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七章、勇者の呪いと熱砂の誓い

149、できる(☆)

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 口付けというよりは吐息を絡めて舌先から想いを押し付け合って教え合うみたいなキスは、ちょっといつもと違う、神聖な儀式にでも挑むみたいな特別な感じがした。
 互いに――きっと少し、今夜の久しぶりでもあり初めてでもある行為を特別に思っている。そんな気配が二人の間に満ちていた。

 厚ぼったい舌の腹が擦れて、唾液がぬるりと絡まって音を立てる。
 ぴちゃりと鳴った水音は淫猥で、喉の奥から息が溢れた。
 
「んぅ……」
 角度を変えて深く食いつくような口付けがされると、口腔にぬるりと舌が侵入してくる。粘膜を舐め上げられると、腰から背にかけて甘い痺れが走った。
 敏感な場所を心得た動きで歯列をなぞられながら頬を撫でられると、くぐもった呻きが鼻から抜ける。
「んっ、ふ……、ふ」
 上顎を舌で愛でられながら身に纏った夜着の上から身体の線を撫でられると得体の知れない感覚が順に芽生えていくようで、ぞくぞくと肌が震えた。きゅっと両肩をすくめていると、宥めるように手で肩を摩られて、ついでみたいにするりと夜着が脱がされていく。布が滑り落ちる微細な感覚さえも心地よさに変換しようとする自分の肌が、ちょっと怖い。
 
「ふ、あ……」
 唇が少し離れて恍惚と呼吸を紡げば、ノウファムがぽんぽんと僕の頭を撫でてから首元に唇を落としていく。
 露出した肌を確かめるみたいに触れる指先はいつか感じた羽先を思い出させる柔らかさで、僕はドキドキした。

「ん……」
 胸の鼓動を確かめるように手のひらが真ん中に置かれて、脇に滑っていく。手首に指の腹が置かれて、とくんとくんと脈を自覚する。あったかい。ちょっと全身が震えているかもしれない。
「緊張している?」
「ふ……」
 震えている。なんだか自分が小刻みにぷるぷる震えている。
「む、む、」
 武者震いかな? なんて言ったら呆れられるかな。
 僕は寸前で口を噤んで横を向いた。僕にも学習能力はある。下手なことは言うまい……。
「嫌なことを思い出したのか?」
「ん、いいえ……」  
 ノウファムの問いかけはお医者さんみたいで、僕はそっと首を振った。自分でもよくわからないのだ。たぶん、緊張しているのはあるだろう。やっぱり武者震い的なやつかもしれない。
「ひ、久しぶりなので」
「そうだな」

 落ち着かせるように肌を撫でる掌があったかい。骨のでっぱりを辿るみたいに胸元から脇に指がずれていって、柔い脇をくすぐりながら腰に降りて骨のでっぱりをくりくりとされる。首筋に熱い舌が這わされて、吸われるのがむず痒い。もどかしい感じがする。
「んぅ……」
「これは、嫌ではないな?」
 確かめるように問われて頷けば、唇が鎖骨にあてられる。ちゅ、と音を立てて吸われると、つきんと肌が刺激されて甘い感覚が胸に湧く。胸のあたりが落ち着かなくなって、僕は息を落ち着かせようと呼吸を繰り返した。

 黒い絹糸みたいな髪が白い肌の下を降りていく。ちゅ、ちゅ、と唇が肌に痕を刻んでいく。胸からお腹に降りていくのを意識すると、僕の中で謎の焦燥感みたいなものがどんどん強くなっていった。
「はぁっ、……ん、……はぁ……」
 肌に熱い唇を感じる。へその周りを舌が舐って、吸われる感覚がぞくりとする。
 口づけが落とされた箇所から官能の花が甘く根付いて、身体の芯がじんじんと疼いていく。

「ふっ……はぁっ……」
 脚が撫でられて、僕の中心が熱を溜めていく。この感覚は、以前とそう変わらない。
 少しずつ快感の種をキスで撒かれていくみたいに、身体中が愛でられている。
 くすぐったくて、もどかしくて、気持ちがいい。
「……っ、はぁ……んん……」
 もっと快感をねだるように身をくねらせていた。油断すると変なことを口走ってしまいそうなほど、脳が茹っている。
 標本として縫い付けられた蝶々みたいに仰向けに寝るだけの僕は、おろおろと手を上げたり下げたりして、最終的にシーツを掴んでじっとした。

