上 下
6 / 18

第6話 問題児のアンドロイド 後編

しおりを挟む

「要注意人物」ハレーがあろうことかイオの実験相手になると聞いて、雄飛は酷く動揺していた。何故なら彼はイオの相手をするのは自分しかいないと心に決めていたからだ。

水端流みずはしりゅうを中心としたプロジェクト上層部は計画方針以外のアンドロイドの見た目や性格などは基本的にメンバーに任せていた。だからまさかイオの実験相手を上層部に決められてしまうとは思いもよらなかったのだ。

(何でだ……しかも、よりによって相手がハレーだって?)

雄飛は想像した。大柄でガタイの良いハレーがイオに覆い被さり嫌がる彼女を欲望のままに弄び、乱暴に事に及ぶ様を。雄飛は悔しさと怒りのあまり思わず唇を噛み締め、拳を握り締めた。

(くそ……冗談じゃない。俺だってまだイオを最後まで抱いてないのに)

そして、水端流に向かって低い声で尋ねた。

「何でハレーなんです?」

「それは決まっておる。ハレーの身体能力が高いからだ。君が作ったイオはとても健康的で優秀だから、強くて元気な子供を産んでもらいたいのだよ」

雄飛は返す言葉が見つからなかった。確かにハレーは粗暴そぼうで性格は最悪だが、強い。格闘技、剣術はもちろん、様々な武器も使いこなすし、スポーツだって得意だった。

彗が間違えてしまったその「要注意人物」は元軍人だった。彼は非常に優秀で強く、上官や仲間達から一目置かれていたが、ある日重大な暴力事件を起こして軍を退いた経験があった。コアが送られてきたら、身元を調べることになっているのだが、その際に判明した。だから「要注意人物」として避けられていたのだ。イオとハレーがいない時に、雄飛は彗に尋ねた。

「何でコアを処分しなかったんだ?要注意人物として避けておくぐらいなら処分した方がいいだろ」

「父が残しておけって言ったんです。僕は反対したんですけど、身体能力が高いからもったいないって……。コアの取り違えに気づいた時も僕はすぐに父に報告したんです。起動する前にアンドロイドを廃棄はいき処分するべきだと」

「でも、水端教授は聞かなかった。もったいない。何かの役に立つだろう。とりあえず起動してみろと」

雄飛の言葉に彗はうなだれながら言った。

「仰る通りです……。父は昔からやたらと倹約けんやく癖があって『もったいない』が口癖でした。こんなことにまで発揮しなくてもいいのに……雄飛くん、本当にごめん。僕のせいでイオが危険な目に遭ってしまうかもしれない」

彗の目から涙がこぼれた。彼は続けた。

「イオが嫌な思いをしないよう、僕が責任を持ってハレーをきちんと見張ります。でも……君も見ただろう?ハレーはとんでもない奴なんです。下手に刺激したら……殺されるかもしれない」

「ああ、分かってる。でも、大丈夫だ。俺はハレーには負けない。例え殴られても殺されてもイオを全力で守る」

「雄飛くん、殺されたら守れないですよ……」

「ははっ大丈夫だ。化けて出てやるさ」

イオと彗とは違い、雄飛はハレーのことを怖いとは思わなかった。それよりもイオに危険が及ぶかもしれないということの方が何よりも心配で不安だったのだ。だから、いざとなればハレーに立ち向かう覚悟でいた。しかし、雄飛もきたえてはいるが、ハレーには到底敵わない。それは分かっていた。

(いざとなったら本当に死ぬ覚悟で立ち向かうしかないか)

雄飛は隣にいるイオを見た。彼女は明らかに怯えており、体を震わせて拒否反応を示していた。

「イオの担当として正直に言わせて頂きますが、彼女はハレーを怖がっています。嫌がる相手と無理矢理実験をさせるというのはどうなのでしょう。俺はあまり良いことだとは思いません。最悪の場合、イオの健康状態に悪影響を及ぼし兼ねません」

「うむ。確かに君の言うことも一理ある。では、ハレーはどう思っているか聞いてみようではないか。おいハレー、お前はどう思う?」

すると、それまで黙っていたハレーが口を開いた。

「さっきから聞いてりゃ、お前ら寄ってたかってオレを馬鹿にしやがって。だがな、お前らがオレを怖いとか嫌いとかそんなことオレには知ったこっちゃねえ。お前らの気持ちなんてどうでもいいんだよ。オレはな、初めて会った時からイオを気に入ってんだよ。そしたらもうヤルしかねーだろ。オレにとっては好都合だぜ」

そして、イオの肩に手を掛け、前髪を乱暴に引っ張り顔を上向きにさせると耳元で低い声で言った。

「おい、イオ。思う存分可愛がってやるから覚悟しとけよ」

「……い、いや」

イオはそう呟いて首を横に振り、体を震わせた。

「ハ、ハレー!イオを怖がらせるのはやめてください!」

彗が慌てて言ったが、ハレーはイオの髪の毛をしつこく撫で回しながらニヤニヤと下卑げびた笑みを浮かべるだけだった。全く動じてない。雄飛はハレーのいやらしい手を乱暴に払い除け、イオを抱き寄せた。誰がどう見てもハレーの相手はイオには酷だと思われた。しかし、水端流はふむ、と納得したように頷くと言った。

「まぁ……とりあえずやってみてくれ。実験は明日から始める。今日は各自、準備を進めるように。もし、どうしても無理ならまた対策を考えようではないか。では、諸君。引き続き、プロジェクトに励むように」

そして、軽く手を振ると去って行った。

残された者達の間に絶望的な沈黙が流れた。しかしただ一人、真逆の表情を浮かべる者がいた。ハレーは楽しそうにニヤニヤと薄気味悪い笑顔を浮かべていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

処理中です...