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討伐完了3
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義妹が叫ぶかのように詠唱を唱えた。
聖女と呼ぶには荒々しくもあるが、それがまた彼女らしくて口角がつい上がってしまう。
空に拡がる魔法陣は虹彩を焼き切らんばかりの光を放つと、時期に収まり辺り一面には元のレッドウォールの荒野へと戻っていた。魔獣も瘴気の沼も台風も無い。
「お、終わった……?」
『おわった。討伐完了、だな。』
「そう、か………………。」
『…………あちゃ~。』
アトラのその囁きにほっとしてしまった。
「あれ?」
「…………奏多ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!てんめぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「いだっっっっ!?!?!?!」
パチッと瞬きをしたと思ったら、頭に一発拳が入っていた。そして般若の表情をしたヨハンが鼻息荒く俺を見下ろしている。
これは……どういうことなのだろうか。
いや、徐々に鮮明になっていってる意識が警鐘を鳴らしている。これはもしかしなくても……。冷や汗が身体中に伝う感覚がリアルだ。
「やっちゃった……?」
「やっちゃった、だね。でも、今まで以上の結果だと思うよ。誇っていいんじゃない?」
「い、嫌味ーー。アルフレッドの嫌味久々過ぎて凄く刺さる。」
「抜けないで欲しいよ、一生。」
鼻に抜ける薬品の香りや、ベットの簡素的な質感からしてここは後方支援組の医療テントだと判断できる。
あの後完全に俺自身気が抜けて意識を飛ばしてしまったようだ。身体全体が悲鳴を既にあげていたのだから、そうなってしまうのも無理はない……な。それを知った上で二人に血液を譲渡したのだ、俺としては後悔は無い。必要だからそうしたまでだ。
「どれくらい意識飛んでたんだ?」
「お前達がここに到着してからで考えると……半日くらいか?あのエルフの時に比べれば軽く感じるかもしれねぇが。日常的に突発に意識を飛ばすだなんておかしいからな!!!!」
「ご、ごもっともッス。」
「無事では無いが……比較的一人を除き軽傷で済んだのは上々だ。ここに駐在している兵士達であれば過半数が敗れていただろうよ。」
涼とアトラがいるか周囲を見渡す。
二人は少し離れたところの椅子に腰掛けており、心配そうに此方をチラチラと見ていた。俺と視線が合うと嬉しそうに安堵を混ぜた微笑みをくれた。
どうやら兵士達から事情聴取なるものをされているらしい。
「お前達が戦場へと出てから頻発に変な光やら暴風やらが起きているから、流石の兵士達も気になっていたみたいだぞ。」
「……俺自身も驚いていたよ。」
「だろうな。大まかな流れはあの二人から聞いているから何をしでかしていたかは理解はした。一先ず、お前は帰還するまでは療養に専念するんだな。後方支援組の代表の兵士長様からのお達しがそう出ている。」
「わかった……、ヨハン。」
「ん?」
「……その…………ごめんな?」
「はぁぁぁ……そう思うならば、するな。良いな?」
「…………善処する。」
「はいはい。」
班長の彼はそう言って何かを諦めたかのような、小さい子を見るような目で俺をみて笑っていた。
ポン、と今度は痛くなく軽く手のひらで頭を撫でられたのだった。
「それでは、奏多さん。医療班からの診察も問題ないようですね。前線部隊の方ももう時期今回の任務が終わるようですので、それを目処に帰路へ着いていただいて問題ありませんので。」
「わかりました。……あの兵士長さん。」
「何でしょう。」
「あー……えっと、涼達は?」
「あぁ、もうすぐ戻られますよ。やるべき事をやってくると意気込んでおりました。」
……あれか。
