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問題のない家
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「こんにちは、家庭教師の果貫です。二十時からのお約束で参りました」
ここは、最寄駅から歩いて十五分ほどの住宅地。超高級というほどでは無いけれど、敷地面積広めの家が点在している。ここに来る途中、数人うちの会社に登録している人間を見かけた。ここで暮らしているということは、生活が安定しているということだ。二人を見て、俺は嬉しくなった。
ただ、向こうは俺を役職付きのお偉いさんとして認知しているため、しっかりと挨拶をされそうになった。俺は家庭教師として現場に向かっていたところだったので、微かに被りを振ってそれを二人に知らせ、挨拶は目礼だけに留めた。相手のセンチネルが俺の意図を目で読み取ってくれたため、俺は彼女に感謝の笑みを送った。
それから数分歩いて行くと、目的の家に辿りついた。オフホワイトベースで全体的に茶系の落ち着いた外観。何となくティラミスを連想させるような色合いだった。疲れていたからか、甘いものが欲しかったのかも知れない。今日は直帰予定だから、帰りに買って、翠と一緒に食べよう。ホテルのレストランに頼めば買えるかも知れない。翠はあのパティシエの作るケーキが好きだと言っていたから、そうしよう。
そんなことを思いながら、気がつくと現場に到着していた。インターフォンを鳴らして、周囲を確認した。いつも新規の現場には、まず俺が出向いて、現状を把握してくる。所謂現地調査だ。
立地、家族関係、経済状況、近隣住民等の関係性等を調べて、家庭教師のみの契約にするのか、ガイドを探してペアリングするのかを話し合う。
そのため周囲を確認することにも余念が無いのだが、ここは遠くから様子を伺うような下世話な住人はいないようだった。
しばらく待っても応対がなく、もう一度鳴らそうと手を伸ばした瞬間に、玄関のドアが乱暴に開かれた。そして、中から中年の男性が慌てて飛び出してきた。
俺が驚いて呆けていると、その男性は恥ずかしそうに顔を赤らめて、慣れないのかギクシャクとしたお辞儀をした。
「あ、ベクトルデザインサポーターズの方ですよね。すみません、出るのが遅くなりまして。今妻がいないもので、代わりに私が。息子は中におりますので、どうぞお入りください」
そう言って門扉を開けると、俺を敷地内に入れてくれた。
背丈は俺より大きく、がっしりとした体型をしている。おそらく何かスポーツをしているのだろう。健康のために鍛えたのとは目的の違う筋肉がついているように思えた。その上、何となく可愛らしい、小動物のような雰囲気を持ち合わせている。
依頼者との関係性は父、名前は真野涼輔。打ち合わせに来ていたのは、母である翼さんだったため、涼輔氏とはこれが初対面となった。
「果貫と申します。よろしくお願いいたします。詳しいご挨拶は、中でさせていただきます」
お辞儀をする俺の姿を眩しそうに見つめていた真野氏は、太陽のような笑顔を見せてやや頷いていた。そして「さ、どうぞ」と奥へと振り返ると、リビングへ俺を案内した。
「どうぞお入りください。翔平ー、家庭教師の方見えたよ。降りておいで」
「わかったー」という声が2階から降って来た。翔平とは、この家の一人息子のことで、後天性のセンチネル。先日、学校で突然覚醒し、教室に持ち込まれていたブルートゥース機器の発する電波に耐えかねて倒れてしまった。それ以来、耳に保護具であるピアスを装着している。
階段をトントンと降りる音がして、リビングのドアをガチャリと開けた少年は、とても穏やかな顔をした美丈夫だった。父に似て背が高く、母に似て色素が薄い。俺と目が合うと、ぺこっとお辞儀をした。
「よろしくお願いします」
がっしりしていそうに見えるかと思いきや、それはゆったりとした服を着ていたからだった。割と線は細いようで、その体型に見合うような、か細い声をしていた。肌の白さを考えると、インドア派なのかも知れない。大きな声を出し慣れてないような感じだ。
