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出来る事を4

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「それで、本日の就業後にそのフェリシアとやらが奏多の所に訪れて魔力を吸いに来る、と?」
「はい…。」

はぁ…とそれはそれは深いため息を我等が局長であるダイナー様が吐き出した。俺ももし部下がそんな事を言ってきたら、多分間違いなく同じ事をするだろうなぁーとか現実逃避で考えてしまった。
隣で涼ちゃんは俺と局長を心配そうに見ていた。彼女には一足先に俺の部屋で休んでいて欲しかったので言いつけておいたのだが、有無を言わせない圧力でピッタリと物理的に俺に張り付いてきてここまで来てしまった。

「ヨハンからはダイナー局長に伝えて何とかしてもらえと、そう言われてます。」
「と言われてもねぇ…エルフでしょ?魔力ヒエラルキー上位じゃないの。ただ筋力しか取り柄のない私には手に余るわ。出来るとしても…盾になるくらいしか。」
「盾になるって…身体で?」
「それもあるけれど、騎士団員の十八番魔法は防御魔法なのよ。生き残り続ければ少しでも相手に攻撃を追わせることが出来るし、言葉通りに盾になって瀕死の仲間を救える事も出来るっていう考えね。死ぬよりかは何倍も良い。」
「確かに、それはそうですね。」

それならば、何とかなるのか?
いやでも、局長に盾だけを任せるのも申し訳ないし…。

「あの、防御魔法って具体的にはどんな?」
「…そうねぇ。自身の体に纏わせるのもあるけれど。ペンダントやアクセサリーに魔力を吸わせて保険にしておくものもあるわね。」
「保険?」
「そう。いざ戦闘に入って体力も魔力も枯渇した時に使うのだけど。事前に吸わせておいた防御魔法のアクセサリーを壊すことによって発動させるの。よく最後の最後にその魔法を纏わせながら戦線離脱したものだわぁ。」
「……なるほど。」
「奏多?」
「使えそうだな、と。」




「こんばんは。」
「……本当に来たんですね。」
「そういうお話だったわよね?」
「そうですね。」

まだ深い夜、という訳では無い。
現代の時間で言えば恐らく二十一時頃だ。本日も晴れており星や月の煌めきが部屋の中まで届いていた。
事前に鍵は全て施錠していたが、ふと意識を別な所に向けていたらこれだ。微笑を浮かばせたフェリシアさんが窓辺に立っていた。彼女の身に染みているのだろうか、ハーブの爽やかな香りが部屋に降り注がれた。
室内は最低限の照明しか付けていなかったから、目を凝らさなければ輪郭が分からない。だが、彼女のエメラルドの瞳が嫌に輝いているのだけはよくわかる。

「良い夜ね。」
「風も強く吹いていないですし、穏やかですよね。」
「えぇ。…それじゃぁ、お約束の通りに頂いても?」
「っ、はい。」

距離があったのに、それを一息で互いの息が掛かりそうな位まで詰められてしまった。こればかりは何回食らっても慣れない気がする。心臓がバクバクする。
首元にそっと手のひらを添えられて、吐息が触れた。吸血鬼の様にそこから吸われるのだろうか。

「それじゃぁ、いただきます。」
「は、はぁい。」

予想した通り、首筋に歯を当てられ血を吸われている。本当に吸血鬼じゃないか。てっきり魔力を吸う魔法を使われるのかと思ったが、血液ごと持っていかれるようだ。これでは終わる頃には血が枯渇して動く事もままならないのでは無いだろうか…。

「俺が、死なない程度に抑えてくれるんですよね?」
「んーどの程度なのかあまり分からないの。もしも…って言うこともあるかもしれないから、気をつけてね?」
「フェリシアさんの方で気を付けて頂けませんか。」
「どうして?貴方の身体でしょう。貴方が気を付けたら良いでしょう。」
「…ですが段々と意識がぼやけてしまいますが…。」
「……ふふっ、知らないわぁ!!!!」
「んっぐっ!!!!」

再度噛み付かれたが、先程の比じゃない…。
思っいきり口を広げたのか広範囲で、より深く噛み付かれてしまったようだ。
これは、まずいな。
どくどくと首筋が脈打ち、意識が飛びそうだ。これじゃぁ元から全てを吸い尽くす気しか無いみたいな…。いや、そうなのだろう。血液に関しても、フェリシアさん自身の魔力を消費しないで手ごろに採れるやり方なのだろう。ついでに相手の体力も減らせるし、死ぬまで奪える。
そうか、初めから俺の事を殺す気なのか。

「……ならば、話は変わりますよね。」
「?」

自身の右手を少し上げる。
その手のひらの中には淡く白く輝く薄い硝子が収まっていた。それを僅かな力を込めて握り潰す。
パリン、鈍い音が響き手のひらが数ミリほど傷付く。だがそんなことは構わない。瞬間、部屋中の空気が上部へ集められる。部屋の中の物が音を当てて浮き上がり乱雑に散らばっていく。

「…なに?!?!」
「っはなっからこれを狙っていたアンタにはお仕置が必要だと判断した、それだけです!!!」

フェリシアさんの真上から白い破片が降り注ぎ、彼女の身体が勢いよく俺から剥がされ元いた窓際まで追いやられた。
そして、俺の胸元には。
半泣きの義妹。

「ぐぁっ?!!?!」
「お兄ちゃんを殺させないんだから!!!」
「…涼ちゃん。」
「遅いよ呼ぶのが!!!こんなに血ぃ流して!!!身体張りすぎ!!!!!!」
「ご、ごめんて。」

先程の小さな硝子の破片で彼女を呼び出し、フェリシアさんと対峙する。
ここまでは作戦通りである。
あとは…。

「任せたよ、涼ちゃん。」
「………任せて。」

義妹次第である。
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