まえていない。出来れば違う者に行かせて欲しい。」

 その言葉、何十回と聞きました。

「無理ですわ。」

 私の返答を聞くとルイス殿下は諦めたように軽く私にキスをして

「今日行くのはやっぱり辞めました!って言葉が聞けると思ってたよ。こんなことなら昨日もっと抱き潰して置けばよかったよ。」

 いやいや!十分抱き潰されましたよ!
 今も腰も痛いし、ドレスで隠れているけれど足はプルプル震えていて立つのもやっとですから!

「気をつけて行っておいで。なるべく早く帰ってくるんだよ。」

 ルイス殿下はそう言って私の頬を撫でてもう一度キスをする。
 そして私の手を引き、馬車までエスコートしてくれた。

「ルイス殿下行ってきます!」

 私の挨拶で馬車が動き始めた。




 それらの行動を王宮の三階の窓から見ている人物がいた。

「やっと行ったわね。」

「はい。やっと出発しましたね。ナタリア様。」

「ルイス殿下にキスされてエスコートされているなんて、何て忌々しいの奴!ふん!せいぜい旅の道中を楽しめばいいわ。例の件は大丈夫なの?」

「はい。モコッロ帝国から了承したとの連絡はありましたが·····少し気になることがあります。」

「あらどうしたの?」

「書簡を持ってきた者です。従者ではなく冒険者でアーサーと名乗るものでした。モコッロ帝国に書簡を持って行かせた従者が賊に襲われたとのことで、そこにたまたま通りかかった冒険者アーサーが、まだその時には息があったらしく、その者にリンカーヌ帝国のナタリア様に、この書簡を渡して欲しいと一言言われその者は息を引き取ったらしいのですが·····。」

「あら、その方は親切な方ね。どこが気になるの?」

「いつもの従者に持って行かせたのですが、このミィーニアがいつも指示してますのでナタリア様からというのは知らぬはずなのです。なのに冒険者アーサーはナタリア様を名指しできました。それがとても気になるのです。」

「····確かに気になる所だけれど、ミィーニアが私の筆頭侍女とは知っているはずでしょう?死ぬ間際に思わず言っても仕方がないのではなくて?」

 ナタリアはあまり気にした様子もなく、アリアが王門から出て行くのを確認すると後宮へと歩いて行った。

「·······そうだといいのですが·····」

 ミィーニアは胸騒ぎがしたが、その不安を追い払うかのように頭を左右に振りナタリアを追いかけて行った。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ガタン、ゴトン。

 アリアを乗せた馬車は王都の街をちょうど走っていた。
 結構な行列の為、街行く人が何事かと見ている。
 そんな光景を馬車の中から見ていたアリアは、馬車の中へと視線を移して用意してあった紅茶に手を伸ばした。

「やっとだわ。ルイス殿下のお陰で予定よりかなり遅れての出発だわ。」

「でも、許可いただいたのですから感謝いたしませんと。あのままでしたらミランバルへは行けませんでしたよ。」

 ネネは茶菓子を用意さて簡易テーブルに置いた。

 今回はネネが同行となった。
 予定はレイナを同行させるつもりだったけれど、前回のことがあるからかネネが同行すると言い張ったのだ。

 子供が可哀想だからリンカーヌ国に残りなさいと言ったのだけれど、頑固なネネは譲らず、代わりにキースが残ることになった。

 この度も近衛のランディは勿論のこと、キースの代わりにルイス殿下付き騎士も今回の旅に参加している。

 護衛も騎士団も三個隊、私付きの近衛でかなりの行列での移動となっている。

 ······ここまで厳重にしなくてもいいと思うんだけど······。


 そう、ルイス殿下に言ったが、念は念を入れた方が良いと無理やり、騎士団を押し付けられたのだ。

「ハア·······」

 私は少しため息をついた。
 あまり厳重にしたら余計に狙われるのではないかと······。
 賊に襲われた時は一人だった。今は周りに護衛もいる。早々に手を出して来ないと思うけど······。





 それから順調に旅が続いた。

 王都を出て4日が経っていた。

 ある山に差し掛かっていた。そこは道も整備されておらず、馬車のガタガタと上下に激しい揺れながら移動していた。

「ウップッ」

 揺れが激しくて酔ってしまった。
 ネネも青い色の顔をしている。

 吐きそう!!

 そう思っていると急に馬車が停まった。

「?」

 馬車の小窓のカーテンを少し開くと、そこには護衛たちが剣を構えて警戒している姿が見えた。

 護衛達が睨んでいるその先には、全員馬に乗り全身黒ずくめの集団がいた。
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