「果貫さん、どうぞこちらへお座りください。翔平も、ここに座って」
真野氏が促すと、翔平は俺の向かいに座った。正面に座っている俺と目が合うと、ニコッと柔らかな笑顔を向けてきた。この年齢で大人相手に無警戒な笑顔を向けられるのは、大したものだなと感心してしまう。穿ったものの見方もしなさそうな、何というか、悟りを開いているかのようにすら見える。
「翔平くんは、今十八なんだよね? 志望校を考えると、塾にも行かずにこの成績をキープしていたら十分だと思うんだ。なんでこのタイミングで家庭教師を頼もうと思ったんだい?」
翔平の成績は、志望校に合格するには十分すぎるくらいに良かった。彼は勉強が好きなタイプらしく、両親は一度も勉強しなさいと言ったことがないのだそうだ。一般的な親なら、そんなに楽なことはないと思うほどのいい子と言えるだろう。だが、彼は後天性のセンチネルだ。親どころか本人すら自分の扱いに困ってしまう、厄介な能力者になってしまった。突然覚醒した後からずっと、自らの五感に振り回され、その制御に苦しんでいる。
「そちらの会社に家庭教師を頼めば、ガイドをつけてくれるって聞いたので。このままじゃ、生活していけそうに無いから。ボンディング相手が欲しい訳じゃありません。発作的にゾーンに入った時に手を握ってくれるくらいで、何とか平静は保てるタイプなので」
そう言うと、俯いて黙り込んでしまった。そして、耳につけている保護具のピアスを摘んで引っ張っていた。
「それがあると、安心する?」
翔平は少し考えて、「はい。音に関しては随分楽になりました」と答えた。つまり、それ以外はまだ解決していないと言うことだ。
ふと気がつくと、真野氏がコーヒーを淹れて戻って来ていた。困ったような笑顔をして、コーヒーを置いていく。
「うちは家のトーンや使用する香りは抑えめなので大丈夫なんですが、外に出るとサングラスとマスクが手放せなくて。鼻は割とコントロールが効くようなんですけど、目の刺激はどうにもならないらしいんです」
翔平の顔を見ると、瞳の色が不自然に暗いのがわかった。どうやらカラコンで光刺激を抑えているらしい。その上にサングラスをする……不便だろうなと思った。
「目の刺激も訓練すればコントロール出来るようになるよ。俺のパートナーは特級パーシャルなんだけど、そのすべての感覚をちゃんとコントロールして生活してる。辿り着くまでは大変かも知れないけれど、サポートするから心配しないでね」
「特級パーシャル……本当にいるんですね。大変だっただろうな、きっと」
翔平は希望を見出したようで、夢を見るような顔をしていた。おそらく起きている事よりも、これから先の生活の目処が立たない不安が大きかったのだろう。ややほっとしたのか、肩の力がぬけたようで、ソファーにボスっと身を預けていた。
「あー、良かったあー。もう、俺ホント、このまま気が狂って死ぬだけかと思ってたから……」
そう言って、黙り込んだ。俺と真野氏はお互い顔を見合わせて、フッと微笑みあった。それからしばらくは、曜日や時間、費用などの事務的な話を詰めていたのだが、翔平は上を向いたままずっとそこから動かずにいた。
「翔平? どうかしたのか?」
真野氏が翔平に声をかけると、翔平は静かに涙を流していた。
十八歳、成人している高校三年生。頭脳にも運動神経にも恵まれている、健康な男性。それでも、センチネルの超感覚がコントロール出来なければ、命はいくらあっても足りない。賢いから、その問題の重さもすぐにわかってしまったのだろう。うちに頼ることが確定するまでは不安に押しつぶされそうになっていたに違いない。
こういう子達を助けたい俺たちにしてみたら、この反応はとても嬉しかった。
俺は立ち上がると、翔平の肩に手を置いた。俺はセンチネルに触れるのに慣れている。どれくらい手加減をして触るべきかを心得ている。
おそらく、最近誰に対しても感じていた不快感を、俺には感じなかったのだろう。翔平は驚愕の表情で俺を見つめていた。
