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信じると言う強さ
想う人2
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三人が悲鳴をあげてもうダメだと諦めかけた時、目の前が真っ白になるほどの閃光が走った。あまりの明るさに、俯いて目を覆う。
「うぎゃああああああああ!」
この世のものとは思えない、悍ましい悲鳴が部屋の中に響き渡った。
タカトが顔を上げると、部屋の空間いっぱいに火花が網目のように広がっているのが見えた。綾人に向かっていった白い人のようなものは、その光の網に捉えられていた。
その網は、捉えたものをジリジリと絡め取り、激しく痛めつけていく。激しい火花が散り、白いものはもがき続けていた。
「なんだ……、何かショートした?」
「いや、それよりなんか……雷っぽくないか?」
「本当だ! 見て、あれ! なんか光ってる!」
水町が指を指し示している方を見てみると、まるで部屋の中に雷雲が発生したかのように、小さな稲光のようなものがいくつも見えていた。その光が取り巻く白いものは、徐々に弱っていくように見える。
「あの白いの、ピアスから出てきたよな? 昨日もあれがきっかけだったから、あれは百合子だろ? じゃあ、この雷は……?」
不思議に思った瀬川がふと綾人の方をみると、綾人の額にあの眉間の目が現れていた。時折そこからフラッシュのような閃光が走り、それが雷の網を作り出している。
「これ、お前がやってんのか?」
瀬川が声をかけても綾人の耳には届かないようで、鋭い視線で獲物を仕留めることだけを考えているようだった。時折ニヤリと口の端が上がり、その度に牙のような歯が見える。普段の綾人からは想像もつかないような、獅子の顔だった。
「綾人、いつの間にそんなこと……」
タカトも水町も、綾人のその変貌ぶりに驚いていた。昨日の浄化の様子を貴人様から聞いていたタカトでさえ、実際に目の当たりにすると怯んでしまう。
「ギギギギギ……」
呻き声を上げる獲物を痛めつけるのを喜ぶように、さらに派手に火花を散らし始めた。そして、突然バチン! と電気回路がショートしたような音を立て、白いものは消滅した。
それが弾け飛んだと同時に、銀色の鱗粉のようなものが、ふわふわと舞い降りてきた。それは、とても美しく輝いていて、汚い断末魔の声を上げて消えた悪霊とはとても思えないようなものだった。
「な、何これ……被っても大丈夫なのかな?」
得体の知れないものが体に触れようとしたことで、水町がそれを慌てて払い落とそうとしていた。その水町の姿を見て、知らないうちにいつもの状態に戻っていた綾人が口を開いた。
「あー、大丈夫。さっきのやつはなんか悪いやつだったんだけど、俺が雷落として浄化した。浄化した後のやつはむしろいいことしかしないから。傷が治ったり、悪いところが消えたりするみたい」
それだけいうと、またゴロンと寝転んだ。そして何事も無かったかのように、スヤスヤと寝息を立て始めた。
「え……? 浄化した? 雷を落とした?」
三人は瑣末なことをしたとでも言いたそうな綾人を見て、一様にポカンとしていた。突然の襲撃、反撃、勝利。その間何秒も無かったように思えた。綾人の戦闘能力が突然上がったことに驚いて、全く理解が及ばない。
「と、とりあえず綾人が起きたらまた話そうか。陽太のことは……」
「俺、起きてるけど」
タカトがそう口にしたタイミングで、陽太が既に座っていることにみんなが気づいた。
「わーっ! よっ、陽太! 起きてたのか……大丈夫か? い、痛いところとか無いか?」
