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出来る事を6

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俺から離れると涼ちゃんは自分の指先を切れた瞼に乗せた。すると瞬時に流れ続けていた血液が停り、瘡蓋となっている。血液は停めることが出来るが、傷自体は治せないみたいだ…。敢えて直さないのか、止血魔法しかまだ会得していないのか定かでは無い。

フェリシアさんは先程の自身の血液を使った攻撃により、涼ちゃんの鎖を破壊出来たようで砂埃を払いゆっくりと立ち上がっていた。この部屋に訪れた時のような和やかな笑顔はそこには在らず、真顔。だがエメラルドの瞳は変わらず煌々としている。

「ここまで出来るとは。噂によれば今回の聖女様は戦闘が苦手だと聞いたけれど、噂は所詮噂という事ね。」
「褒めて貰ってるのかな?ありがとう。」
「えぇ、お礼も差し上げますわよ!!!!!」
「っ!!!!」

フェリシアさんが腕を上げる。
すると彼女の周りに小さなナイフのような物が無数に出現した。空間を割くかのようにそのまま真っ直ぐ振り下ろす。
涼ちゃんの特攻とは段違いな速さで彼女…引いては俺に向かいその刃達は向かってきた。
あぁ、これは流石の涼ちゃんでも無理だよな…そう思った。

「私とお兄ちゃんは貴女に絶対負けないよ!!!!!!!」
「ほざけ!!!!!!!!」
「?!!?!」




ヤバい、そう思いまた情けなく瞼を強く閉じたが…。いつまで経っても来るであろう衝撃が来なかった。
義妹の咆哮とも呼べる声が鼓膜を震わせたのは分かったが、なぜ衝撃がこない。

「涼?……涼っ?!?!」
「ゴフッ…ふふん、やっぱり呼び捨ての方が良いね。」
「待ってくれ…まってよ…なんで??」

目の前には身体中血まみれの妹が手を広げてそこにいた。
背中…いや身体中あちらこちらにフェリシアさんが投擲したナイフが無数に刺さっていた。立っているのも不思議なくらいだ。真っ白なローブが…彼女の鮮血によって染め上げられていく。頭にも傷が出来ているのだろう、濡鴉の長い髪…その毛先に雫が出来ており音もなく俺の頬に落ちた。
その様が余りにも痛々しくて見てられなくて、視界が徐々に水没していく。

「あぁ………あぁ……っすず…。」
「泣かないでお兄ちゃん。…平気だよ、痛くないもん。」
「え?」
「あのエルフさんは私を甘く見すぎた。…そして傲慢が過ぎたんだ。」
「どういう…。」
「ふふっ、エルフさんは初めに何をしたか覚えてる?」
「初めって…この部屋に来た。」
「そう、その後は?」
「……俺の、血を。」
「そう、そうなんだよお兄ちゃん。あのエルフさんはお兄ちゃんの血液を摂取した。そして、その血液の持ち主は私のことを大切にしてくれている…そうでしょう?」
「……当然だ。」

そういう事か。
腕を下ろし、今にも倒れそうな涼。
彼女を支えるようにその場に立ち上がり、彼女を後ろから包み込む様に腕を回した。スリスリっと子猫が飼い主にじゃれつくみたいに、腕に頬を柔く擦っていた。可愛いなぁ、とか少し思ってしまったが頭を振りかぶり邪念を消した。
自分の身体の怠さはもう無い。一先ずは何とか動けそうである。

「わぁ…何だかロマンチックぅ。」
「はしゃぐな、危ないだろ。」
「んふふ。はぁい。」

ナイフ投擲により起こされた砂埃が少しずつ落ち着いていく。それにより視界もクリアとなっていった。その先には…やはりいたエルフ。
逃げる事は無いな…再確認した。

「あらぁ、あらあらあら?もう動ける様になったの。ざぁんねんだわ。」
「あぁ。…妹が回復まで時間を稼いでくれたからね。」
「ふんっ、それをまた削っていけるのだと思うと楽しみで仕方がないわね。」

ギュッと腕の力を篭める。
その腕にそっと妹の手が重ねられて、手のひらの熱が俺に伝わってきた。

「んっ…、ちょっと苦しいかも。」
「ご、ごめん。」
「えへへ、それだけ集中してるってことだから大丈夫。」
「…まぁね。…それじゃぁ返してもらおうか。」
「うん。」
「返してもらう?」
「俺の…血液をだ。」

今まで注視していたフェリシアさんの顔から首から下へと視線をずらす。瞳を瞑り彼女の身体に巡る自分の血液を辿る。想像しやすいように右手を握る。風を集めるかのように、手中に収めるかのように。そうイメージをする。
こんなこと今までしたことが無いが、イメージとしては普段使用するボードへと送る風魔法だろうか。それしかしたことが無いからそれしかイメージできないというのもあるのだが。イメージがちゃんと魔法に乗っているようで、二人の周囲に風がそよそよと靡いていた。

「……んんんっぐ、ぐぁっは?!!?!!い゛だい!!!痛いいたいいたいいたい!!!!!!!!」
「ーーーー。」

劈く叫び声に反応し、パッと世界を覗く。目の前のエルフの口から耳から瞳から、全ての部位から赤く噴水の勢いで血液が噴き出しては、それ等が俺の方へと向かってきていた。
意識してい無かったが、あんなにも俺は吸われていたのだと思うとゾッとせざるを得ない。

「これを…渡すよ。」
「う、うん!!」

上流の水が下流に流れるかのように、持ち主である俺へと血液達はこちらに向かってくる。それを眼前にて停め、円形上に貯めていく。
流石に何百リットルとまではいかないがそこそこ溜まっていた。それを涼の口元へと誘導させ、少量ずつ飲ませていく。
義妹なのだから有り体に言えば他人である。衛生管理とか副反応とか色々と頭の中で過ぎるものはあったが、今手っ取り早く彼女を回復させるにはこれしか無かったし、涼本人もこれを望んでいた。

「んんんっ、鉄の味しかしないけど…嫌いじゃないかも。」
「レバーとか好きなのかな?」
「違う!!そうじゃないの!!!」
「??」
「…もぅ。まぁ、いっか。妹涼回復しました!!」
「良かった。」
「ふふん、反撃開始だよ。エルフさん。」

身体中に拡がっていた傷口も瞼も込みで全て綺麗さっぱり治っていた。
反対にフェリシアさんはあらゆる箇所から血液を強制的に抜かれていた衝撃により、皮膚がズタズタになっている部分が見えていた。
自分のせいであると理解はしているからこそ、罪悪感は拭い切れない。
だが。
これはきっと乗り越えなければいけない、そういうものなのだと自分に言い聞かせた。
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