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一章、狂王子と魔女家の公子(オープニング)

11、聖夜祭、勝者と敗者

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 そして、聖夜祭の日がやってきた。
 
 大きなパーティ会場の天井付近は星型に光るオーナメントがぷらぷら揺れて、誰かの使い魔フクロウや不思議な小鳩こばとがパタパタと飛び回っている。
 会場の真ん中に設置された緑の特大ツリーは赤いリボン飾りや金色の果実飾りや釣鐘つりがね飾りできらきらしていた。

「国内外の変事へんじが多い年であったが、皆とこうして一年の締めくくりを祝えてなによりだ。挨拶はほどほどにして、楽しく騒ごうではないか!」
 お父様がそう言って指揮者みたいに杖を振ると、天井付近にキラキラと光が咲いて文字や模様をかたどった。

「わぁっ……」
 周りにいた魔術師たちがこぞってお父様にならい、光のアートを披露する。
 会場中がキラキラして、とても綺麗で――まぶしい!

 テーブルにはご馳走が並んでいる。
 
 香ばしい焼き色のローストチキンレッグ、具材が細かくて濃厚な味わいのクラムチャウダー、ふかふかのパンの内側にエビを挟んだガーリックシュリンプ・バーガー。
 じっくりと焼き上げられたローストビーフに、石窯で焼いたトマトとコーンたっぷりのピッツァ。
 玉ねぎや人参、かぼちゃのハーブ炒めを、ナッツ、パン粉、ドライフルーツなどと混ぜてオーブンで焼いたナッツロースト。
 まるまるとして艶めくローストポテト。

 ドライフルーツとアーモンドパウダー、スパイス、砂糖とバターなどを詰めて焼いたミンスミートに、アップルパイ。
 白地に赤のストライプ模様がついたキャンディケーンに、蛍光色の素地にサワーパウダーをまぶしたサワーグミ。
 薪の形をしたブッシュドノエルに、白くてまるいクリームケーキ。
 ジンジャークッキーの板を組み合わせてクリームなどで飾ったお菓子のお家も、忘れずに。
 
 大人たちはエッグノックやグリューワイン、カクテルを楽しんでいて、僕たち子供組はカラフルなノンアルコールドリンクに、ビタミンカラーのグラス入りソルベに夢中。
 
「お父様がオルゴール箱をくれたよ」
 ネイフェンにプレゼントを見せていると、ノウファムとロザニイルがやってきた。
 揃いのマフラーなんてしている――僕はびっくりした。

「ほら、お前もお揃い」
 ノウファムが機嫌よく笑って、同じがらのマフラーをふわりと首に巻いてくれた。
 あったかい。ふわふわだ。

「モイセスが編んでくれたんだぜ」
「えっ。あの黒騎士の人?」
「ああ。あいつはああ見えて編み物が趣味なんだ」

 モイセスがちまちまと編み物している姿を想像して、僕は頬をゆるゆるとさせた。

「ロザニイルが魔術比べに出るから、あっちで兄さんと一緒に応援しようぜ」
 手を引かれて外に出ると、雪がふわふわ降っていた。

 真っ白な息を吐く大きな飛竜も夜空に見える。
 すいすい、ばさばさと気持ちよさそうに飛んでいる。

 魔術比べは、予想通りロザニイルが優勝した。
 僕はノウファムの膝の上に抱っこされて観戦席で拍手しながら「僕はロザニイルを応援できるんだな」と思った。
 
「エーテルはロザニイルが嫌いなのか?」
 間近でノウファムがドキリとするようなことを言う。
「ううん。嫌いじゃないよ」
「そっか」

 夜空に花火がひゅっと上がって、パアッと花開く。
 赤や紫、黄色、ピンク――色鮮やかな光の花は、弾けた後はサアッと花弁を散らして、すっと闇夜に堕ちていく。

 その中をくぐるように飛竜が舞っているのが、とても楽しそうだった。
 飛竜って、すごく気持ちよさそうに空を飛ぶんだ。僕は好き。
 
「ヘイ! 勝ったぜ」
 ロザニイルが上機嫌で観客席にやってきて、ノウファムとハイタッチを交わしている。

「おめでとう。すごいね」
 嫌な感じにならないようにと頑張って言葉をかければ、ロザニイルは嬉しそうに笑みを咲かせた。

 輝くような笑顔はとても魅力的で、僕は「負けた」と思った。

「エーテル坊ちゃん、飛竜に乗りませんか」
 ネイフェンがそっと誘いかけてくれて、二人のもとから離してくれる。

「ありがとう、ネイフェン」
 ネイフェンは飛竜の騎乗術を心得ている騎士なのだ。

 僕たちを乗せてくれる飛竜は「シンディ」という名前のメスで、おっとりした性格。
 ゆったり、優雅に夜空を飛んで、地上が遠くなると風になったみたいに気分が爽快だ。


 ばさり、ふぁさり。
 飛竜の大きな翼が上下して、風を生む。
 景色が後ろに流れて――視界の端で、ふと光が咲いた。

 
 ――花火かな?


 僕がそう思った瞬間、飛竜が悲鳴をあげて、僕の全身はするっと夜空に放り出されていた。
 何かが爆発するような大きすぎる音が、びりびりと鼓膜を騒がせたのは、その直後の出来事だった。
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