「気持ちいいか?」
「は……っ」
「もっと?」
「んん……っ」
 弱い刺激を繰り返された身体は、炙られて内側から少しずつ熱をあげていくようだった。少しずつ、どんどん、耐えがたい熱さが溜まっていく。
 身体から力が抜けていく。布が擦れる感覚さえ、過敏に意識してしまう。もっと、もっとと求めてしまう。

「……っ、僕、なんだか」
 普通に昂っている。
 そんな自分に、僕は戸惑った。
「高まっている?」
「ん……っ」 

 聖杯でもなく、媚薬を使ったわけでもないのに、こんな風になるんだ。
 僕の中にはない知識だったから、僕は戸惑った。
  
「そなたの身体は美しい」
 崇めるような表情で本気の声色で言うから、僕はどんな顔をしていいかわからなくなってしまって目を逸らした。
 頬が熱い。
「きれいだ」
 讃えるように呟いて脚の付け根を摩られると、内股がびくびくと震えてしまった。
 恥ずかしい。どんな顔をしていいかわからない。僕は口元を抑えてノウファムを見つめた。ばさりと夜着を脱いで、肌を見せている。手に垂らしているのは潤滑油だろう。滴る液体がふわりと漂わせる香りは腰を重くさせるような甘ったるい感じだ。薄闇の中、いかにも臨戦態勢の雄といった彼を見ると一気に体温があがる心地がして、僕は視線をうろうろと彷徨わせた。
「あ……あなたも。綺麗です」
 よく締まった筋肉は芸術家が喜んで筆を動かしそうで、色の濃い肌は蠱惑的で、滑らかで清潔感があって好ましい。むっちりとした肉感は、思わず手を這わせたくなる。触れて見るとしっとりとして熱くて、硬いのだ。なにより、股間でそそり立つ雄の証が存在感たっぷりで――僕はなんだか正視していられない感じがして顔を逸らした。
 
 そんなときに、快感が不意打ちみたいに与えられて僕の全身が大袈裟なくらいビクッと跳ねた。
「あっ」
 僕の股座で兆していた屹立が手で包まれて、優しく撫でられる。ちょっとひんやりと濡らされた感覚が、摩擦でどんどんぬるぬるした心地よさに変わっていく。
「ふ、んんんっ、あっ……」
 直接的な刺激は心地よくて、腰を持ち上げるようにして揺らして反応を返してしまう。
 わかりやすい反応にノウファムは喉を鳴らして僕の眼を覗き込んできた。
「これも、大丈夫そうだな?」
「ん、ん……っ」
「気持ちいいな?」
 僕の反応を確かめるみたいに手が大胆に上下されて、強い性感が僕を翻弄する。ぞくぞくと背が震えて、僕は必死に手をノウファムに向けた。肩に触れると、がっしりとした感触が頼もしい。
「あ、ふあ……っ」
「エーテル? これは気持ちいいな?」
「い、いい……っ、あ、あっ」
 かくかくと頷けば、ご褒美みたいにくちゅくちゅとリズミカルに扱かれる。気持ちいい。腰が揺れて、快感を追ってしまう。
 
「よし、よし」
 ノウファムはあやすように微笑んで、吐息を奪うように口を塞いだ。
「んーっ、んぅ……っ!」
 深い口付けの合間に必死に紡ぐ呼吸が快楽に染まっていく。達しかけた僕の屹立からふいに手が放されて、代わりに後ろを探られるとびくりと身体が強張った。唇がはむはむと揉まれて、舌が緊張を解かせるみたいにくすぐられる。ぬるりとした指先で後ろの窄まりを揉むようにされると、僕の舌が強張った。背筋がくっと反り返って、腰がびくびくと震える。ちょっと情けないことに、昂っていた屹立は後ろへの刺激にすこし怯えるように射精感を低めていた。
 つぷりと濡れた指が後孔に潜り込む感覚が、怖い。

