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鍵と鍵穴
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部屋に戻るまでのエレベーターでは、誰も乗ってこないのをいい事に、唇がちぎれそうなほどキスをした。
何度も深く吸い付いては舌を絡め、俺は蒼の唾液をこれでもかと欲しがった。
でも、部屋のドアを開けて一歩中に踏み込むと、まるでエネルギーを失ったロボットのように、蒼は床に崩れ落ちてしまった。
「蒼! あー、ダメだな、完全に寝落ちた……」
蒼の頬を手のひらでペチペチと叩く。涼やかで高貴な顔をした蒼の寝顔は、完璧なまでに美しい。そんなことがあるわけないのに、顔の周りにキラキラと星が舞い、マンガのように擬音が聞こえるようだった。
「もー、お前俺より重たいのに……絶対明日筋肉痛だろ、こんなの。明日めちゃくちゃ抱いてもらうからなー」
ぶつぶつ呟きながら、奏の腕を取り、肩にかついで立ち上がった。
「ん゛ー!? あー、やっべ、全然担げない……」
ケアが成功したとは言え、一日中山の中を歩き回った肉体的疲労は無くなったわけではない。ただでさえ自分より背が高く筋肉質の蒼を運ぶのは至難の業だった。
「もーいっか。ここに布団集めて来て寝てしまえ。俺もここで寝よっと」
ヤバいくらいの独り言を呟きながら、俺は布団を集めに行った。そしてホテルからしたら大迷惑だとは思うが、掛け布団を三つ引きずって来た。
それを玄関先の廊下に敷き詰めて、枕をあるだけ持って来て並べる。
「よし、これで寝れなくはないだろ」
そして、出来上がった簡易寝所へと、蒼を転がして寝かせた。
ゴロンと転がる蒼を見て「ふぅ」と一息ついたところで、俺はふと疑問に思った。
今回はケアもそんなに大変なものではなかったはずだ。ゾーンに入りかけてはいたけれど、入った訳ではなかった。それなら俺が口でしたくらいでこんなになるだろうか。蒼の疲れ方が、いつもより酷いように思えた。
「体、拭いておいてやるかな。それくらいなら出来そうだし……」
センチネルはガイドのケアがないと回復出来ない。そういう意味では、センチネルはガイドに依存している。そして、センチネルにはガイドを癒す力はない。そこがアンフェアだといつも感じる。
俺は自分が良くしてもらえるのに、自分は蒼をよくしてあげられないことが、なんだかとても嫌だった。好きとか嫌いとか関係なく、与えてもらうだけの存在である自分がいいとは思えない。
だからこうやって、ガイディングのあとに蒼が倒れてしまったら、着替えさせてあげたり、体を拭いてあげたりするようにしている。
お湯で湿らせたタオルと着替えを用意した。蒼のネクタイを緩め、シュルッと引き抜く。苦しそうな襟元のボタンを一つずつ外す。すると、蒼の首がカクンと傾いて、鼻先で俺の手を無意識に追いかけた。
眠ったままの横顔は、伏せられた睫毛が長くて吸い寄せられそうになるほど美しい。そんな美丈夫が、すんすんと俺の手のにおいを嗅いでいる。
「あはは。かわいーな」
まるで子犬のように愛らしくて、思わず額にちゅうっと口付けた。頭を撫で、満足そうに微笑む姿を確認した。そしてそのまま、体を拭きながら少しずつ脱がせていく。
首筋にタオルを当て、そっと撫でるように肌を滑らせる。下には、鍛えられて厚い胸の筋肉がうっすらと上下を繰り返していた。ガイドは常にセンチネルを守る立場にあるため、体を鍛えていてがっしりした人が多い。蒼も、普段の仕事は打ち合わせが多い内勤ばかりにも関わらず、有事に備えて鍛えてある。
「よいしょっと……背中は後にするか。先に前全部……」
蒼は今日、新規の客との打ち合わせのためにスーツを着ていた。一度脱いだスラックスは既にシワが寄っていた。クリーニングに出さないとなぁと考えながらカチャカチャとベルトを外す。それを引き抜かずに、そのままスラックス毎、下に引き下げた。