瀬川は、罰が悪そうにしながらも陽太に体調を訊ねた。陽太は少し顔を赤らめて、もじもじしながらも何も言わなかった。タカトはその陽太の様子を見て、事態は思ったほど深刻ではないのかも知れないと考えた。
そこで、ストレートに陽太に確認することにした。
「陽太。もしかして、瀬川にされたこと、しっかり覚えてる?」
タカトの言葉に、陽太はビクリと体を硬直させた。そして、チラリと横目で瀬川を見ながら、こくこくと頷いた。
「ヤンが体に入ってきて、俺が表に出られ無くなってから、岳斗がヤンを追い出すところまでは意識があった。でも表に出られなかったから、岳斗にはわからなかったと思う。お、俺が……来、来てって言った時以外は……」
その言葉を聞いて、タカトは一瞬どういう意味なのかがわからなかったが、水町と瀬川の顔が一気に赤らんだことで理解した。言った本人も真っ赤になっていて、顔が上げられなくなっているようだ。
「ヤ、ヤンが体から追い出されるタイミングで、幸野谷百合子から睨まれたのだけはわかってる」
それを聞いて、その場の空気が一気に冷えた。引き絞られた神経がヒリヒリと痛むほどに、真剣な表情をした瀬川が、陽太に注意深く確認をする。
「睨まれたのか? 百合子だったんだな? 間違いないか?」
陽太は頷いた。そして、徐に瀬川に抱きついた。あまりに勢いよく抱きついたため、勢い余って二人ともベッドの下に落ちてしまった。
「ぐあっ! いっ……てえ! よ、陽太、大丈夫か? どこもぶつけてない……ぎゃー!」
瀬川が陽太の顔を覗き込みながら心配していると、陽太はガツン! と思い切り頭突きをしてきた。まさか陽太に攻撃されると思っていなかった瀬川は、完全に無防備な状態にあったため、額を抑えてうずくまってしまう。
その瀬川の背中に、陽太はすぐそばにあったソファーのクッションを掴んで投げつけていた。
「ちょっ……どうした、どうした! 陽太、落ち着け……」
タカトと水町が慌てて陽太を宥めようとした。陽太はその声を聞いて、三人がけのソファーに置いてあった二つのクッションを投げつけた後、ぼろぼろと涙をこぼしながら瀬川に馬乗りになった。
「バカ岳斗! 助けてもらったのにお前のことを悪く思うわけ無いだろう! あのままだと俺は消滅させられてたんだよ! だからお前は正しいことをしたの! 何も気にすることねえし、むしろ感謝してる! 話もせずに俺のこと見くびってんじゃねえよ! ばーか!」
それは、およそ陽太の口から出た言葉とは思えない、幼稚な言葉の羅列だった。クッションを投げつけただけでは飽き足らず、拳を握りしめて瀬川の胸をドンドンと音を立てて叩き続けている。
タカトが貸したTシャツは、陽太の涙でびしょ濡れになってしまった。叩き疲れた陽太は、瀬川の上に乗ったまま顔を手で覆って泣き始めた。
「陽太」
陽太の訴えは、瀬川の心に張り付いた後悔の念を打ち砕くには最適解だったようで、思い詰めた様子はその顔から消えていた。嗚咽を漏らしながら泣く陽太をガッチリと抱きしめて「俺のこと、怒ってないの?」と聞いた。
陽太は、瀬川の胸に顔を埋めると「怒ってない!」と叫び、「いやそれ怒ってるじゃん」と返した瀬川に「怒ってないってば!」と言い返した。
瀬川は、そんな陽太を強く抱きしめると、「良かった……。ありがと、陽太」と安堵の涙を流した。
陽太はそんな瀬川のことを気にかけ、グスグスと鼻を鳴らしながらも顔を上げた。そして、泣き始めた瀬川の背中をポンポンと叩いている。それはまるで、母が泣いている子供を慰める姿に似ていた。
「上書き、してくれるんでしょ? 昨日のことを忘れられるくらい、いい思い出作ってくれるんでしょ?」
陽太はタカトに目配せをした。タカトはその陽太の様子を見て、ほっと息を吐いた。
「瀬川、きっと尻に敷かれるんだろうね」
