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3章、ハッピーエンドは譲れない。

番外編:ひだまりの野山、子どもたち

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   SIDE:未来の小香主


 ――今日は多くの客が山を訪れている。
 大人も、子供も。
 
 爛漫らんまんと春を彩る花々の間を、ひらりはらりと木の葉が舞う。
 薄桃色、純白、蜜色、淡い青……個性豊かな花びらの間を可憐な蝶々が飛んでいる。

 緑をささめかせている東風こちは優しくて、枝垂れる緑は透きとおる朝露を幾つも抱いてきらきらしている。

 そんな山の中を、尚山の子供たちが駆けていた。
 獣道をずんずん進み、石造りの階段に辿り着いてから元気いっぱい走り登り。
 ゴールと定めていたらしき大きなお屋敷の門をくぐって屈託くったくのない笑顔を咲かすのは、子供たちのリーダー格らしき男の子。
 
「おれさま、いちばん!」
 狼耳と尻尾をぴょこりとさせて、男の子は後続の子分たちを振り返った。
 
 赤い紐で結わえた艶やかな黒髪が、さらりと風になびく。
 瞳はきらきらと輝いて、乳白の肌の頬は健康的な林檎色に色づいていた。
 大きくひらいた口の中には、真珠みたいに白い狼牙がみえる。
 
「おまえたち、おそいぞーっ! 功夫クンフーがたりないぞ!」

 子分の子供たちがひとり、またひとり門をくぐってゴールする。
「ぼく、二番~」
「ちがうよ、私が二番だよ」
 ほとんど同時にゴールした子供二人が睨み合い、リーダーの男の子を視る。

「小香主さま、どっちが二番ですかぁ?」
「小香主さま、私が二番ですよね?」

 リーダーの男の子は、すこし考えるように首をかしげた。

 正直、どっちが先だったかをよく見ていなかったのだ。

 ふわふわと甘い香りがして、門の奥――屋敷のほうから大人が近づいてくる。
 緋家の当主様や魔教の香主様、高位魔人に道士様、名門名家のご当主様もいる。いつも優しい爺やもいる。

 子供たちのお父さんやお母さんだ。
 そう気づいたリーダーの男の子は、きりっとした顔で凛然りんぜんと声を響かせた。

「どっちが先かなんて、どうでもいーい! 大事なのは、お前たちどっちも頑張ったってことだ! えらいぞっ、ふたりとも同じくらいえらいっ」
 
 ……そして一番えらいのはおれ!
 
 そう付け足せば、くすくすと大人たちが笑う声があったかい。

 大人たちの中の『憧れ』の人を意識して、小香主と呼ばれる男の子はことさらに声を大きく張り上げた。 

「合言葉いくぞー」

 狼耳をぴんっと立てて、男の子の右手が持ち上がる。
 左手は腰にあて、右手の人差し指は天に向け。
 格好つけるみたいに、ポーズをとって。
 
「走火~っ!」
 
 子分たちに合言葉を問えば、子供の声が揃って元気いっぱい、返事を唱和する。

「入魔ーーっ!」
 

「おれたちは将来、傭兵団になるのだーっ」
 えっへん、と胸を張って尻尾をぱたぱたさせる『小香主』と子分たち。

 大人たちは微笑ましくそんな子供を見守り、「傭兵団ってなに?」「そういう遊びが~、あの年頃の子たちにはアツイんですよ~」などと囁きを交わすのだった。
 




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