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11、三国同盟と魔王の時代

185、だって俺たち、『友人』で『家族』ですからね

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 木々が緑の葉天蓋を夏の日差しに艶めかせている。
 国際交流会の中央広場では、ララカの言うところの『ニコニコギスギス』が展開されていた。

「かの白竜にお命を狙われたシリル殿下におかれましては、我々アイザールが危機をお助けする縁を得て本日まで『よき友人として』お守り申し上げており、なんと我らがディアナ皇女殿下と『特別な愛情』を育まれるに至ったのです。もはや我々は『家族』といえるでしょう」
 南側に座るアイザールの顔役外務長官ネクシは、自国のルカ皇子を隣に座らせて、皇子の友人『ファーリズのシリル王子』について語れば、ファーリズの外務卿ビディヤが顔色を変えていく。
「制御不能状態であった暴走白竜は無事封印できたとのことでお喜び申し上げますが」
 実はファーリズにはそれ以外にもアルマ皇女の拉致や『鮮血』がシリル殿下を無理やり帰国させようと襲撃したりと問題行動が多数確認されており、と『遺憾の意』が続くのだ。
「そもそも、ずっと自国を守ってくれていた白竜がいなくなってさぞお困りでしょう。我らは『よき友人』なので、シリル殿下とも話し合った末に、アイザールは隣人をお助けしようと思ったのです」
 ルカ皇子が優しい容貌を微笑ませ、内政を手伝う官吏と国防のための兵士を派遣して助けますねと申し出る。
「ファーリズの次期国王、第一王子であり王太子のシリル殿下は、アイザールの家族なのです。我らはこれよりひとつの国となりましょう――『アイザール=ファーリズ』と」

「クレストフォレスはそれを容認できかねます」
 東側に座るクレストフォレスの古妖精盟主レイスト・リアが怜悧な眼差しを寵臣に注ぐと、外交官のディドが「勇者をください」という要求の札をひっこめて口を挟むので、エリックは「俺もそれはちょっと困るかなあ」と声を連ねるようにして広場にふぁさりと降り立った。

「ファーリズの……」
 広場の至るところから声が零れて、小さな声が集まってざわめきとなる。
 
 ――あれが噂の。

(噂の、なんだろう)
 エリックは少しワクワクして耳を済ませ、人々を見渡した。

 ――思っていた以上の阿呆だと。
 ――魔王……。
 ――チートというらしい。
 
 そんな言葉が聞き取れて、エリックはにっこりと王子様スマイルを浮かべた。
「どうも。ファーリズの『思っていた以上に阿呆なチート魔王兼王子』です」
 溌剌と言ってやれば、どよめきが大きくなるのが楽しかった。
 
 西側、ファーリズの重臣が集まる席でエリックの騎士が今にも卒倒しそうな笑顔を固めている。聖女ユージェニーが呪術で生成した鳥をあやしながら好意100%の笑顔でエリックを見つめている。

「我が国の聖女が、そんな『友人』アイザールに神の御業をお見せしたいと」
 エリックはユージェニーに悠然と手を差し伸べ、自分の隣へと招いた。
 長く、癖のない茶髪がしゃらりと流れて、清純な白衣装に身を包んだユージェニーが嫋やかに手を虚空に滑らせ、呪術の鳥を広場中に羽搏かせる。淡く明滅する神秘的な光の羽を散らして飛ぶ鳥たちは、羽を散らすごとに声を響かせた。

 『私は国を自ら捨てたのだ。今更戻る資格もあるまい』

 『まさか新婚の邪魔はしないだろう?』

 ――それは、シリル王子の声だった。

 『聞いてください、私はアルマとして生きるのを辞めたのです』

 ――それは、アルマ皇女の声だった。

 エリックは悲し気にネクシを見つめて、これ見よがしに溜息をついた。
「ああ、我が友アイザールのネクシ・エイホ殿。政争と無縁な平穏を望む兄や皇女を政治に利用するのは、『遺憾』と申し上げずにいられません」
 ネクシがそっと眉を顰めた。
「これが噂の『チート』ですか」
「いや、これは聖女の呪術であって、『チート』ではない。我が国の呪術技術はとても発展しているので」
 エリックはけろりとのたまった。
「我が国は、白竜こそ封印状態ですが『いつでも封印を解ける』し、黒竜も健在です。それに、『妖精王』デミルとも協力関係を構築できたので、特にアイザールに助けて頂く必要はないかな」
 青い瞳は一点の曇りもなく、透徹として――まるで彼をかつて守護していたティーリーのように神性を感じさせる美しさだった。
 少し釣り目がちで、ともすればきつそうな印象を与える眼差しは、『阿呆』の気配を滲ませて親しみやすさのある笑顔で柔らかに包まれる。にっこりと。
「そういえば、アイザールは妖精との協力関係もなく、呪術技術も未発達でなにかと大変そうですね。ファーリズがアイザールを支援してあげてもよいですよ。だって俺たち、『友人』で『家族』ですからね! 明日から名乗りましょう、『ファーリズ=アイザール』と! ――ルカ皇子は、俺を『兄弟』と呼んでくださってもいい!」
「何を――」
 ざわめきが落ち着く様子のない広場に、ずかずかと新たな数人がやってくる。
 
「おおっ、盛り上がってんな!」
「ワーオ」
 現れた集団の先頭ではしゃいだような声を快活に響かせる二者に、自国のはずのネクシとルカ皇子がぎょっとした顔を見せた。

「グリエルモ、それにミハイ殿下。なぜ」
 彼らはアイザールで留守番のはず――ネクシが腰を浮かせると、彼の友人として知られる『成り上がり』グリエルモは人懐こさを感じさせる友好的な笑顔で、ミハイと声を揃えた。
「きちゃった!」
「きちゃったー!」

 グリエルモはきゃらきゃらと燥ぐミハイ皇子の背をぽんと叩いて、にっこりと嗾けた。
「それミハイ、あそこにエインヘリアの『騎士王』がいるぞ! 遊んでいただけ!」
「ワー!」
 天真爛漫な歓声をあげて、やんちゃなミハイ皇子が北側に駆けていく。

 全身騎士鎧のエインヘリア勢が制止しようと動くが、皇子はちょこまかと鬼ごっこでも楽しむかのように騎士たちを翻弄して「ボクはプリンスだぞ! ボクに触ったら外交問題にしてやるぞ!」と冗談のような本気のような笑い声をたてて走り抜けて、強引に『騎士王』の隣の席を獲得したのだった。
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