そして、二人の様子を見ていると気が抜けてしまったのか、クスクスと笑い始めた。それに水町が肩をぶつけ、「上書きの話しといてよかったね」と呟く。タカトはそれに「だね」と返すと、二人は笑い合った。
——貴人様は、ウルを傷つけたものが百合子だとわかっていたから祓えなかったのか。
タカトは、抱き合う瀬川と陽太を見つめながら、そう考えていた。
百合子は誰を許せないんだろう。ヤトだけを許せないにしては、周りの人間を巻き込みすぎている。
そもそも、なんでここまで転生を繰り返してまで攻撃を仕掛けてくるんだろう。そこをクリアにしない限りは、ずっとこのままなのでは無いだろうかと考え始めていた。
——一度、きちんと整理して考え直そう。
「瀬川、お前貴人様を迎えにいくことって出来る?」
ウルは飛ぶことができる。昨日その姿で色々あっただろうが、呼びに行けるのは瀬川くらいしかいない。
「おう、出来るぞ。そうだな、今は鏡で呼んでもお応えにならないかも知れないから……。俺が行くのが一番早いかも知れないな。じゃあ、俺がいない間は陽太のことを頼んだぞ」
「わかった。任せとけ。……綾人が守ってくれるからさ」
タカトが戯けてそう答えると、「お前じゃねーのかよ」と笑いながら、瀬川は立ち上がった。
瀬川が陽太の髪をくしゃくしゃにしながら「じゃあ、待っててな」と言うと、陽太は瀬川に向かってニコッと微笑みかけた。そして、「いってらっしゃい」と瀬川の足をポンと叩いた。
瀬川は、想定外の出来事ではあったけれど、それが起きたことでより陽太との関係が深まったように思っていた。
——いやだけれど、ある意味百合子のおかげなのかも知れないな。
そんな複雑な思いに、瀬川は目を閉じた。そして、フーッと一息吐き出して、変化のための心構えをする。
大鷲が鳴くような声で小さく一声発したかと思うと、一瞬で猛禽類の目、長い髪、分厚い体と長い爪、そして、大きな翼を持った姿へと変貌した。そして、その姿で陽太を一瞥すると、今度は一声大きく鳴き、一瞬で窓をすり抜けて空へと飛んでいった。
(終)第3部「囚人の見る夢」へ続く。
「うぎゃああああああああ!」
この世のものとは思えない、悍ましい悲鳴が部屋の中に響き渡った。
タカトが顔を上げると、部屋の空間いっぱいに火花が網目のように広がっているのが見えた。綾人に向かっていった白い人のようなものは、その光の網に捉えられていた。
その網は、捉えたものをジリジリと絡め取り、激しく痛めつけていく。激しい火花が散り、白いものはもがき続けていた。
「なんだ……、何かショートした?」
「いや、それよりなんか……雷っぽくないか?」
「本当だ! 見て、あれ! なんか光ってる!」
水町が指を指し示している方を見てみると、まるで部屋の中に雷雲が発生したかのように、小さな稲光のようなものがいくつも見えていた。その光が取り巻く白いものは、徐々に弱っていくように見える。
「あの白いの、ピアスから出てきたよな? 昨日もあれがきっかけだったから、あれは百合子だろ? じゃあ、この雷は……?」
不思議に思った瀬川がふと綾人の方をみると、綾人の額にあの眉間の目が現れていた。時折そこからフラッシュのような閃光が走り、それが雷の網を作り出している。
「これ、お前がやってんのか?」
瀬川が声をかけても綾人の耳には届かないようで、鋭い視線で獲物を仕留めることだけを考えているようだった。時折ニヤリと口の端が上がり、その度に牙のような歯が見える。普段の綾人からは想像もつかないような、獅子の顔だった。
「綾人、いつの間にそんなこと……」
タカトも水町も、綾人のその変貌ぶりに驚いていた。昨日の浄化の様子を貴人様から聞いていたタカトでさえ、実際に目の当たりにすると怯んでしまう。
「ギギギギギ……」