「ん? これ……」
薄い布に包まれて、ソコだけ熱が溜まっている。それはさっきの余韻なのかもしれないが、俺が手を這わせるたびにそれは増していくみたいだった。
腿から膝へと手を滑らせて、汗の跡を消していく。拭き上げるたびに、蒼の半開きになった口から、何度も浅く息が漏れた。
「蒼……お前……」
足の裏の指まで拭き上げて、俺はタオルを放り投げた。そして、自分も蒼と同じボクサーパンツ姿になると、隣に寝転んで布団をガバッと掴み、二人の上にかけた。そして隣に眠る愛する男にぎゅっとしがみつくと、耳元でそっと囁いた。
「期待してるんだろうけど、今日はこれで我慢しろ。お前、シールドやばくなりそうなくらい疲れただろ?深く眠るまで触っててやるから」
役に立たないことを気に病んでいた俺は、最近一つ気づいたことがあった。それは、センチネルのケア目的でない時に抱き合えば、俺は与えることも出来るという事だ。それはガイドをケアするということとは違うけれど、ボンディングした者同士にしか与えられないご褒美のようなものだけ。
満たされている時だけは、普通の恋人同士として振る舞える。だからガイディングしてもらった直後には、俺からのキスやハグで蒼を満たしてあげたい。
半分狸寝入りを決め込んでいた蒼は、多分そのまま俺を抱こうとしていた。でも、今は我慢しないとな。
なんせ、明日は新しい現場入りだ。おそらく、そこに入り始めたら毎日ケアをしてもらわなくてはいけなくなる。もちろん必要最低限で済むように、俺だって鍛錬するけどな。センチネルは精神鍛錬が必須だ。
だから、今日はもう眠ろう。
俺を守ってくれる愛する男の肌に、そっと手や足を擦り付けながら生体電位を交換する。これはどんな人間の心でも満たしてくれる。俺に出来る唯一のケア。
蒼はだんだん深く眠り始めた。
その顔を見て、すうすうと聞こえる寝息に満足した俺も、大好きな香りに包まれながら眠りに落ちていった。
何度も深く吸い付いては舌を絡め、俺は蒼の唾液をこれでもかと欲しがった。
でも、部屋のドアを開けて一歩中に踏み込むと、まるでエネルギーを失ったロボットのように、蒼は床に崩れ落ちてしまった。
「蒼! あー、ダメだな、完全に寝落ちた……」
蒼の頬を手のひらでペチペチと叩く。涼やかで高貴な顔をした蒼の寝顔は、完璧なまでに美しい。そんなことがあるわけないのに、顔の周りにキラキラと星が舞い、マンガのように擬音が聞こえるようだった。
「もー、お前俺より重たいのに……絶対明日筋肉痛だろ、こんなの。明日めちゃくちゃ抱いてもらうからなー」
ぶつぶつ呟きながら、奏の腕を取り、肩にかついで立ち上がった。
「ん゛ー!? あー、やっべ、全然担げない……」
ケアが成功したとは言え、一日中山の中を歩き回った肉体的疲労は無くなったわけではない。ただでさえ自分より背が高く筋肉質の蒼を運ぶのは至難の業だった。
「もーいっか。ここに布団集めて来て寝てしまえ。俺もここで寝よっと」
ヤバいくらいの独り言を呟きながら、俺は布団を集めに行った。そしてホテルからしたら大迷惑だとは思うが、掛け布団を三つ引きずって来た。
それを玄関先の廊下に敷き詰めて、枕をあるだけ持って来て並べる。
「よし、これで寝れなくはないだろ」
そして、出来上がった簡易寝所へと、蒼を転がして寝かせた。
ゴロンと転がる蒼を見て「ふぅ」と一息ついたところで、俺はふと疑問に思った。
今回はケアもそんなに大変なものではなかったはずだ。ゾーンに入りかけてはいたけれど、入った訳ではなかった。それなら俺が口でしたくらいでこんなになるだろうか。蒼の疲れ方が、いつもより酷いように思えた。
「体、拭いておいてやるかな。それくらいなら出来そうだし……」