「ん、んぅっ」
 涙目でくぐもった呻きを喉奥から洩らしていると、口の中で唾液を攪拌するような舌がぴちゃぴちゃと舌裏を愛撫した。ぞくぞくっとした快感が首元を痺れるようにさせて、両側の頬の表皮がぞわっとする。
 僕は余裕をなくした両手でノウファムの髪に触れて、くしゃりと毛先を乱して小さく首を揺らした。
「ン……」
 指の間に髪を絡ませると、細い髪の感触さえも気持ちよく思える。何でも快感に変わっていくみたいだ。快感に溺れかけたところを、後孔にもたらされる違和感で引き戻される。強張りかけた身体が、愛撫で弛緩させられる。それを繰り返していると、情緒がおかしくなりそうだった。

「……ん、はぁっ」
 唇が離されて、透明な唾液が後を引く。
 たらりと二人の間にアーチをつくって、重力に従ってとろりと垂れる雫がなんだか綺麗だ。
 
「慣れてきただろう?」
 ノウファムが掠れた声で囁いて、僕の中で指を動かす。指はいつの間にか、増えていた。それに、深い――、
「あ、ゆ、指……」
 くちゅ、くちゅといやらしい音がする。自然に濡れた音ではない。潤滑油で浸されて、濡らされた音だ。
「俺の指をちゃんと咥えている」
「ふ、……」
「変わらない」
 
 関節の硬さを内側に感じる。指が曲げられたのがわかる。
 変わらない――そうなのだろうか?
 
「僕の中、変わって、ない……?」
「そうだな、ここはそれほど変わっていない。前のように奥から溢れてくる液体はないが」
「……っ!」

 以前のどうしようもなく溢れさせてしまう感覚を思い出して、僕は羞恥に悶えた。
 
「お前の身体であることに変わりはない。ここは同じだ」
「あ、ひろげないで……っ」
 滑りの良くされた内壁を中でひらくようにされると、怖い感じがする。それになにより、恥ずかしい。
「では、ここは?」
「ひ、あっ!」 
 指先で中の一点を突かれると、妙な感覚が生まれる。
 ビリッと強い快感が弾けたみたいな、快感が稲妻みたいに脊椎を走るみたいな。
 小さく悲鳴をあげた僕に目を細めて、そこが執拗に刺激される。コリュコリュと引っ掻かれて、全身がビクビク跳ねた。
「あ、そこ……あ、あっ!」
「そなたを蕩けさせてくれるところは、ここだな――これも、変わらない」
  
 やり過ごしても堪えても追加される快楽の波はどんどん強く大きくうねって、僕を攫おうとする。
 流されてしまいそう。

 腰の奥が疼き、肌が震える。前が再び張り詰めて、後ろの刺激に押し出されるみたいに精を吐いてしまいそうだった。

「ノ、ノウファム様」
 小さく絞り出された声が余裕のなさを語ってしまう。

「ん」
 返される声はちょっと興奮が透けていて、それが僕をさらに煽る。

 視線がそちらに向いてしまう。
 脈打つような、雄々しいそれに。

 以前何度も自分の中を埋めた感覚を思い出して、僕の後ろがひくひくと震えた。
 その質量を中で感じたいと思った。

 以前は、できたのだ。
 思い出すと、お腹の奥がキュンとなる。
 以前とは違うはずのそこが、淋しくて物欲しげに泣くようだった。

「挿れてみようか? エーテル」
 ノウファムが渇望を秘めた眼差しで僕に問いかける。
「うん……うん」
 ぎゅっと目を瞑って頷けば、ノウファムが頬を撫でた。ざわざわと肌が粟だって、それだけで達してしまいそうになる。けれど、後孔に押し当てられてグッと挿入される感覚が一気に僕の息を詰めさせて、射精感を忘れさせた。

「……っ、うぅ、っ」 
 圧迫感が凄まじい。指とは比べ物にならない存在感がある。少しも動かせない。動かしたら怖い感じがする。
 そこにばかり集中する意識を和らげるように腰のあたりが撫でられて、手のひらが上にのぼってくる感覚がぞくぞくとした震えを齎した。
 
「呼吸を、エーテル」
「……っ、んぅ」
「ゆっくり」
 ゆっくり、ゆっくりと促されて、僕は少しずつ呼吸を浅く繰り返して、深めていった。上にのぼった手が脇から胸を撫でていて、呼吸に上下する上半身を労ってくれているみたい。

