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一章

「何もしない」の定義※

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「我慢しようとしているのに、煽ってくるなんて…なんて悪い子だ」

 そう告げる奥野は、未だにポカンとしている花耶に、鋭く雄の欲を滲ませた視線を向けた。即座に動く事が出来なかった花耶は、あっという間に奥野に唇を奪われて、そのままソファに押しつけられてしまった。奥野は身体を強張らせた花耶に気付き、少し抑え込む力を緩めすと、口内を丹念に解す様に犯した。

「っ…、や…っあ…」

 昨日の件もあり、逃れられないとはわかっていても、はいそうですかと言いなりになれるはずもなかった。花耶は何とか逃れようと奥野の身体を押し返そうとするが、逆に身体を押し付けられてしまい、腕ごと抱きしめられてしまった。
 昨日の交わりでまだ体があちこち痛む花耶は必死だった。まだ痛みがあるのにあんな事をされたら、今度こそ本当に動けなくなってしまう。こんな事で仕事に行けなくなるなんて恥ずかしすぎて御免だし、そもそも今日泊まると決めたのは、奥野が、花耶が嫌がるような事はしないと言ったからではないか。

「か、ちょ…や、約束!」

 何とか隙をついて奥野に約束を思い出させようとした花耶がそう叫ぶと、奥野は動きを止めたが、戒めを解いてはくれなかった。

「な、何も、しないって約束した、じゃないですかっ」

 身体は拘束されたままだったが、口が自由になった事で、花耶は必死に息を吸い込みながら言い切った。まだ息が苦しくて必死に呼吸を繰り返した。息苦しさに肩で息をする花耶に対して、奥野はまだまだ余裕で花耶を目を細めて見下ろしていた。

「確かに約束はしたが…誘われたのに応えないのでは、男が廃ると言うものだろう?」

 そう言って奥野は、意味深な笑みを浮かべてから花耶の耳に唇を寄せて、なぁ花耶?と色をたっぷり含んだ声色で囁いた。

「さ、誘ってなんか…」
「いくら知らなかったとはいえ、あんな風に肌を見せるなんていけない子だ」
「あ、あれは…上手く説明出来なかったからで…」
「ふぅん?じゃあ花耶は、他の奴でも説明出来なかったら同じことをするのか?」
「なっ…」
「どうなんだ、花耶?」

 言葉は柔らかく聞こえるのだが、どこか脅迫めいて聞こえるのは何故だろう。ぞくぞくと背中を這いあがる慣れない何かに、花耶は身を震わせながら必死に耐えた。

「だ、誰にでもしません」
「そうなのか?」
「そ、そうです。あ、あれは、課長だったから…」
「俺だから?何?」
「な、何って…」
「何で俺ならいいと思った?」
「そ、それは…」

 それは既に肌を見られているからで、決して深い意味はないんです、医者に診せる時だって一々気にしませんよね、と言いたかったが、何だかそれを言ってはいけないような気がした。理由はわからないが、求めているのは別の答えの様な気がしてならないし、間違えたら面倒な事になりそうな予感がした。ただ、なんて答えるのが正解なのかが分からず、花耶はその次が答えられなかった。
 
「それは、俺だったから?」

 そう問われた花耶は、その通りだったので頷いた。特別なのもあながち間違ってはいない。他に裸を見られた相手はいないし、そもそも後をつけたのは奥野だ。下手に言葉で返すと失敗しそうな気がしたのもあり、言葉では返さなかった。

「ああ、可愛いな、花耶は、本当に…」

 微かに掠れた声でそう言った奥野は、また花耶の唇を自身のそれで塞いで、その柔らかさを堪能し始めた。この動きに驚いたのは花耶だった。誘っていないと言ったのに、どうして奥野のタガが外れかかっているのかがわからなかった。何がまずかったのかもわからないが、この状態が非常にマズイ事だけはわかった。訳が分からないが、とにかく月曜日に出勤できるだけの体は死守したい花耶も必死だった。

「ちょ…待っ、て…っ、ん…」

 激しい訳ではないのに抗いがたい力で口内を嬲られて、花耶は必死で呼吸しながら奥野を止めようとした。奥野の厚みのある舌が花耶のそれに執拗に絡みつく。それだけでゾクゾクした者が背中を這いあがり花耶の身体を否応なしに高めた。まずい、このまま流されるわけにはいかないと思うのに、昨日散々快楽を教え込まれた身体が反応し始めた。
 そんな花耶の変化を奥野が見逃す筈もなかった。つつ…と背中に指を這わせると、花耶の身体がびくびくと反応した。急な思いがけない場所への悪戯に、花耶は抗えなかった。口内を散々堪能した奥野が開放する頃には、花耶の抵抗する気力も体力もかなり消耗されていた。

「な、何もしないって…」

 とは言っても、ここで流されてまた…はさすがに花耶も辛い。息も絶え絶えながらも抗議の声を上げると、奥野はわかっているから、と言って額に口づけた。

「まだ痛むのだろう?」
「…そ、その、かなり…」
「昨日の今日だから仕方ない。無理をさせた自覚もあるしな」

 直接的に言われた花耶は恥ずかしさに震えながら控えめに答えた。奥野の言葉に自覚があった事を察し、花耶はこれで止めてくれるのかと期待を込めて見上げた。奥野が優しく微笑んだので花耶はホッと安堵した。

