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2、ずっと、ずっと(軽☆)

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「う、うわわ……」
 すごい。刺激的だ。
 恋人いない歴=年齢の俺にはこの空間自体が劇薬だ。
 
 さっき飲んだカクテルも効いてきたのだろう、身体の内部からじわじわと熱の高まりかけている感覚がする。
 空気はあったかくて、甘ったるい蜜みたいな香りがする。
 ムーディな薄暗い視界の中、耳には絶えず誰かの色めいた喘ぎ声や濡れた声がきこえて――煽られる。
 
(こ、こんなの。やばい)
 
 性に芽生えたばかりの少年みたいに、はぁはぁと鼻息を荒くしてしまう。
 興奮して、頬は赤く火照っている。
 ドキドキくらくらしていて、理性より欲望が勝っていく――この空間ではそれでいいのだ、と環境情報全てが背中を押してくれる!
 
「お兄さんイケメーン。ボクとあそばなぁい?」
 甘ったるい声で近付いてくるのは、ネコの腕章をつけている美少年。遊び慣れていそうだ。
「腕章を見ろよ、こいつはネコだ。というわけで、俺が頂く」
 そう言いながら俺を特に暗い場所のソファに連れ込もうとするのは、大柄で筋肉質な男だ。腕には――イヌの腕章がある。

「カクテルと雰囲気で酔ってるのかぁ? おい、大丈夫かぁ?」
 
 男の声は低くて艶があって、とても安心する声だ。
 聞き覚えがあるような気もする。
  
「あ……熱い……」
 ソファの上に寝かされて、とろりとした顔で自ら上着を乱して胸元の肌をさらせば、男は隣に座って頭を撫でてくれた。
 愛撫というよりは子供扱いされている気分だが、気持ちいい。

「気持ちいい……」
「水飲む? 持ってこようか?」
「ん……もっと撫でてほしい」

 ちょっと困ったような気配が不思議だ。
 さっさと襲ってくれればいいのに。

 これは焦らしプレイというやつだろうか?
 
「勃ってるな――イオス君、苦しいかい? 脱がしたほうがいい?」
 
 薄暗い中で、大きくて厳つい感触の手が俺のスラックスの盛り上がりに触れる。

 ほんの少し、布越しに確かめるような、宥めるような手の感触。
 それが思っていた以上に強い快楽の波を生んで、俺はびくびくと腰を揺らした。
「あ、あっ!?」
 敏感な場所に電流が走ったみたいで、悲鳴みたいにあられもない声があがってしまう。
 欲望の熱が集まっていた箇所がじんじんとする。恥ずかしい。もどかしい――じっとしていられない。

「煽情的すぎる……とりあえず、熱を放って楽になろうか?」
「は……はぁ、はぁ、ん……っ、出したい……っ」
 
 俺ははぁはぁと官能の余韻に息を乱して必死に頷いた。
「可愛いね……危なっかしいね……俺が誰かもわかってないよね?」
 男の掠れた声と、カチャカチャという金属音がする。
 脱がされる――布がずらされて肌に擦れる感覚。敏感になった身体はそんな些細な刺激でさえ快感として拾ってしまって、欲を煽られてしまう。
 
「……っ、ふ、ぅ……っ」
 身悶えする脚が開かされて、すっかり熱を孕んで反り返った俺のペニスが優しく撫でられる。
 根元から先端へ。そのゆったりとした愛撫ひとつで、ぶわりと官能の波が湧きたった。
 
「イオス君。声、我慢しなくていいよ。魔法で音を遮断したからね」 
「っ、んぅ、ぅ……っ」
「俺しか聞いてないから、可愛い声きかせて……?」 
 
 先走りの蜜がとろとろと滴って、相手の手を濡らしている。
 くちくちという濡れたいやらしい音が聞こえて、羞恥心が胸に湧く。

「は、あっ……」
 何度も撫でる動作を繰り返されて、甘い快楽の波がどんどん誘導されて高くなっていく。
 気持ちいい。恥ずかしい。気持ちいい。

「イオス君、気持ちよさそう。可愛いね」
 聞き覚えのある声が少し切ない感情で揺れている。
「俺、襲っちゃいそう。でも、俺のことがわからない君を抱くのも嫌だな……俺が君のこと好きだっていうのもわかってないみたいだし」
 
 男がそおっと顔を覗き込んでくる。
 仮面越しの目が、とても誰かにそっくり。
 アッシュグレーにワインレッドのメッシュを入れた髪――、
 
 ――シグさん。

 目の前の男が誰なのかに気付いた瞬間、片手でペニスの裏筋を辿られて、ぞくぞくと背筋を快感が奔った。
「んぁっ!」
 悲鳴みたいな嬌声をあげて首を反らせば、首筋にキスが落とされる。
「ん。可愛い声……」
 自分で聞いていて恥ずかしくなるようなはしたない声を褒められると、嬉しいような恥ずかしいような気持ちでいっぱいになる。
 どんな顔をしていいか、わからない。
 