「ふ……、ふ、んアっ、アァッ」
 吸って、吐いて、また吸った。吸うタイミングに合わせてぬるりと中に進まれて、僕は思わず腰を逃がしかけた。
 目が熱い。頬も熱い。なんだかいつもとは違う。でも、こんな感じだったような気もする。どうだろう。記憶が混乱してしまう――ノウファムはどうだろう。以前と比べて、僕の中は心地悪くなっていたりするだろうか。僕は頭の片隅でそれを怖れて、涙目になった。
 
 歪んだ視界に映るノウファムは、衝動をやり過ごして耐えるみたいに眉根を寄せている。
「つらいか?」
「っ、う、ううん」
 ――つらそうなのは、あなたじゃないですか。

 僕は必死に呼吸しながら全身の力を抜こうと努めた。
 心臓の音が耳にどくどくと聞こえていて、靜かな部屋が脈動と呼吸で染まったみたいだった。
   
「もうすこし、もうすこし……」
 あやすように言いながら、中が開拓されていく。僕が開拓されている――、
 ああ、変なことを口走ってしまいそうだ。僕はぎゅっとノウファムにすがりついて、大人しくされるがままになった。
  
「ノウファム様、僕だいじょうぶ、僕、だいじょうぶ……っ」
「ああ」
 喉ぼとけが上下してから返される短い声が、獣の唸り声みたいだ。
 ぐ、ぐ、と中で大きさを増しながら奥に進む質量に圧倒されて、僕はゾクゾクと背筋を震わせた。
  
「あ……っ」 
 押し返すように震えて悲鳴をあげる内壁がなすすべもなくひらかれていく。いつもと違う感じがある。けれど、いつもこんな感じだったような気もする。おかしい。わからない。
 初めてではないのに初めてのような、そんな未知の感覚に、僕の情緒が乱される。
 
 ――気持ちいいのでは、ないか。 
 
 違和感と同時に歓喜が湧いて、脳がくらくらと叫んでいる。
 この感覚は、苦しい。気持ちいい。つらい。嬉しい。

「ん、あっ! あぁっ!」 
 陰嚢があたるほど根元まで深く埋め込まれると、目を大きく見開いて悲鳴みたいな声が反射で洩れる。
 こうして繋がる感覚を知っているだろうと最奥に訴えるように押し込まれると、鳥肌が立つような快感がびりびりと僕を襲った。
「ああっ! お、奥、奥……っ」
 久しぶりだ。
 こんな深いところで感じるのは、すごく。
 
「気持ちいいか?」
 真っ白に染まりかけた頭が、愛しい声を拾う。 
 ノウファムの問いかけが心をくすぐる。僕は懸命に頷いた。言葉が出ない。奥がぐいぐいとノックされて、僕の内部がノウファムの形に広げられて、悦んでいる。身体と心が歓んでいる。

「俺以外は知らない場所だな?」
 独占欲をあらわにした声は、獰猛な気配がした。
 僕はうなじをざわりとさせながら、必死で頷いた。
「――っ」 
「ここを満たせるのは、俺だけだな?」
「あ、ああっ! んああっ!」
 ぐりゅぐりゅと穿たれて、僕は悲鳴をあげた。声がまったく抑えられない。

「そ、そ、そう。そう――」
 僕の必死な声が、意思を伝えようとするけれど何を言っているか自分でもわからない。
「あなたしか、あなたしか、挿れさせてない……! ほんとに、ほんとに……っあ、ああっ――」
 
 潮が引くようにずるりと楔が引き抜かれていく感覚は一緒に何かを持っていかれそうで、快楽に溺れてしまいそうになる。
 股間が張り詰めて、今にも達してしまいそう。触れられていないのに、僕は今の身体でも後ろで快感に溺れられるんだ。

「そなたの好きな遊戯だな?」
「あっ、あ、あ、あ」
 ゆっくりと緩慢に抜き差しがされて、濡れた音が下半身から奏でられている。そうしていると、以前と同じみたいだ。
 ノウファムの腕の筋肉が動きに合わせてグッと張り詰めて、こめかみから汗が滴るのが見えた。
 僕の内部がひくひくと締め付けて、中の存在を生々しく強く感じてしまう。