出発前に瘴気の沼の浄化と、もう一つやりたかった事。
傷を負った者の手当て。
まだまだ彼女達も休むべきだと言うのに、考えるよりも身体が先に動いてしまっているようだ。俺が見張ってやんないと、また無茶をする。
そう思い、今まで横になっていた身体を起こしてベッドから降りようとした。
「っえ?」
「奏多さんは聖女様達が来るまではここにいてください。」
どういう訳かニコニコした表情で兵士長さんが俺がベッドから降りないように、覆い被さるように押さえ付けてきた。無駄に整ったイケメンフェイスが眼前に広がっていて、視界の暴力が過ぎる。
「わ、わわわかりましたから!!」
「ならば結構です。ファンゴさんから事前に言われておりましたので。何かと理由をつけて脱走する可能性があるから見張っておけと。」
「……わぁ。」
「ですので、私がこうしている訳です。序に奏多さんの事を知るいい機会ですしね。」
俺の上から降りると、そのまま大きな傷跡だらけの両手に俺の両手がスッポリと収まってしまった。
王宮お抱えの副騎士団長。
確か……名前はルーカス・ガルシアさん。身長は一番背が高いヨハンよりも上で俺からしたら巨人だ。
後ろに流したブロンドヘアに茶色い瞳。女性受けしそうな甘いマスクのただのイケメン。それなのに将来有望の副兵士長。しかも人が良さそう。こうもハイスペックだと嫌味が無くなってくる。
「あ、あの?」
「もう少しだけ、お話しませんか?」
「えぇーーと。」
「そのお話にはもちろん私も混ざりますからね!!!」
「……聖女様、もう少し落ち着いてお入りください。」
「私の兄の危機を察知し急いできましたので、申し訳ないです。」
「…………兄?」
「そうです、私の大切な兄です!離れて下さい!!」
「あの、二人とも?」
元より開かれていたテントの出入口から、滑り込むように義妹が勢い良く入り込んできた。表情が芳しくなく、肩で息をしている。可愛い顔が可愛くなくなっているのが気になるんだが。その顔を向けられている美形兵士長のお顔も人形の様に真顔だ。
美人二人が睨み合うと迫力も二倍になるのだと知った。
聖女と呼ぶには荒々しくもあるが、それがまた彼女らしくて口角がつい上がってしまう。
空に拡がる魔法陣は虹彩を焼き切らんばかりの光を放つと、時期に収まり辺り一面には元のレッドウォールの荒野へと戻っていた。魔獣も瘴気の沼も台風も無い。
「お、終わった……?」
『おわった。討伐完了、だな。』
「そう、か………………。」
『…………あちゃ~。』
アトラのその囁きにほっとしてしまった。
「あれ?」
「…………奏多ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!てんめぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「いだっっっっ!?!?!?!」
パチッと瞬きをしたと思ったら、頭に一発拳が入っていた。そして般若の表情をしたヨハンが鼻息荒く俺を見下ろしている。
これは……どういうことなのだろうか。
いや、徐々に鮮明になっていってる意識が警鐘を鳴らしている。これはもしかしなくても……。冷や汗が身体中に伝う感覚がリアルだ。
「やっちゃった……?」
「やっちゃった、だね。でも、今まで以上の結果だと思うよ。誇っていいんじゃない?」
「い、嫌味ーー。アルフレッドの嫌味久々過ぎて凄く刺さる。」
「抜けないで欲しいよ、一生。」
鼻に抜ける薬品の香りや、ベットの簡素的な質感からしてここは後方支援組の医療テントだと判断できる。
あの後完全に俺自身気が抜けて意識を飛ばしてしまったようだ。身体全体が悲鳴を既にあげていたのだから、そうなってしまうのも無理はない……な。それを知った上で二人に血液を譲渡したのだ、俺としては後悔は無い。必要だからそうしたまでだ。
「どれくらい意識飛んでたんだ?」
