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三章、悪役の流儀

52、あれは、暗殺の符牒だ(軽☆)

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「パーティを続けよ。少し脅かしてしまったが、私は楽しいパーティを所望するのだ。楽しんでおくれ」
 
 魔術の炎が消えた後、カジャは享楽的な気配を纏い、パーティの継続を命じた。
 
 暴君の機嫌を損ねないよう、歪なパーティが再開される。
 船上の者は皆、心の中に溶けぬ氷を抱え込んで身を震わせながら、暴君の所望する「楽しいパーティ」を演出する役者になったように無理をして笑っていた。

「魔術を使ったら疲れたなぁ。エーテル」
 にやにやと笑い、カジャが僕を抱きかかえて席を立つ。
「私は休もう。誰かさんを真似して、可愛い聖杯を抱っこして、いい子いい子して」 
 周囲でカジャの機嫌を気にしていた者たちが、ビクッと怯えて身を竦ませてから僕を見た。
 売られていく子牛を見るような眼だ。僕はどんな顔を返せばよいのかわからずに、微妙な表情で俯いた。

「ノウファム、《邪魔をするなよ》」
 カジャは強い口調で臣従の指輪による命令を唱え、息を紡いで同じ文言を繰り返した。
「……《邪魔をするなよ》」

「……?」

 二度言った。
 何故だろう、と思っていると、僕の耳にはネイフェンがアップルトンと話す声が拾われた。
 きっと防諜魔術を使っている――僕はそう思った。

さくは半月の後に見られるものですな」

 なんだか、そんな言葉を聞いたことがある気がする……。
 僕の頭がずきずきとした。嫌な予感がする……。

「効きが悪いんだ」
「?」
 カジャがぽつりと呟いて、一瞬「なんのことだろう」と首を傾げてから、僕はハッとした。
「臣従の指輪……」
 赤い唇が肯定を告げる。
  
 他の客室より格段に豪華に装飾が凝られた扉が従者の手で開かれて、広い部屋の寝台に寝かされる。

 カジャの部屋だ。 
 物があまりなくて、寒々とした感じなのがカジャらしい、と僕は思った。
 思っているうちに、カジャが顔の両横に手をついて上にまたがってくる。

 ほっそりとした指が、僕に見覚えのある薬をつきつける。
「《お飲み》」
 ――魔女家の秘薬だ。
 僕の身体を作り変える薬だ。

 命令されるまま飲み下すと、腹の中から少しずつ熱が溶けていくようだった。
 たまにノウファムから感じていた良い匂いがふつふつと思い出されて、腰がじんじんとしてくる。
 体が火照って、落ち着かない気分になる。

「体調の変化が感じられる――効きが早いね? 王族が近くにいるからかな?」
「……!」
「ロザニイルもそうだった」 
  
 遠いいつかの思い出を語るように言って、カジャは僕の服を乱した。

「あ……っ」 
 上をはだけさせられて、胸元に唇を寄せられると僕の鼓動が高鳴る。
 昨日苛まれ続けた場所は、赤く腫れて敏感になっていた。

「少し腫れて、女のようだね。突起がぴんとなっていて、欲しがっているようだ」
 カジャの声に、堪らない気分になる。
 僕はぐっと唇を引き結んで、両腕で顔を隠した。
「恥ずかしいのかいエーテル。お兄様にはここを可愛がってもらえなかったの?」
「……っ」
「お兄様は、お前を抱かなかったのだろう?」
 
 確信をこめて断言され、右の乳首を飴を転がすように舐められて、指先で左の乳輪をくるくると円を描くように煽られる。
 淫らな欲を高める愛撫が、蜜毒のような快楽の波を生む。
「ぁ……ぁ、ぅ……っ」 
 身体が否応なしにうずいて身を捩り、足先でシーツを乱してしまう。

「いい子だね、高まってきたね、エーテル? おっぱい気持ちいいね?」
「そ……、ち、違うっ」
「恥ずかしいのかな? 気持ちいいのが恥ずかしいのかな? エーテル?」
 カジャは面白がるように左の乳輪をこすこすと擦り、甘く痺れるような、切なくもどかしい刺激を送り続けた。

 自分の内部が波を立てている。甘くて怖い蜜毒みたいな官能が、どんどん高められていく。
 荒い息を繰り返しながら、僕は必死で自分の口を手で押さえた。

「ん、ふ、ぅ、ンぅ、……っ」 
 意識が胸に集中してしまう。
 そこに与えられる刺激ばかりを追ってしまう。
 拾ってしまう。
 感じてしまう。
 欲しがってしまう――、
 