「す、すき」
 蕩けてしまいそうだ。熱い。気持ちいい。
 こんな風に、普通の身体でもなれるんだ。

 突き上げの角度を変えて揺さぶられると、グッと中で何かが押し出されるようにして、溢れて迸ってしまいそうになる。ああ、出てしまいそう。
「好きか?」
「す、き……っ、好き……っ!」
 僕が悶絶しながら言えば、ノウファムは熱い吐息を吐いて腰を速めた。大胆な動きは強い快感を僕に与えて、僕の喉からは高い声がその都度引き出されていく。まるで快感を告げるだけになったようなあられもない声が恥ずかしい。だけど、止められない。
「あっ! んんっ! ああっ、あああっ」
 恍惚の波が高く揺らいで、性感は甘い稲妻のようにビリビリと全身を駆けのぼる。どうにかなってしまいそうなほど気持ちいい。
 
「ああ、挿ってる……っ、できて、る――感じて、るっ……、僕、……っ」
 それが嬉しい。
 ちゃんと繋がって、できてる。
 僕の脳が興奮して、快楽に染まっていく。
 
「――……っ、そなたは……っ、これだから……っ」
 ノウファムが息を詰まらせて、奥歯を噛むように唇を引き結んだ。欲情にぎらぎらとする眼差しが、ぞくりとするほど凄絶な色香を魅せている。
「あ、あ!」
 抽挿ががつがつと繰り返されると、強すぎる快感に僕はのどを逸らして悲鳴をあげた。ぐ、と上半身を寄せられると、中が敏感な奥を押されて悲鳴が止まらない。

「んんっ、あ、あ!」
 震える喉に荒い吐息が寄せられて、甘くねっとりと舐められる。
 肉食の獣に襲われているみたいで、僕はゾクゾクとした。腰骨から脇腹が忙しなく摩られて、腹がおかしなほど震えてしまう。甲高い声をあげて善がると、指先で乳輪がくりくりと愛でられた。
 快感で震えながら先端から愛液を滴らせる僕の雄茎がノウファムの腹に触れると、両足の指が丸まった。膝ががくがくする。おかしなくらい全身が敏感で、快楽がどんどんと込み上げてくる。ぐい、と中の楔を引かれると、泣き叫ぶみたいに動揺した声が出て、僕の頭が沸騰しそうになった。
 
「はぁっ、あ、あう……っ」
 口の端から唾液が溢れて、垂れてしまう。しまりなく開いて嬌声をこぼすだけになった唇に指が添えられて、顔を見せろと促されるように首が戻される。
 上気したノウファムの顔が、色っぽい。僕は自分がどんなにしまりのない顔をしているだろうかと思いながら視線を逸らした。
 
「とろとろだ。蕩けた顔をしている……可愛い」
「み、見ないで――」 
「可愛い。そなたの乱れた姿は、可愛い」
 
 ノウファムは淫らな僕の口元をすするように舌を這わせて、小刻みに腰を揺らした。

「あっ、あっあっ、あぁ――――っ」
 腰の奥がきゅううっと収縮する。上擦った声が、喜悦の声が止まらない。背中を反らして、悶えてしまう。
「独り占めしたい。俺はこの姿を永遠に独り占めしたい」
 きゅっと乳首がつままれて、捏ねるように刺激が送られる。

「だ、だめ、だめ、おかしくなる、あん、あ、だめ」
「だめか?」
「あ、あ、そうじゃない……そういう意味じゃ、ない、ぃ……」
「ははっ……」
 笑った。
 僕がはくはくと口を震わせる中、ノウファムはねっとりと僕の首筋を撫でてから手を腰に戻した。

 腰を掴む感触だけでも、体の芯がおかしくなりそうな反応を示してしまう。腰は淫らに蠢いてしまって、ねだるみたいだ。はしたない。僕、いやらしい。

「いきたい、もう、いく」
 ほろほろと泣きながら僕が言えば、腰の手が下にずらされて双丘を鷲掴みされる。ぐ、と揉んでから広げるようにして、中を穿つ剛直をぐちゅぐちゅと抜き差しされると、意識が快楽に白く弾けそうなくらい凄まじい刺激が僕を襲う。
 
