92 / 158
五章、眠れる火竜と獅子王の剣
91、殿下、オークション会場にいらっしゃいましたね
しおりを挟む
オークション会場から出た所で、ネコ族のワゥランとその従者たちが挨拶をしてきた。
「人間の王国のご一行様ですね。もしよければ、噂の王兄殿下にご挨拶申し上げたいのですが、面会の御申入れは可能でしょうか?」
ワゥランはネイフェンによく似ていて、僕はそれだけで無条件に好きになってしまいそうだった。
「殿下にお話ししてみます」
「ありがとうございます、できるだけ早めにお会いしたいとお伝えください」
声も似てるし、ちょっとおっとりした喋り方も人が好さそうだ。
ところで王兄殿下のどんな噂をきいているんだろう――そこはちょっと気になったのだけれど。
「おかえり。都市はどうだった? ……元気がないな、嫌な出来事でもあったか」
宿に帰ると、「外出なんてしていないが何か?」といった顔のノウファムとモイセスがいた。
「オークションで金がなくてさあ~!」
ロザニイルが僕を抱きしめて「辛かったよなー!」と嘆いている。辛かったよ! 僕は悔しさを溢れさせてふるふると頷いた。
「坊ちゃん、お土産を渡すのでは?」
ネイフェンが荷物を渡してくれるので、僕は気を取り直して胃薬と睡眠導入剤を贈った。
「なんと胃を心配してくださるとは!?」
モイセスは感動した様子で胃薬を受け取り、早速飲んでいる。ノウファムはというと、睡眠導入剤をしげしげと見つめて包み紙をひっぱったりしている。なんだそのリアクションは。
「贈り物は嬉しいが、お前を抱っこして寝るほうがいい」
「そ、そうですか」
僕はふぁーっと赤くなった。
……真面目な顔で言われると、照れるではないか!
「あと、お茶の葉っぱもサービスしてもらったんだった……あったかくて気持ちの落ち着くお茶と、元気が出るお茶だそうです」
お茶をセットで渡して、忘れないうちにワゥランからのお願いを伝えると、ノウファムはとてもあっさりと了承した。
「ありがとうエーテル。では、俺は今から会いにいってこよう」
「殿下!?」
モイセスが早速胃を押さえている。
「できるだけ早めに、なのだろう? 軽く挨拶して戻る」
「さ、さっき戻ったばかりですのに――、あっ……、と」
言いかけたモイセスがハッとした様子で自分の口を塞いでいる。
「殿下、オークション会場にいらっしゃいましたね」
僕が半眼で「知ってますよ」と言ってやると、モイセスは決まり悪そうな顔をした。
ノウファムはそんなモイセスと僕を順に見比べて、肩をすくめた。
「珍しい品物が見られるというからちょっと見学しただけだ」
翻す外套の端をつまむと、ノウファムは片眉をあげた。
「僕もワゥラン殿へのご挨拶にお供したいです、殿下?」
おねだりするように言えば、ノウファムは青い隻眼を瞬かせて少し考え込むような顔をした。
「敬語は譲るとして……お兄様、だ」
「オニイサマーア!」
「ロザニイルには求めてない」
「知ってる!」
ロザニイルは僕を引っ張り寄せて、「オレはこのあと対抗薬の調合を試すから、気を付けて行って来いよ!」と囁いた。
「うん。行ってくるね」
「あんまり遅かったら先に温泉楽しんじゃうからな~!」
「先に楽しんでも大丈夫だよ」
ノウファムを見れば、手を差し出してくれる。
「僕も一緒に参ります、お兄様!」
一緒に連れて行ってくれるのだ――僕はニコニコと笑って、大きな手に自分の手を重ねたのだった。
「人間の王国のご一行様ですね。もしよければ、噂の王兄殿下にご挨拶申し上げたいのですが、面会の御申入れは可能でしょうか?」
ワゥランはネイフェンによく似ていて、僕はそれだけで無条件に好きになってしまいそうだった。
「殿下にお話ししてみます」
「ありがとうございます、できるだけ早めにお会いしたいとお伝えください」
声も似てるし、ちょっとおっとりした喋り方も人が好さそうだ。
ところで王兄殿下のどんな噂をきいているんだろう――そこはちょっと気になったのだけれど。
「おかえり。都市はどうだった? ……元気がないな、嫌な出来事でもあったか」
宿に帰ると、「外出なんてしていないが何か?」といった顔のノウファムとモイセスがいた。
「オークションで金がなくてさあ~!」
ロザニイルが僕を抱きしめて「辛かったよなー!」と嘆いている。辛かったよ! 僕は悔しさを溢れさせてふるふると頷いた。
「坊ちゃん、お土産を渡すのでは?」
ネイフェンが荷物を渡してくれるので、僕は気を取り直して胃薬と睡眠導入剤を贈った。
「なんと胃を心配してくださるとは!?」
モイセスは感動した様子で胃薬を受け取り、早速飲んでいる。ノウファムはというと、睡眠導入剤をしげしげと見つめて包み紙をひっぱったりしている。なんだそのリアクションは。
「贈り物は嬉しいが、お前を抱っこして寝るほうがいい」
「そ、そうですか」
僕はふぁーっと赤くなった。
……真面目な顔で言われると、照れるではないか!
「あと、お茶の葉っぱもサービスしてもらったんだった……あったかくて気持ちの落ち着くお茶と、元気が出るお茶だそうです」
お茶をセットで渡して、忘れないうちにワゥランからのお願いを伝えると、ノウファムはとてもあっさりと了承した。
「ありがとうエーテル。では、俺は今から会いにいってこよう」
「殿下!?」
モイセスが早速胃を押さえている。
「できるだけ早めに、なのだろう? 軽く挨拶して戻る」
「さ、さっき戻ったばかりですのに――、あっ……、と」
言いかけたモイセスがハッとした様子で自分の口を塞いでいる。
「殿下、オークション会場にいらっしゃいましたね」
僕が半眼で「知ってますよ」と言ってやると、モイセスは決まり悪そうな顔をした。
ノウファムはそんなモイセスと僕を順に見比べて、肩をすくめた。
「珍しい品物が見られるというからちょっと見学しただけだ」
翻す外套の端をつまむと、ノウファムは片眉をあげた。
「僕もワゥラン殿へのご挨拶にお供したいです、殿下?」
おねだりするように言えば、ノウファムは青い隻眼を瞬かせて少し考え込むような顔をした。
「敬語は譲るとして……お兄様、だ」
「オニイサマーア!」
「ロザニイルには求めてない」
「知ってる!」
ロザニイルは僕を引っ張り寄せて、「オレはこのあと対抗薬の調合を試すから、気を付けて行って来いよ!」と囁いた。
「うん。行ってくるね」
「あんまり遅かったら先に温泉楽しんじゃうからな~!」
「先に楽しんでも大丈夫だよ」
ノウファムを見れば、手を差し出してくれる。
「僕も一緒に参ります、お兄様!」
一緒に連れて行ってくれるのだ――僕はニコニコと笑って、大きな手に自分の手を重ねたのだった。
0
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる