妖怪のお客さん

埴谷台 透

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07話 もふもふしてもいいですか?

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 目覚まし時計がうるさい。
 「がいん!」
 思わず時計を叩いてしまった。
 「いったー!」
 痛い痛い痛い痛い。
 しかし私は決めたことがある。痛くても。
 フリーの物書きとはいえど、徹夜をしないで仕事は昼だけにするって。
 まともな人間の生活をおくらなければならない。
 毎日コンビニ弁当を食べるにしても。
 「と、とりあえず洗面所に」
 歯磨き、洗顔、頭をブラッシング。化粧はしない。
 誰に会うことも無いのだ。しかし悲しいけれどこれくらいはする。コンビニに行くから。
 「お腹が空いてないから朝食抜くか」
 「おい、お前。また一日中こもりっきりか。せめてウオーキングとやらでもしたらどうだ。そのままでは体型が変わるぞ。ただでさえスタイル悪いのに」
 いつの間にか足元に猫又がいた。大きなお世話だ。
 「あんたも朝早いのね」
 「これだから馬鹿は。もののけに朝も夜もあるか」
 いや、普通夜に出るのでは?
 危うく口に出してしまうところであった。殴られたらたまらない。いや、肉球がもちもちしてそれもいいかもしれない。
 「またロクでもない事を考えていないだろうな」
 「……猫又。もふもふしてもいい?」
 「たわけ。それよりお客様が来ているぞ。失礼のないようにしろよな」
 お客様……嫌な気がする。猫又が前に言ったとき、酒呑童子が現れたではないか。
 「もしかしてあっちの部屋?」
 「他に部屋があるのか。この馬鹿め」
 これも聞いた様な気がする。
 でも、とりあえず見てみるしかない。
 扉をそおっと開けてみる。
 真っ白な毛がはえた何かがいる。危険だろうか。
 「あら、家主さん。勝手に入ってごめんなさいね」
 何か今までとは違う。優しそうな狐だ。よく見てみると尻尾が沢山ある。触ったら気持ちよさそうな。
 「もしかして九尾の狐さんですか」
 その狐はテレビを見ていたようだ。テレビも見るのか。
 「はい。玉藻前たまものまえと申します。何やら面白げな物があって、いじっていたらその不思議な板に人が映ってしまいました。勝手な事をしてしまい申し訳ありません」
 た、玉藻前?! 名前つき!
 「あ、あの、殺生石になられた玉藻前さんですか」
 「はい。あ、玉藻と呼んでくださいな」
 やたら腰が低い。しかしかなりやばい。私はさらわれるのか。3年縛りの違約金は誰が払う事になるのだろう。
 「玉藻さん、なんだか世間ずれしているようですが、過去から来たのですか」
 「いえいえ。最近殺生石が壊れたのを知っていますか。おかげで少しもとの身体に戻れたのです」
 ニュースでやってた。
 「この板を見られるのですか? お邪魔でしょうか」
 いや、そんなに悲しげな顔をされても。そうとうテレビが気にいったのかな。
 「あ、その番組」
 「もしかしてこれを見たいのですか? なら一緒に見ませんか」
 うう、そう言われましても。
 「こちらへ来て私に寄りかかってはどうです? 私は構いませんよ」
 え、ええ? もしかしてそんな大きいもふもふに寄りかかってもいいと?
 「で、ではお言葉に甘えまして」
 おおお、全身を包むもふもふ感! 猫又などただの毛玉ではないか。
 「もう少し霊気を貰ったら帰りますね」
 「え、あのしばらくいてもらってもいいですよ」
 もふもふ。
 「昔、源翁心昭げんのうしんしょうに壊された分の殺生石を集めなければならないので。素敵な申し出ですが、申し訳ありません」
 おお、始めて妖怪に感謝された。しかも私を叩いたり馬鹿という気配もない。いい妖怪だ。伝承とかなり違うけど。呪われるかと思ってごめんなさい。
 「それでは失礼しますね」
 あ、あああああ。大きなもふもふが帰っちゃう。
 「もっとテレビを見ていってください。お願いします」
 「この板はてれびと言うのですか。ひとつ欲しい気もしますけど、ごめんなさいね」
 そ、そんな。もう少しもふもふを。
 「ぽん」
 消えてしまった。行ってしまわれた。
 「何残念そうな顔をしている」
 いつの間にか猫又が足元にいる。
 何を言う。人を駄目にするもふもふがいなくなってしまったのだぞ。
 「しょうがない。猫又で我慢するか。尻尾が2本しかないけど」
 抱き上げると顔面を思いっきりひっかかれた。
 爪があるのを忘れてた。
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