「お前達がここに到着してからで考えると……半日くらいか?あのエルフの時に比べれば軽く感じるかもしれねぇが。日常的に突発に意識を飛ばすだなんておかしいからな!!!!」
「ご、ごもっともッス。」
「無事では無いが……比較的一人を除き軽傷で済んだのは上々だ。ここに駐在している兵士達であれば過半数が敗れていただろうよ。」
涼とアトラがいるか周囲を見渡す。
二人は少し離れたところの椅子に腰掛けており、心配そうに此方をチラチラと見ていた。俺と視線が合うと嬉しそうに安堵を混ぜた微笑みをくれた。
どうやら兵士達から事情聴取なるものをされているらしい。
「お前達が戦場へと出てから頻発に変な光やら暴風やらが起きているから、流石の兵士達も気になっていたみたいだぞ。」
「……俺自身も驚いていたよ。」
「だろうな。大まかな流れはあの二人から聞いているから何をしでかしていたかは理解はした。一先ず、お前は帰還するまでは療養に専念するんだな。後方支援組の代表の兵士長様からのお達しがそう出ている。」
「わかった……、ヨハン。」
「ん?」
「……その…………ごめんな?」
「はぁぁぁ……そう思うならば、するな。良いな?」
「…………善処する。」
「はいはい。」
班長の彼はそう言って何かを諦めたかのような、小さい子を見るような目で俺をみて笑っていた。
ポン、と今度は痛くなく軽く手のひらで頭を撫でられたのだった。
「それでは、奏多さん。医療班からの診察も問題ないようですね。前線部隊の方ももう時期今回の任務が終わるようですので、それを目処に帰路へ着いていただいて問題ありませんので。」
「わかりました。……あの兵士長さん。」
「何でしょう。」
「あー……えっと、涼達は?」
「あぁ、もうすぐ戻られますよ。やるべき事をやってくると意気込んでおりました。」
……あれか。
出発前に瘴気の沼の浄化と、もう一つやりたかった事。
傷を負った者の手当て。
まだまだ彼女達も休むべきだと言うのに、考えるよりも身体が先に動いてしまっているようだ。俺が見張ってやんないと、また無茶をする。
そう思い、今まで横になっていた身体を起こしてベッドから降りようとした。
「っえ?」
「奏多さんは聖女様達が来るまではここにいてください。」
どういう訳かニコニコした表情で兵士長さんが俺がベッドから降りないように、覆い被さるように押さえ付けてきた。無駄に整ったイケメンフェイスが眼前に広がっていて、視界の暴力が過ぎる。
「わ、わわわかりましたから!!」
「ならば結構です。ファンゴさんから事前に言われておりましたので。何かと理由をつけて脱走する可能性があるから見張っておけと。」
「……わぁ。」
「ですので、私がこうしている訳です。序に奏多さんの事を知るいい機会ですしね。」
俺の上から降りると、そのまま大きな傷跡だらけの両手に俺の両手がスッポリと収まってしまった。
王宮お抱えの副騎士団長。
確か……名前はルーカス・ガルシアさん。身長は一番背が高いヨハンよりも上で俺からしたら巨人だ。
後ろに流したブロンドヘアに茶色い瞳。女性受けしそうな甘いマスクのただのイケメン。それなのに将来有望の副兵士長。しかも人が良さそう。こうもハイスペックだと嫌味が無くなってくる。
「あ、あの?」
「もう少しだけ、お話しませんか?」
「えぇーーと。」
「そのお話にはもちろん私も混ざりますからね!!!」
「……聖女様、もう少し落ち着いてお入りください。」
「私の兄の危機を察知し急いできましたので、申し訳ないです。」
「…………兄?」
「そうです、私の大切な兄です!離れて下さい!!」
「あの、二人とも?」
元より開かれていたテントの出入口から、滑り込むように義妹が勢い良く入り込んできた。表情が芳しくなく、肩で息をしている。可愛い顔が可愛くなくなっているのが気になるんだが。その顔を向けられている美形兵士長のお顔も人形の様に真顔だ。
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