「センチネルにも訓練は必要だけど、ガイドもパートナーとして訓練を受けるんだよ。君だけが頑張るわけじゃないんだ。安心して任せて欲しい。それと、一つだけ確認しておきたいことがある。」
これは、念のための本人確認だ。立ち入った話になるので、本人と確認を担当する人間だけで話すことを義務付けられている。真野氏にもそう説明して、一旦退席してもらった。
「さて、翔平くん。もし、最大限のケアが必要になった場合、ボンディング相手が見つかるまでは、こちらで適当な人を当てがいます。それに同意できますか?」
そう、つまりは、ゾーンに入ってしまったら、ガイディングのためにはセックスをしなくてはならなくなる。その相手は、翔平が望まない相手になるかも知れない。命を守るか、尊厳を守るか。その選択を、念のためにしておいてもらわないといけない。ちなみに、ご両親はこれに了承している。それはそうだろう。だから、本人の意思確認を持って契約完了となる。
「はい。できます。酷い相手は選ばないと信頼しています」
「そうだね。それは信用してもらっていいと思う。だから、君に確認しておきたいのは、君に好きな人がいたら苦痛かも知れないよってことだよ。そのあたりはどう?」
翔平は、唇をギュッと結ぶと、被りを振った。好きな人はいないという意思表示をした。
だが、俺はガイドだ。肩に触れた手が、翔平の気持ちを俺に流して伝えてくる。
『いやだ。でも、俺の恋は実らないから、受け入れるしかない』
「そうか。よし、一つ教えておくよ。俺、ガイドとしてはかなりレベル高いんだ。ボンディングしていても、他のセンチネルをケアすることも共感することも出来るんだよ。俺が望めばね。だから、信頼関係を築くために、本当の事を話してくれよ」
そう言って、ポンポンと翔平の頭に手を置いた。翔平は涙目になって俺を見上げると、何も言えなくなって震えていた。
「家庭教師は明日からな。長い付き合いになるかも知れないから、ゆっくり話してくれ」
そう伝えると、こくこくと首を縦に振って泣き始めた。俺は翔平の肩に触れ、「またな」と言うと、真野氏に挨拶をして帰宅の途についた。
ここは、最寄駅から歩いて十五分ほどの住宅地。超高級というほどでは無いけれど、敷地面積広めの家が点在している。ここに来る途中、数人うちの会社に登録している人間を見かけた。ここで暮らしているということは、生活が安定しているということだ。二人を見て、俺は嬉しくなった。
ただ、向こうは俺を役職付きのお偉いさんとして認知しているため、しっかりと挨拶をされそうになった。俺は家庭教師として現場に向かっていたところだったので、微かに被りを振ってそれを二人に知らせ、挨拶は目礼だけに留めた。相手のセンチネルが俺の意図を目で読み取ってくれたため、俺は彼女に感謝の笑みを送った。
それから数分歩いて行くと、目的の家に辿りついた。オフホワイトベースで全体的に茶系の落ち着いた外観。何となくティラミスを連想させるような色合いだった。疲れていたからか、甘いものが欲しかったのかも知れない。今日は直帰予定だから、帰りに買って、翠と一緒に食べよう。ホテルのレストランに頼めば買えるかも知れない。翠はあのパティシエの作るケーキが好きだと言っていたから、そうしよう。
そんなことを思いながら、気がつくと現場に到着していた。インターフォンを鳴らして、周囲を確認した。いつも新規の現場には、まず俺が出向いて、現状を把握してくる。所謂現地調査だ。
立地、家族関係、経済状況、近隣住民等の関係性等を調べて、家庭教師のみの契約にするのか、ガイドを探してペアリングするのかを話し合う。
そのため周囲を確認することにも余念が無いのだが、ここは遠くから様子を伺うような下世話な住人はいないようだった。
しばらく待っても応対がなく、もう一度鳴らそうと手を伸ばした瞬間に、玄関のドアが乱暴に開かれた。そして、中から中年の男性が慌てて飛び出してきた。
俺が驚いて呆けていると、その男性は恥ずかしそうに顔を赤らめて、慣れないのかギクシャクとしたお辞儀をした。
