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帰城2

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「おい、コラ奏多。何だこれ、どういう事だこれは。」
「ヨ、ヨハン……。」

低く地を這うような声がかけられた。当然の如く声の主は我等が班長さまである。
ガルシアさんと俺の間にずいっと身体を押し入れて、副兵士長さんから隠す様に立ってくれた。その際に手が離れたから少しだけほっとする。

「うちの者に何かそこまで接触される理由がありましたかな。副兵士長様には此奴がベッドから逃げない様に見張りのみをお伝えしたのですが。その際に仲良くなられたのでしょうか。」
「ファンゴさんの言う通りですね、その時にお近づきに……ねぇ、そうですよね?」
「えっ、あ、そう、ですかね?」
「こら、適当の返事しないで。」
「あ、アルフレッド……。すまん。」

後ろにいたアルフレッドが肩を掴んで来て、二人から数歩遠ざけるように誘導された。アトラもくっ付いており再度ヨハン達の元へ行くことは出来なさそうである。有難いと言えば有難いかもしれない。
涼は……と辺りを見渡してみれば。

「だとしても無駄にお兄ちゃんに接触し過ぎだと思います。ご存知かもしれませんが敢えて言います、彼も【聖女様】なんです。極力接触は控えて下さい!」
「おや、この方達は良いのですか?」
「一応はこの班の班長なので。班員が危険な目に遭ったらサポートするのが義務付けられてますから。書状もございます。ダニエル殿下とうちの局長のダイナーさんからの物です。なんなら、文句があるならダイナー局長に直接どーぞ。」
「ダ、ダイナーとは……あのダイナー・サーラか?」
「えぇ……そうですが。」
「………なるほど。それならば従っておこう。」

何か、あったんだな過去に。
あの人の事だ、やらかしてる……のだろうな。深くは考えないようにしておこう。振り払える火の粉は払っておくべきである。



結局その後は、俺の意見が通ったらしくアトラの住処の森へ行く事になった。
とは言っても後方支援組の軍員全員行く訳にも行かなかったので……どういう訳か副兵士長さんのみ俺達に同行する事に。それ以外の騎士団の皆さんは一足先に王宮へ帰城する形となった。
レッドウォール中心街での出来事があったので、そこを経由してブラッドドラゴンの森へ行く事は出来ない。致し方なく遠回りとなってしまうが中心街を外れた何も無い荒野を飛んで行くこととなった。

「逆にこのルートの方が早く着く可能性があるけどなぁ。単独浮遊出来るやつが増えたし、運搬量も多目に運べるし……。」
「確かに、ヨハンの言う通りかもな。ここまでの人の気配のない荒野なら聖女様!!って邪魔されることもないしね。」
「苦労したかいがあったね、お兄ちゃん!」
「…そういうことにしておくか。」

ヨハンの言う通り、俺と涼がボード無しでも飛べるようになった為に二人で一つの荷物を運ぶのではなく、一人一つずつ荷物を運べる様になったのだ。
俺達は帰城するが、中心街で物資を調達する事が出来ないので後方支援組の人達から人数分の物資を頂いた。それを来る時よりも分担して運搬出来るので全体的に身軽になっている。そのため移動速度も上げられる。
ガルシアさんに至っては流石に浮遊する程の魔力は無いみたいで、アルフレッドの後ろに張り付いていた。ちょっと涼が嫌な顔をしていたが、移動に関して俺達は彼の事を気にしなくていいのは不幸中の幸いである。本当に涼と彼のバチバチ具合が酷いのだ。

「本当に予定よりも早く到着しそうじゃない?もう見えてきたよ。」

アルフレッドの言う通り遠くにオアシスの如く、茂った森が見えてきた。変わらず周辺は乾ききった大地だと言うのに、あの森だけは別世界のようである。

「…到着したな。中に入るのはどうする?全員で行くのか?」
「前回と一緒のメンバーで行こう。いきなり知らない人間が入ったら向こうも困るだろう。」
「私は同行させて欲しいのですが、よろしいでしょうか。」
「「「「は?」」」」
『え。』

前回の訪問で分かったが、彼等は基本的に排他的な思考にある。故に、異種族の介入に対して良い顔をしない。だからこそ余り刺激をしたくないのだ。それをヨハン達もそう伝えていたのだが…ガルシアさんはどういう思考でそんな発言をしてきたのか。

「ガ、ガルシアさん?」
「言いたいことは分かりますし、理解もしております。ですが、我々騎士団は王宮より【聖女様】の護衛を優先にさせるように仰せつかっております。」
『けど、こいつらつよいぞ?』
「勿論それも承知しております。」
「ヨハン、どうする?」
「……副兵士長様は自身を護る術はあるんですか?」
「無論。日々そういった訓練はしておりますので。そこは安心していただければ。そうですよね、涼様?」
「……そう、ですね。」



何を言っても譲る気は無いというのは誰でも肌で感じることが出来た。

「随分と空気が澄んだ場所なのですね。心身ともに浄化されそうな。」
『母様がつねに浄化しているんだ。母様いわく、僕達は不浄?があると力がはんげんしてしまうらしい。』
「なるほどね。アトラのお母さんはみんなの為に頑張ってくれてるんだね!」

それじゃぁ尚のことよく分からない人種がいると、アトラママの機嫌が悪くなるんじゃ…とそこまで考えたがやめた。
こうなってしまったのだから仕方がない。なるようになれ、と若干投げやりに思考を転換する事に専念した。
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