呻き声を上げる獲物を痛めつけるのを喜ぶように、さらに派手に火花を散らし始めた。そして、突然バチン! と電気回路がショートしたような音を立て、白いものは消滅した。
それが弾け飛んだと同時に、銀色の鱗粉のようなものが、ふわふわと舞い降りてきた。それは、とても美しく輝いていて、汚い断末魔の声を上げて消えた悪霊とはとても思えないようなものだった。
「な、何これ……被っても大丈夫なのかな?」
得体の知れないものが体に触れようとしたことで、水町がそれを慌てて払い落とそうとしていた。その水町の姿を見て、知らないうちにいつもの状態に戻っていた綾人が口を開いた。
「あー、大丈夫。さっきのやつはなんか悪いやつだったんだけど、俺が雷落として浄化した。浄化した後のやつはむしろいいことしかしないから。傷が治ったり、悪いところが消えたりするみたい」
それだけいうと、またゴロンと寝転んだ。そして何事も無かったかのように、スヤスヤと寝息を立て始めた。
「え……? 浄化した? 雷を落とした?」
三人は瑣末なことをしたとでも言いたそうな綾人を見て、一様にポカンとしていた。突然の襲撃、反撃、勝利。その間何秒も無かったように思えた。綾人の戦闘能力が突然上がったことに驚いて、全く理解が及ばない。
「と、とりあえず綾人が起きたらまた話そうか。陽太のことは……」
「俺、起きてるけど」
タカトがそう口にしたタイミングで、陽太が既に座っていることにみんなが気づいた。
「わーっ! よっ、陽太! 起きてたのか……大丈夫か? い、痛いところとか無いか?」
瀬川は、罰が悪そうにしながらも陽太に体調を訊ねた。陽太は少し顔を赤らめて、もじもじしながらも何も言わなかった。タカトはその陽太の様子を見て、事態は思ったほど深刻ではないのかも知れないと考えた。
そこで、ストレートに陽太に確認することにした。
「陽太。もしかして、瀬川にされたこと、しっかり覚えてる?」
タカトの言葉に、陽太はビクリと体を硬直させた。そして、チラリと横目で瀬川を見ながら、こくこくと頷いた。
「ヤンが体に入ってきて、俺が表に出られ無くなってから、岳斗がヤンを追い出すところまでは意識があった。でも表に出られなかったから、岳斗にはわからなかったと思う。お、俺が……来、来てって言った時以外は……」
その言葉を聞いて、タカトは一瞬どういう意味なのかがわからなかったが、水町と瀬川の顔が一気に赤らんだことで理解した。言った本人も真っ赤になっていて、顔が上げられなくなっているようだ。
「ヤ、ヤンが体から追い出されるタイミングで、幸野谷百合子から睨まれたのだけはわかってる」
それを聞いて、その場の空気が一気に冷えた。引き絞られた神経がヒリヒリと痛むほどに、真剣な表情をした瀬川が、陽太に注意深く確認をする。
「睨まれたのか? 百合子だったんだな? 間違いないか?」
陽太は頷いた。そして、徐に瀬川に抱きついた。あまりに勢いよく抱きついたため、勢い余って二人ともベッドの下に落ちてしまった。
「ぐあっ! いっ……てえ! よ、陽太、大丈夫か? どこもぶつけてない……ぎゃー!」
瀬川が陽太の顔を覗き込みながら心配していると、陽太はガツン! と思い切り頭突きをしてきた。まさか陽太に攻撃されると思っていなかった瀬川は、完全に無防備な状態にあったため、額を抑えてうずくまってしまう。
その瀬川の背中に、陽太はすぐそばにあったソファーのクッションを掴んで投げつけていた。
「ちょっ……どうした、どうした! 陽太、落ち着け……」
タカトと水町が慌てて陽太を宥めようとした。陽太はその声を聞いて、三人がけのソファーに置いてあった二つのクッションを投げつけた後、ぼろぼろと涙をこぼしながら瀬川に馬乗りになった。