「あ、ベクトルデザインサポーターズの方ですよね。すみません、出るのが遅くなりまして。今妻がいないもので、代わりに私が。息子は中におりますので、どうぞお入りください」
そう言って門扉を開けると、俺を敷地内に入れてくれた。
背丈は俺より大きく、がっしりとした体型をしている。おそらく何かスポーツをしているのだろう。健康のために鍛えたのとは目的の違う筋肉がついているように思えた。その上、何となく可愛らしい、小動物のような雰囲気を持ち合わせている。
依頼者との関係性は父、名前は真野涼輔。打ち合わせに来ていたのは、母である翼さんだったため、涼輔氏とはこれが初対面となった。
「果貫と申します。よろしくお願いいたします。詳しいご挨拶は、中でさせていただきます」
お辞儀をする俺の姿を眩しそうに見つめていた真野氏は、太陽のような笑顔を見せてやや頷いていた。そして「さ、どうぞ」と奥へと振り返ると、リビングへ俺を案内した。
「どうぞお入りください。翔平ー、家庭教師の方見えたよ。降りておいで」
「わかったー」という声が2階から降って来た。翔平とは、この家の一人息子のことで、後天性のセンチネル。先日、学校で突然覚醒し、教室に持ち込まれていたブルートゥース機器の発する電波に耐えかねて倒れてしまった。それ以来、耳に保護具であるピアスを装着している。
階段をトントンと降りる音がして、リビングのドアをガチャリと開けた少年は、とても穏やかな顔をした美丈夫だった。父に似て背が高く、母に似て色素が薄い。俺と目が合うと、ぺこっとお辞儀をした。
「よろしくお願いします」
がっしりしていそうに見えるかと思いきや、それはゆったりとした服を着ていたからだった。割と線は細いようで、その体型に見合うような、か細い声をしていた。肌の白さを考えると、インドア派なのかも知れない。大きな声を出し慣れてないような感じだ。
「果貫さん、どうぞこちらへお座りください。翔平も、ここに座って」
真野氏が促すと、翔平は俺の向かいに座った。正面に座っている俺と目が合うと、ニコッと柔らかな笑顔を向けてきた。この年齢で大人相手に無警戒な笑顔を向けられるのは、大したものだなと感心してしまう。穿ったものの見方もしなさそうな、何というか、悟りを開いているかのようにすら見える。
「翔平くんは、今十八なんだよね? 志望校を考えると、塾にも行かずにこの成績をキープしていたら十分だと思うんだ。なんでこのタイミングで家庭教師を頼もうと思ったんだい?」
翔平の成績は、志望校に合格するには十分すぎるくらいに良かった。彼は勉強が好きなタイプらしく、両親は一度も勉強しなさいと言ったことがないのだそうだ。一般的な親なら、そんなに楽なことはないと思うほどのいい子と言えるだろう。だが、彼は後天性のセンチネルだ。親どころか本人すら自分の扱いに困ってしまう、厄介な能力者になってしまった。突然覚醒した後からずっと、自らの五感に振り回され、その制御に苦しんでいる。
「そちらの会社に家庭教師を頼めば、ガイドをつけてくれるって聞いたので。このままじゃ、生活していけそうに無いから。ボンディング相手が欲しい訳じゃありません。発作的にゾーンに入った時に手を握ってくれるくらいで、何とか平静は保てるタイプなので」
そう言うと、俯いて黙り込んでしまった。そして、耳につけている保護具のピアスを摘んで引っ張っていた。
「それがあると、安心する?」
翔平は少し考えて、「はい。音に関しては随分楽になりました」と答えた。つまり、それ以外はまだ解決していないと言うことだ。
ふと気がつくと、真野氏がコーヒーを淹れて戻って来ていた。困ったような笑顔をして、コーヒーを置いていく。
「うちは家のトーンや使用する香りは抑えめなので大丈夫なんですが、外に出るとサングラスとマスクが手放せなくて。鼻は割とコントロールが効くようなんですけど、目の刺激はどうにもならないらしいんです」
翔平の顔を見ると、瞳の色が不自然に暗いのがわかった。どうやらカラコンで光刺激を抑えているらしい。その上にサングラスをする……不便だろうなと思った。