センチネルはガイドのケアがないと回復出来ない。そういう意味では、センチネルはガイドに依存している。そして、センチネルにはガイドを癒す力はない。そこがアンフェアだといつも感じる。
俺は自分が良くしてもらえるのに、自分は蒼をよくしてあげられないことが、なんだかとても嫌だった。好きとか嫌いとか関係なく、与えてもらうだけの存在である自分がいいとは思えない。
だからこうやって、ガイディングのあとに蒼が倒れてしまったら、着替えさせてあげたり、体を拭いてあげたりするようにしている。
お湯で湿らせたタオルと着替えを用意した。蒼のネクタイを緩め、シュルッと引き抜く。苦しそうな襟元のボタンを一つずつ外す。すると、蒼の首がカクンと傾いて、鼻先で俺の手を無意識に追いかけた。
眠ったままの横顔は、伏せられた睫毛が長くて吸い寄せられそうになるほど美しい。そんな美丈夫が、すんすんと俺の手のにおいを嗅いでいる。
「あはは。かわいーな」
まるで子犬のように愛らしくて、思わず額にちゅうっと口付けた。頭を撫で、満足そうに微笑む姿を確認した。そしてそのまま、体を拭きながら少しずつ脱がせていく。
首筋にタオルを当て、そっと撫でるように肌を滑らせる。下には、鍛えられて厚い胸の筋肉がうっすらと上下を繰り返していた。ガイドは常にセンチネルを守る立場にあるため、体を鍛えていてがっしりした人が多い。蒼も、普段の仕事は打ち合わせが多い内勤ばかりにも関わらず、有事に備えて鍛えてある。
「よいしょっと……背中は後にするか。先に前全部……」
蒼は今日、新規の客との打ち合わせのためにスーツを着ていた。一度脱いだスラックスは既にシワが寄っていた。クリーニングに出さないとなぁと考えながらカチャカチャとベルトを外す。それを引き抜かずに、そのままスラックス毎、下に引き下げた。
「ん? これ……」
薄い布に包まれて、ソコだけ熱が溜まっている。それはさっきの余韻なのかもしれないが、俺が手を這わせるたびにそれは増していくみたいだった。
腿から膝へと手を滑らせて、汗の跡を消していく。拭き上げるたびに、蒼の半開きになった口から、何度も浅く息が漏れた。
「蒼……お前……」
足の裏の指まで拭き上げて、俺はタオルを放り投げた。そして、自分も蒼と同じボクサーパンツ姿になると、隣に寝転んで布団をガバッと掴み、二人の上にかけた。そして隣に眠る愛する男にぎゅっとしがみつくと、耳元でそっと囁いた。
「期待してるんだろうけど、今日はこれで我慢しろ。お前、シールドやばくなりそうなくらい疲れただろ?深く眠るまで触っててやるから」
役に立たないことを気に病んでいた俺は、最近一つ気づいたことがあった。それは、センチネルのケア目的でない時に抱き合えば、俺は与えることも出来るという事だ。それはガイドをケアするということとは違うけれど、ボンディングした者同士にしか与えられないご褒美のようなものだけ。
満たされている時だけは、普通の恋人同士として振る舞える。だからガイディングしてもらった直後には、俺からのキスやハグで蒼を満たしてあげたい。
半分狸寝入りを決め込んでいた蒼は、多分そのまま俺を抱こうとしていた。でも、今は我慢しないとな。
なんせ、明日は新しい現場入りだ。おそらく、そこに入り始めたら毎日ケアをしてもらわなくてはいけなくなる。もちろん必要最低限で済むように、俺だって鍛錬するけどな。センチネルは精神鍛錬が必須だ。
だから、今日はもう眠ろう。
俺を守ってくれる愛する男の肌に、そっと手や足を擦り付けながら生体電位を交換する。これはどんな人間の心でも満たしてくれる。俺に出来る唯一のケア。
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その顔を見て、すうすうと聞こえる寝息に満足した俺も、大好きな香りに包まれながら眠りに落ちていった。
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