「バカ岳斗! 助けてもらったのにお前のことを悪く思うわけ無いだろう! あのままだと俺は消滅させられてたんだよ! だからお前は正しいことをしたの! 何も気にすることねえし、むしろ感謝してる! 話もせずに俺のこと見くびってんじゃねえよ! ばーか!」
それは、およそ陽太の口から出た言葉とは思えない、幼稚な言葉の羅列だった。クッションを投げつけただけでは飽き足らず、拳を握りしめて瀬川の胸をドンドンと音を立てて叩き続けている。
タカトが貸したTシャツは、陽太の涙でびしょ濡れになってしまった。叩き疲れた陽太は、瀬川の上に乗ったまま顔を手で覆って泣き始めた。
「陽太」
陽太の訴えは、瀬川の心に張り付いた後悔の念を打ち砕くには最適解だったようで、思い詰めた様子はその顔から消えていた。嗚咽を漏らしながら泣く陽太をガッチリと抱きしめて「俺のこと、怒ってないの?」と聞いた。
陽太は、瀬川の胸に顔を埋めると「怒ってない!」と叫び、「いやそれ怒ってるじゃん」と返した瀬川に「怒ってないってば!」と言い返した。
瀬川は、そんな陽太を強く抱きしめると、「良かった……。ありがと、陽太」と安堵の涙を流した。
陽太はそんな瀬川のことを気にかけ、グスグスと鼻を鳴らしながらも顔を上げた。そして、泣き始めた瀬川の背中をポンポンと叩いている。それはまるで、母が泣いている子供を慰める姿に似ていた。
「上書き、してくれるんでしょ? 昨日のことを忘れられるくらい、いい思い出作ってくれるんでしょ?」
陽太はタカトに目配せをした。タカトはその陽太の様子を見て、ほっと息を吐いた。
「瀬川、きっと尻に敷かれるんだろうね」
そして、二人の様子を見ていると気が抜けてしまったのか、クスクスと笑い始めた。それに水町が肩をぶつけ、「上書きの話しといてよかったね」と呟く。タカトはそれに「だね」と返すと、二人は笑い合った。
——貴人様は、ウルを傷つけたものが百合子だとわかっていたから祓えなかったのか。
タカトは、抱き合う瀬川と陽太を見つめながら、そう考えていた。
百合子は誰を許せないんだろう。ヤトだけを許せないにしては、周りの人間を巻き込みすぎている。
そもそも、なんでここまで転生を繰り返してまで攻撃を仕掛けてくるんだろう。そこをクリアにしない限りは、ずっとこのままなのでは無いだろうかと考え始めていた。
——一度、きちんと整理して考え直そう。
「瀬川、お前貴人様を迎えにいくことって出来る?」
ウルは飛ぶことができる。昨日その姿で色々あっただろうが、呼びに行けるのは瀬川くらいしかいない。
「おう、出来るぞ。そうだな、今は鏡で呼んでもお応えにならないかも知れないから……。俺が行くのが一番早いかも知れないな。じゃあ、俺がいない間は陽太のことを頼んだぞ」
「わかった。任せとけ。……綾人が守ってくれるからさ」
タカトが戯けてそう答えると、「お前じゃねーのかよ」と笑いながら、瀬川は立ち上がった。
瀬川が陽太の髪をくしゃくしゃにしながら「じゃあ、待っててな」と言うと、陽太は瀬川に向かってニコッと微笑みかけた。そして、「いってらっしゃい」と瀬川の足をポンと叩いた。
瀬川は、想定外の出来事ではあったけれど、それが起きたことでより陽太との関係が深まったように思っていた。
——いやだけれど、ある意味百合子のおかげなのかも知れないな。
そんな複雑な思いに、瀬川は目を閉じた。そして、フーッと一息吐き出して、変化のための心構えをする。
大鷲が鳴くような声で小さく一声発したかと思うと、一瞬で猛禽類の目、長い髪、分厚い体と長い爪、そして、大きな翼を持った姿へと変貌した。そして、その姿で陽太を一瞥すると、今度は一声大きく鳴き、一瞬で窓をすり抜けて空へと飛んでいった。
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