「あ、あ、いや、それ、く、くる」
 耐えられない。
 こんなの、もうしのげない。
「おねがい、おねがいっ……」
 気持ちいいのが止まらない。 

 僕はぐしゃぐしゃに顔を歪めて首を振った。

「いいぞ、エーテル」
 息を荒くしたノウファムが獣みたいに動きを荒くして、僕の全身に強烈な快感の波を流し続ける。
「いっていい」
「んぁあああっ!」
 びしゃりと前から何かが迸る。我慢できずに放った解放感に震える腰が、ビクビクッと悲鳴をあげたのは穿たれる勢いが衰えないからだ。
   
「ああ、あ、あ! ノウファム、さま、……ッ、ノウファム、さま――!?」 

 猛々しい凶器みたいな熱い楔が僕をがつがつと犯している。愉悦が止まらない。過敏な弱い部分が、達して震えてまだ余韻すら手放していない身体が、ごりごりと奥を抉られて悲鳴をあげる。泣き喚くような声で僕は喘いだ。

「ふぁあ、あ、あっ、あ――――!」

 乱れ狂う僕の視界が涙で歪んでいる。熱い。全身が悲鳴をあげている。
 ひときわ強く穿たれて甲高い声で悶えたとき、奥にびくびくと何かが震えて弾ける感覚をおぼえた。
「あ!!」
 
「……――っ」
   
 見下ろすノウファムが子種を流し込む雄臭い狂暴な気配を全身から発しながら、ぐい、と腰を引っ付ける。隙間をなくすみたいに全身がぎゅっと抱きしめられて、僕の胸がいっぱいになった。
 僕の内奥が蠕動して、中を締め付けて、吐き出す精を搾り取って逃がすまいとするみたいだ。
 気持ちよさそうに興奮の吐息をついて腰を揺らし、奥に精を塗り込むような動作をするノウファムが愛しい。
 
「ああ、んんんっ……」 
 鋭敏な場所がぬらぬらと擦れて、おかしくなりそうだ。
 
 咥えこんだ彼は少しして、萎える気配なく欲を奥に訴える。
「エーテル……――エーテル……っ」
 ぎゅっと抱きしめられたまま、甘く名を呼ばれながら身体が揺らされると、喘ぎ声が高く甘く欲情を伝えてしまう。

「はぅ、あぁ、あ、ノウファム様、ノウファム様……っ」
 身体が火柱のよう。繋がっている部分が熔けてしまいそう。
 境界がわからなくなってしまったみたい。
「気持ちいい、僕、いい……っ」
「……俺も、悦い」
 
 静かな部屋を行為の音が支配している。
 濡れた音、肌がぶつかる音、ベッドがきしむ音尾、呼吸の音――、
 
 無防備な奥を繰り返し穿たれて、夜はなかなか終わる気配がない。何かの堰が切れたみたいに、止まらない。無限に快楽が湧いて、終わらない。
 やがて訪れた絶頂なより大きく強烈な愉悦の波に僕を誘って攫い、ふっと虚空に浮いて落ちるみたいに僕の中で快感が爆ぜた。

「ああ……止まらな、止まらない、よ……っ」
 先端の蜜口からびゅくびゅくと噴く白濁の液がしとどに互いの腹を濡らして、僕は必死にノウファムにしがみついた。情交の匂いが腰に響く。淫らだ。僕は、淫乱だ。僕は自覚しながら甘ったるい声で譫言のように繰り返した。
「終わらない、これ、終わらないよ……っ」 

 頭の芯が焼き切れそうだ。
 ずちゅ、ずちゅ、と突き上げを繰り返すノウファムも、淫欲に溺れるようだった。

 こんなことをしても、魔力は捧げられないのに。
 何度注がれても、子供は宿せないのに。

「ん、んあ、あっ、あふ、あ、あぁ――――っ」

 ただ、愛しい。
 ただ、気持ちいい。

 切なく甘い官能に、僕は溺れた。やがて快楽の限界に辿り着くと、息も絶え絶えになりながら僕たちは舌を絡ませて互いを貪るようなキスを繰り返した。謎の興奮が胸をいっぱいにしていて、楽しいような浮かれた気分が疲労感を押しのけていた。ハイだ。ハイテンションになっている。たぶん、どちらも。

 未知の背徳感と多幸感と高揚の中で、僕たちは長い官能の夜に溺れたのだった。
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