「大丈夫だ。今日は入れたりしない。ただ、花耶を可愛がるだけだから」
「……は?」

 花耶が言われた内容を消化しきれずに呆然自失でいる隙を狙って、奥野は花耶を横抱きにするとあっという間に寝室のベッドに花耶を下ろした。え?なんで?うそ?と混乱の極みにいる花耶にそのまま覆いかぶさると、項に唇を這わせ始めた。

「ええっ?ちょ…ま…んっ…」
「ああ、花耶の肌は甘いな。柔らかくて、ずっと味わっていたいくらいだ」

 そう囁いた奥野は、自身が買ってきた花耶の服のボタンを外し始めた。この時になって花耶は、このワンピースタイプの室内着が上半身は前開きになっている事に気が付いたが、その頃にはキャミソールが既に奥野の視線に晒されていた。隠そうとする花耶の腕をやんわりと外すと、片手で頭上に一纏めにし、もう片方の手は、繊細な動きで花耶の胸を下着の上からゆっくりと撫で始めた。唇は項から下におりてキャミソールで隠れない場所を丹念に味わっていたが、先ほどキスマークを付けた部分に辿り着くと殊更丹念に舐め上げた。こそばゆさに花耶が身を捩ると、チュッとリップ音を鳴らしてそこに口づけて、手を下着の中へと侵入させた。

「ひゃ、ん…」

 大きくて骨ばった手が無遠慮にブラの中に入り込むと、あっという間にキャミソールもブラも上に捲し上げられてしまい、花耶の胸が空気と奥野の視線に晒された。

「花耶の胸は素晴らしいな…形がよくて…尖端も控えめで綺麗な桜色で…」

 うっとりと眺めながらもやわやわと胸の感触を楽しんでいるらしい奥野に、花耶の羞恥心が高まる。奥野は会社では必要な事しか話さないのに、花耶といる時は時々別人かと思うほどに舌がよく回る。しかもそういう時は花耶が恥ずかしくなるようなことをいう事が多くて困る。上司なのできつくやめて欲しいとも言えず、無視するのも失礼に当たるかと思ってしまい、花耶としては戸惑うばかりだ。

「ひゃ…んっ…」

 胸の先端を下で転がされて、花耶の身体がビクッと跳ねた。舌で転がしたり、ねっとりと吸い付いたりしながら尖端を味わい、反対側は指でこねくり回したり摘まんだりしながら花耶の反応のいいところを探っていた。恥ずかしさのあまりきゅっと目を瞑るが、そうする事でより一層刺激されているところに意識が集まってしまい、むずむずするような感覚が胸から全身に広がる。抵抗しようにも身体ごとのしかかれ、両手も囚われてしまっているため、花耶はされるがまま必死に声を押し殺した。昨夜はまだ酔いもあったから気にならなかったが、今は素面で意識もはっきりしている上、この先何をされるのかがわかっていて、恥ずかしさは昨日の比ではなかった。

 思う存分花耶の胸を味わった奥野の手が、その内花耶の足の付け根の方に伸びた。胸を弄ばれた花耶がその事に気が付いた時には、既に奥野の手が下着の下に入り込んでいた。まだ痛みが残るそこへの侵入を何とか阻止しようとするが、奥野が足の間に入り込んでいるために足を閉じる事も出来ない。

「やっ!ま、待って…」

 胸はまだしも、昨夜初めて雄を受け入れたばかりのそこは、歩くだけでも痛みを訴えていた。それでなくても昨夜の破瓜の痛みもまだ花耶の記憶に新しいだけに、二重の恐怖を覚えた花耶の身体が強張った。

「大丈夫、何もしない。でも、これなら大丈夫だろう?」

 胸の頂に唇を寄せながらそう囁いた奥野の指が、痛みの残る秘所の少し上にある花芽にそっと触れた。既に胸への愛撫で身体の奥に熱が溜まりつつあった花耶の身体はそれだけでひくんと跳ねた。秘所からじわりと生じた蜜を絡ませ、じれったいくらいの動きで花芽を円を描くように撫でられ、胸の先端を甘噛みされたり舌で突かれて、花耶の身体はびくびくと跳ねた。

「んっ、ふっ…あっ…」
「痛むか?」
「んんっ…」

 少し足りないくらいのじれったい動きだったが、痛みへの不安に囚われていた花耶には絶妙な加減だった。痛みはなく、それでいて身体の奥からゆるゆると快楽を引き出す動きに花耶は必死に声を抑えて抗おうとするが、素直に反応する身体に熱は高まる一方だった。いつのまにか手の拘束も解かれていたが、それに気づくだけの余裕もない。奥野は拘束していた方の手を今度は胸に移動させて、まだ固さの残るふくらみを堪能した。

「っ、んんっ、あ、や、やぁああ…っ」

三カ所を同時に責められた花耶は、甘い攻めに耐えられなかった。必死に耐えていたが、昨日繰り返し味わった絶頂に一気に高められる。目の前が真っ白になり、身体の奥に溜まった熱が一気に爆ぜた。全身をより赤く染め肩で荒く息をする花耶を、奥野は再び味わい始めた。


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