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前線レッドウォール8

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一先ず先程の大爆発な場所から離れて、街外れの喫茶店に身を隠した。
比較的に中央街とは距離があり、人気が無い。…というよりも、討伐戦線と近いから皆怯えて離れていってしまったのだろう。ここの店が開いていたのが奇跡だ。客は俺達意外誰も居ないが。

「んで、二人はあのお客さん達と何があったんだよ。」
「あー…それであの突撃があったのか。アレね。単なる不良一味みたいな感じだったんだよ。」
「不良?」
「そう、アレだけ栄えてる街でもやっぱり自分達の近くに怖い奴等がいるとストレスが溜まるんだろ。」
「だからといって二人に当たるなんて…おかしいだろ。」

そう言うと二人は苦笑していた。
八つ当たりをされているのだ、嬉しくもなんともない。寧ろ迷惑である。いつ自分達の街に正気で出来た魔獣達が襲いかかって来るのか分からないという恐怖心は理解出来るが…。だからといって何をしても許されるわけじゃないんだ。配達しねぇぞ!!と言いたくなってしまう。

『それで、これからどうするんだ?のこりの物もまだあるだろ。』
「…本当に、どうしてくれようか。アレでも適当にあしらっていたんだがな。お前らが余計なことしてくれやがったからあの周辺に俺達が行けなくなったじゃねぇか!!!」
「あだっ!!」
「いてっ!!」
『んぐっ!!』

バシッと一発ずつ頭を叩かれた。
痛い、地味に痛い。

「い、いや俺達もまさかあぁなるとは。」
「そうだよ!でも向こうから喧嘩ふっかけてきたんなら、私達がコソコソする必要無いよ。またなんかあったぶっ飛ばし
てやれば良いと思う。」
『僕もそうおもう。』
「脳筋二人は黙ってろ!!!いちいち怖いわ!!!!」
「…でも、二人の言ってることも一理あるんじゃないのか。また絡まれた時は暴力でどうこうするんじゃなくて、それ相応に対応するのはありだと思ったんだけど。」
「奏多、あのな。俺達の仕事はなんだ。」
「ゆ、郵便局。」

溜息を一つ吐いて、席を立って俺の目の前に屈んだ。真剣な眼差しで俺を見上げてきた。思わず背筋が伸びてしまう。

「そうだ。俺達の仕事は誰のおかげで成り立ってると思う。」
「…郵便配達を望んでる人達。」
「だろ?その全てに対して丁寧に感謝しながら対応するって言うと、それは無理だと思うけどよ。俺達が預かっている誰かへの想いを綴た手紙は、必ず相手に届けなきゃいけねぇんだ。その想いを信頼を俺達に預けてる事を忘れるな。それに応えるのが、俺達だ。」
「…分かってるけど、でもやっぱりさっきのやつらの対応は何とかするべきだと思うけど。」
「分かる。でも、あそこで俺達が手を挙げたら…もしかしたら街から出禁にされる可能性もあるんだ。違う郵便局員に回されるかもしんねぇ。そうなると今日持ってきた配達物は予定を大幅に遅れる事になる。受け取り側を長く待たせることになるんだ。俺達は常に最悪な事態を想定しながら考えなきゃいけないんだ。分かるな?」
「…それは、そうだ。」

こんなこと、元の世界ではほぼ無かったから対応の仕方が上手く思いつかないのが正直な所である。
良くも悪くも、対面対応が減ってきていた世の中であったから。クレーム…というか喧嘩腰で来られる事が珍しい世の中だった。
こちらの世界には稀にこれに似た事件を耳にする事があった。治安そのものが悪い…というか、素直な方々が多いのだ。それに加えて血の気が多い方も。ヨハン達はきっとそれに慣れているのだろう。だから耐える事が出来るのかもしれない。

「…ヨハンとアルフレッドは辛くないのか?」
「腹は立つけどね。でも、気にしても仕方ないじゃん。だから、全部配達した後にやり返すよ。」
「勿論俺もだ。」
「ん?」

そう言って、二人がニヤリと笑った。
これは、嫌な予感がするんですが。

「やり返さない、とは言ってねぇだろ。」
「………まぁ、はい。」
「僕たちが持ってきたあの街の配達物全てを配達し終わった後に、倍にしてやり返そうと考えていたんだよね。僕達だけ理不尽な扱いをされるだなんて絶対に許さない。有り得ないでしょ。」
「当然だ。報いは受けるべきだな。そういう事だ、奏多。今回の件で少し奴等には警戒されてる可能性があるから、慎重に事は運ぶ様にな。そんで、お礼の内容を考えておけよ。そこの脳筋二人もだ。」
「おぉ!!!任せて!!」
『なるほど、そういうことか。それはすまなかったな。しっかりとかんがえておこう。』
「え、えぇ?良い話で終わるのかと…。」
「良い話だろ、俺達にとっては。」
「そうそう、最後に笑うのは僕達じゃないとね。」

まって。
色々とまってほしい。
お前らも中々やべぇじゃん??と叫びたい俺がおかしいのか。それともこの世界がおかしいのか。
涼に助けを求めたいけど、あの子大分血の気多いから何も言えない。やはり俺がおかしいのか。
もぉーーーよく分かんないけど。
でもヨハン達に嫌な思いさせた報いは受けて欲しいので誰もおかしくないって考えを改める事にした。

さっさと配達を済ませる為に俺達は各自分担する事に。
魔獣討伐と、喧嘩を売ってきた彼奴らの討伐に勤しむために着実にタスクを減らす。真面目に業務に専念する事にした。
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