「目の刺激も訓練すればコントロール出来るようになるよ。俺のパートナーは特級パーシャルなんだけど、そのすべての感覚をちゃんとコントロールして生活してる。辿り着くまでは大変かも知れないけれど、サポートするから心配しないでね」
「特級パーシャル……本当にいるんですね。大変だっただろうな、きっと」
翔平は希望を見出したようで、夢を見るような顔をしていた。おそらく起きている事よりも、これから先の生活の目処が立たない不安が大きかったのだろう。ややほっとしたのか、肩の力がぬけたようで、ソファーにボスっと身を預けていた。
「あー、良かったあー。もう、俺ホント、このまま気が狂って死ぬだけかと思ってたから……」
そう言って、黙り込んだ。俺と真野氏はお互い顔を見合わせて、フッと微笑みあった。それからしばらくは、曜日や時間、費用などの事務的な話を詰めていたのだが、翔平は上を向いたままずっとそこから動かずにいた。
「翔平? どうかしたのか?」
真野氏が翔平に声をかけると、翔平は静かに涙を流していた。
十八歳、成人している高校三年生。頭脳にも運動神経にも恵まれている、健康な男性。それでも、センチネルの超感覚がコントロール出来なければ、命はいくらあっても足りない。賢いから、その問題の重さもすぐにわかってしまったのだろう。うちに頼ることが確定するまでは不安に押しつぶされそうになっていたに違いない。
こういう子達を助けたい俺たちにしてみたら、この反応はとても嬉しかった。
俺は立ち上がると、翔平の肩に手を置いた。俺はセンチネルに触れるのに慣れている。どれくらい手加減をして触るべきかを心得ている。
おそらく、最近誰に対しても感じていた不快感を、俺には感じなかったのだろう。翔平は驚愕の表情で俺を見つめていた。
「センチネルにも訓練は必要だけど、ガイドもパートナーとして訓練を受けるんだよ。君だけが頑張るわけじゃないんだ。安心して任せて欲しい。それと、一つだけ確認しておきたいことがある。」
これは、念のための本人確認だ。立ち入った話になるので、本人と確認を担当する人間だけで話すことを義務付けられている。真野氏にもそう説明して、一旦退席してもらった。
「さて、翔平くん。もし、最大限のケアが必要になった場合、ボンディング相手が見つかるまでは、こちらで適当な人を当てがいます。それに同意できますか?」
そう、つまりは、ゾーンに入ってしまったら、ガイディングのためにはセックスをしなくてはならなくなる。その相手は、翔平が望まない相手になるかも知れない。命を守るか、尊厳を守るか。その選択を、念のためにしておいてもらわないといけない。ちなみに、ご両親はこれに了承している。それはそうだろう。だから、本人の意思確認を持って契約完了となる。
「はい。できます。酷い相手は選ばないと信頼しています」
「そうだね。それは信用してもらっていいと思う。だから、君に確認しておきたいのは、君に好きな人がいたら苦痛かも知れないよってことだよ。そのあたりはどう?」
翔平は、唇をギュッと結ぶと、被りを振った。好きな人はいないという意思表示をした。
だが、俺はガイドだ。肩に触れた手が、翔平の気持ちを俺に流して伝えてくる。
『いやだ。でも、俺の恋は実らないから、受け入れるしかない』
「そうか。よし、一つ教えておくよ。俺、ガイドとしてはかなりレベル高いんだ。ボンディングしていても、他のセンチネルをケアすることも共感することも出来るんだよ。俺が望めばね。だから、信頼関係を築くために、本当の事を話してくれよ」
そう言って、ポンポンと翔平の頭に手を置いた。翔平は涙目になって俺を見上げると、何も言えなくなって震えていた。
「家庭教師は明日からな。長い付き合いになるかも知れないから、ゆっくり話してくれ」
そう伝えると、こくこくと首を縦に振って泣き始めた。俺は翔平の肩に触れ、「またな」と言うと、真野氏に挨拶をして帰宅の途についた。
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