 甘く唇で揉むようにして、軽く口を開いて甘噛みするようにして、れろれろと舌で舐められて。
 ちゅう、と吸われると、俺は胸を浮かせてビクッと反応してしまった。
 
「好きだよ。俺だよ。俺のこと、わかる……? わかって……?」
 糖度過多だ。
 きいているだけで腰が砕けそうになる感情の籠った官能的な声で囁かれて、俺は肩をあげた。

「あ、ぁ、わ、わ、わかっ……あ、あ」 
 肩に頬をすりすりとされて、片手の人差し指で胸から腹に直線を引くみたいに愛撫を繰り返される。
 もう片方の手はずっとペニスを愛でていて、指先が先端の形を確かめるみたいに皮膚をなぞって、溢れる透明の先走りを愛でて泡立てようとするようにかき混ぜ、水音を立てている。

「ひ、あ! は、ぁ、ぁ、ああ」

「腹筋がひくひくしてて、おへそに誘われているみたいだよ」
「ぁ、あっ」 
 腹に降りたシグさんの指先がへその窪みをくりくりとくすぐると、未知の感覚がぞくぞくと渦巻いた。

「ここも、感じるんだね。悦いんだね」 
「~~っ!」
  
 俺は上擦った声をあげて両手でシグさんにしがみついた。

 
「そろそろイけそうかな」

 優しい声が耳元で囁く。

「イオス君、俺の手に集中して――気持ちよくなって」
「あ、やっ、イ……っ」
 
 根本から先端まで、明確に射精を促す意図で扱かれる。
 くちゅくちゅと淫猥な音をたてて、先走りの後に放たれるべき本命の液体を導こうと扱かれる。
 他人の手で優しく促されるのが、たまらなく悦い。気持ちいい。
   
「あ、あ、――っ、くぅ……っ」

 放ちたかったのだ。
 放っていいのだ。
 
 そんな思いが、快感が――弾ける。

 堰を切り、びゅるるるっと白濁を射精して下半身を汚した俺は、はあはあと肩で息を繰り返しながら余韻で全身をひくひく痙攣させた。
 だらしなく開いていた口の端から唾液がみっともなくこぼれていて、それを舐めとるみたいにシグさんの舌が顎から唇にねっとりと移動する。

 雛鳥が餌をねだるみたいに弛緩した口から出ていた濡れた舌が吸われると、ぞわっと甘く痺れる官能がまた背筋を侵した。

「ん――ンん……」
 何度も何度も、キスされる。
 ちゅっ、ちゅっと音をたてて啄むようにされて、あむっと食むようにされて口の中に舌をいれられて。

 角度を変えて、口付けが深くなる。
 綺麗に舐めとってもらったのに、また口の端から唾液があふれて、べたべたになってしまう。
 
 相手がシグさんだ、という思いが秒ごとに強くなる――少しずつ理性が戻ってくると、現実が恐ろしくなってくる。

 どれほどはしたない姿を見せてしまったか。
 どれだけ破廉恥に善がっていたか。

「――っ」
 恥ずかしい。
 恥ずかしい……!!

 顔を真っ赤にしてぎゅうっと目を瞑っていると、安心させるように髪が撫でられた。
 やさしく、幼子を寝かしつけるみたいに。
 
「大丈夫だよ。可愛かったよ。気持ちよかったね、イオス君? もっとしたい? どうする? する? やめたかったら、やめてもいいよ」
 
「し……シグさん」

 ほろりと目尻から涙を垂らして名を呼べば、ハッとしたように息を呑む気配がする。
 そして、嬉しさを全身から溢れさせたみたいにぎゅっと抱きしめられた。

「うん。……うん。俺だよ……い、いやだった……? 俺にされるの、いやだった……?」

 拒絶や嫌悪を怖れるような声色でシグさんが言うから、俺の胸がきゅんっとなった。

「こ、こんな出会い系のお店なんかで、変な奴にイオス君が酷い目にあったりしたらって思って……お、俺。ストーカーみたいで、気持ち悪い……?」
 
 懺悔するような声で、シグさんが説明してくれる。
 シグさんは、俺を心配してくれたんだ。
 俺を助けようとしてくれたんだ……?
 
「き、気持ちよかった……っ、俺、き、気持ちよかっ……」

 恥ずかしい気持ちを抑えて必死に言えば、頬にキスが落とされる。

「す……好きだよ」
 シグさんが甘酸っぱい声で、耳元で愛を囁く。

「イオス君がギルドに来た日からの、一目惚れだよ。ずっとずっと、先輩として面倒を見ながら、君にどうしたら好かれるか、どうしたら嫌われないで済むか、そればかり考えてたよ」

 突然の告白に、情緒がふわふわと甘く乱される。
 大切な宝物に触れるみたいに手を取られて、手の甲にキスをされる。
 神聖な誓いの儀式みたいで、どきどきした。
 
 ――なんだこれ。

 幸せだ。
 なんだか、すごく気恥ずかしくて、どうしていいかわからない――嬉しい。

 俺はゆるゆるとしそうな唇をきゅっと噛んで、顔を真っ赤にした。

「突然いわれて、困るよね。……でも、こういうお店で相手を探すよりは、俺を選んで欲しい。俺を好きになってほしい――」
「は……は、い」 

 シグさんが熱く訴えて、その日、俺たちはクリスマスを一緒に過ごす約束をしたのだった。
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