 僕はいつの間にか、カジャにアピールするみたいに背を反らして、胸を浮かせていた。
 
「ふ、ふーっ、ふぅ……っ」
 
 自分の呼吸が獣のよう。
 はしたない。恥ずかしい。けれど、抑えられない。 
 
「胸をそんなに健気に浮かせて、私におねだりしているみたいだね。ここを可愛がってほしいんだね?」
 
 カジャは糖分過多な甘ったるい砂糖菓子みたいな声で言って、白い指先で左の乳首をぴんと弾いた。
「あッ、んぁア!」
 焦らされて待ちわびた刺激は、鋭い快感の矛となって僕の全身を大きく痙攣させた。
 抑えられない悲鳴のような嬌声に、カジャは上機嫌になった。
 
「可愛い声で鳴いてくれたね。私のエーテル。気持ちよかったんだね」
 くるりと体が返されて下衣が脱がされると、快感に震える身体に恐怖が湧いた。
「私たちは……一緒に何度も頑張ってきた仲だったんだ。ずっと一緒にやってきた……」
「い、……いやだ」

 うつ伏せに這いつくばるような情けない恰好をさせられて、尻を上げさせられる――僕は涙目になって情けなく懇願した。
「なにがイヤ? 以前のことを聞くのが?」
 勃ちあがり、反り返って先走りに濡れそぼっていた僕の雄蕊がカジャの手のひらに握られる。
「あ、触っちゃ、あぅ、あ、あ!」
「出したいって泣いているよ、エーテルの可愛い雄が。気持ちよくなりたいようって、震えておねだりしているよ」
 ちゅこちゅこと軽い水音を立てて竿が扱かれて、同時に後ろの窄まりを舌でぺろりと舐め上げられると、腰がガクガクと震えてあられもない声で啼いてしまう。

「あ、や、後ろ、舐めちゃ」
「あ、ふ。美味しい……っ。奥からどんどん溢れてくる……発情してるんだね、エーテル。愛らしいね」
 
 恍惚とした声が熱い吐息と振動を伝えて、ちゅぷっと後孔をしゃぶられる。
 溢れる液体をちゅぱちゅぱ、じゅるじゅると啜る音が立てられる。
 前への刺激も休む暇なく与えられて、腰の震えが止まらなくなってしまう。

「カ、カジャ! あ、あ……っ、あ……っ♡」

 声が甘く悦んでしまう。
 そんなの、ダメだ。
 
「腰をこんなに揺らして、お前は本当に欲しがりだね。お前、以前は性欲なんてなさそうな男だったのに……」 
 僕は嫌だ。嫌なはずなんだ――なのに、腰が揺れて、おかしくなってしまう。
 
「カ、カジャ、……っ」
 下半身に濡れた熱が溜まって、渦巻いて、洩らしてしまいそうな感覚がある。それが、強くなっていく――、
 
「エーテル、お前が言ったのだよ? 聖杯に人権などない。ただの魔力増強装置だと思えと」
 暴君の声が、ふと被害者みたいに僕の胸を突いた。
 胸の中で情緒がざわりと騒いで、目が熱くなる。
 
「エーテル、エーテル。お前がロザニイルと私たちにこれを強要したのだよ? なのに、忘れてしまったのだね」
 淫猥な水音が、カジャの声を彩っている。
 下半身がとろとろになって、発情している。
 発情して善がる身体を「もっと高まれ」と煽られている――、
「ほら、後ろの孔がひくひくして……また溢れてきたよ。私に舐められて、嬉しい嬉しいって泣いているようだ」
 カジャが慈しむようにそこを愛でて、僕をおかしくさせる。

 これは、こんなのは、いけないことだ。
 そんな思いが、ぶわりと湧いた。
 一緒に込み上げてきたのは、罪悪感だった。
 
 ああ、きっと僕は、これをしていた。そんな気がするんだ。
 僕は、これを彼らに押し付けていた。ロザニイルは、こんな気分だったんだ。
 
 記憶を失う前の僕は――酷い奴だったんだ。きっと、そうだったんだ。
 
「ぼ、僕が、僕が……っ」

 ぽろぽろと涙が零れる。
 もう、おかしくなっちゃう。舐められて、扱かれて、僕は。

「おかしくなるっ……、僕、あ、あ、おかしくなっちゃうぅ……ッ!」

 顔をぐしゃぐしゃに歪めて叫べば、カジャはいい子いい子とお尻を撫でて、前をいっそう激しく追い詰めた。

「許してあげる。許すよ、エーテル。他の誰が許さなくても、私は許すよ」
 優しい声だ。
 すごく、すごく。

「愛しているよ。……私の聖杯エーテル
「あ……あ、あ、アぁぁッ!!」 
 
 カジャが甘く鼓膜をふるえさせ、僕はびゅくびゅくとその手に吐精を導かれて白濁の蜜を迸らせた。
 勢いよく吐き出す精は快感を強くともなって、僕の意識を快楽に染めて真っ白にした。

 
さくは半月の後に見られる……】 

 
 真っ白な忘我の一瞬、ネイフェンの声が蘇る。


 僕の中の何かが、……きっと、忘れていた記憶が、囁いた。

【あれは、暗殺の符牒だ……】
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