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三章、悪役の流儀

42、僕は魔女家の公子だぞ(軽☆)

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 獅子の王は宝物を見せびらかすみたいに僕を抱えて、大きな窓から海を眺められる位置のソファに腰を下ろした。
 海景色は穏やかで、けれど僕の内心は動揺しまくっている。

 僕はなんとなく、何故か――カジャが僕を自国の王族以外に触れさせないと思っていたのだ。
 
「さあさあエーテル殿、カジャ陛下の代わりに私が撫でて差し上げましょうね」
 はすはすと燥ぐような吐息が頬をくすぐる。なぜか黒いアイマスクなどを指から下げて、僕に目隠ししようとしている。なぜ。変態? 変態的なプレイをされるのか?
「け、結構です」
 僕は狼狽えながら首を振った。これは拒否しないと大変なことをされてしまうのではないだろうかっ?
 そんな危機を知らせる信号みたいなものが、脳内にびんびん鳴っていた。
「陛下はああ仰いましたが、僕は……、ぁ……」

 アイマスクがされて、視界が闇に閉ざされる。

「お腹はすいていませんかな」
 ご機嫌を取り結ぶような声が耳元でして、さわさわとお腹がさすられる。
 よく知らない人に目隠しで撫でられるのは、今までになく嫌な感覚だ――僕は嫌悪感に身を震わせた。

 嫌だと言ってもいいんじゃないだろうか?
 この人、他国の王様だけど。カジャは滅ぼすって言ってた――そんな考えがぐるぐると頭を巡る。
 
「私が食べさせてあげましょう。お口をあけて……」
「んぅっ」
 下唇を指先で揉むようにされて何かが押し付けられる。触感的に果物のようだ。 
「美味しい赤葡萄ですよ」
「ふ……」
 くいくいと唇の隙間に割り込むような指先が内側の湿った粘膜に触れると、ざわっと首筋に悪寒が湧いた。 
   
 
 ――無礼な。

 
 僕の頭がカッとなった。
 ふつふつと胸のうちに怒りのようなものが湧きあがる。
 
「嫌です。僕に触れないでください」
 気付けば、自分でも驚くくらいに冷えた声が口から飛び出していた。
 

「なっ……」

 周囲がざわりとする。
 何をそんなに意外そうにしているんだ。

 僕はムカムカとした。
 カジャが僕を反抗しない従順な性奴隷みたいに見せつけるから、誤解されるんだ。

 僕は眉をあげ、アイマスクを剥ぎ取った。
 国同士の関係――外交なんて、知るもんか。

「僕は魔女家の公子だぞ。性奴ではない。例えカジャ陛下が触れて良いと仰っても、僕が駄目と言えば駄目なのだ」


 殺意すら籠めて周囲を睨んでやれば、不満げな声が返ってくる。

「魔女家だか何だか知らんが、一介の貴族であろうに。賓客に対してその態度はなんだ……!」

 憤然とした唸り声をあげる獅子の王を見て、僕は思った。

「野蛮な獣め」
 ――思うだけではなく、口に出ていた。

「あっはははは!!」
 緊迫した空気にそぐわない盛大な笑い声がして視線をやれば、カジャがいつの間にかノウファムを伴い、見物を楽しむみたいにほど近いソファに身を沈めてゆったりと手を叩き、喜んでいた。
 
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